神様と異世界旅行

ダグドガ星 神様、秘密の会話(1)

茜(あかね)は盾(たて)、ミリスとデミルが寝静まった頃、焚き火の側で日本酒を嗜んでいる。
彼女が100年前に味わった時よりも癖が無くなっており、飲み安く口当たりがまろやかになっていた。
茜は直ぐに好きになり、色々な種類の日本酒を盾にねだり仕入れて貰った。
盾が寝る前に茜に、飲み過ぎない様にと言われたのを思い出し苦笑する。
その為、目の前に中型の一升瓶が折り畳み式のテーブルに一本だけ置かれている。

「私も頂いて、良いですか?」

横を見ると、周りを散策していたセレンが立っていた。
セレンは感情はあるものの、表情にあまり出さない。
出さない訳ではなく、出し方を忘れたと言った方が良いのだろう。
勿論、盾は知らない事だが。
茜は頷き、テーブルに置いてあるセレンのグラスに酒を注ぐ。
セレンは茜に礼を言い、茜の隣の椅子に座り酒をチビチビ飲む。

「盾様は面白いですね」

不意にセレンはポツリと言う。
茜はクックッと楽しそうに笑い、テントに視線を向ける。
思い出すのは、初めて盾に会った時の出来事。
恐怖に駆られた者は普通、逃げたり隠れたりするものだ。
なのに、自分の目の前に出て来た。
足は震えていたが、確かに姿を表した。
茜は更にクックッ笑い、セレンに視線を戻す。

「盾はのう、大衆に流されるのは嫌だと言っておったからのう」

セレンは茜の言葉にフムと息を付き、言う。

「それは面白いですね。人とは大なり小なり、大衆に流され生きていくものですが」
「そうだのう?そんな者が人生においてどんな選択をしていくか、考えると面白くはないかのう?」
「・・・それで、契るのは早計なのでは?」

茜はセレンの言葉に一瞬、目を見開く。
そして、苦笑する。
本来であれば眷属にするだけであれば、玉を埋め込むだけで良い。
そして、それは主従関係を決定してしまう。
眷属とは、本来そういう物だ。
だから対等な会話、行動はあり得ない
だが、玉に名前を書き込んだ場合。

夫婦(めおと)、つまり対等な存在に変化する。

茜は頬をカリカリと掻くと、苦笑したまま言う。

「なんと言うか、のう。正直、勢いだのう」

セレンは首を傾げる。

「勢い、ですか?」

茜は困った様に微笑み、頷く。

「なんと言うて良いものかのう。こう、なんだのう。コヤツだって感じかのう」
「それは・・・」

と言い、セレンは口を閉じ首を横に振る。
それは一目惚れではないか、と思ったからだが。
だが、この龍神が一目惚れ何てするのだろうか?
表情を見た限り、惚れたと言うよりも好奇心が勝っていそうだ。
前例が無いわけではない、が。
口を急に閉じたセレンを茜は首を傾げて、不思議そうに見る。

「どうしたのかのう?」
「いえ・・・それより、盾様はこの事を知らないのですよね?」
「ん・・・んむ、その・・・のう。ほ、ほれ・・・盾も困ると思うでのう」

平静を保とうとしながら弁明をする茜を見て、セレンは、あら?と思う。
それは照れているのか、迷惑が掛かるからなのか、判断する為にセレンは茜の顔をじーっと見る。

「な、なんだのう?」
「いえ・・・」

なので、判断材料を投下する。

「それにしては、甘えていらっしゃいますよね。語尾に付ける「のう」が、私の時より盾様の時の方が甘えている感じがしますが?」

ちなみに、茜が他人に語尾に「のう」を付ける事は余りない。
親しくなって心を多少なりとも許せる様になってから、語尾に「のう」が付いてくる。
その証拠に、ミリスやデミルとの会話には語尾に「のう」が付いていない。
正直な話しセレンは、甘えている様に聞こえるのだ。
セレンの言葉に茜は目を丸くすると、軽くアタフタする。

「い、いや・・・おねだり、というかのう?」
「おねだり・・・?」

何か可愛い事を言い始めた龍神を、今度はセレンが不思議そうに首を傾げて見つめる。

「財布を握ってるのは、盾だでのう。お、美味しそうな物が増えておったし・・・」
「・・・」

これが怒らしてしまったら星をも消し去ると言われていた龍神の、現在なのか・・・とセレンは頷く。
この二人の今後を見るのも、楽しみの一つかもしれない、とセレンは思った。
それに、とセレンはもう一つ思っている事を口に出す。

「あと、盾様もかなり鈍いですよね。木刀振るの、集中力の鍛練としか思っていないですよ?」

茜は話題が変わった事にホッと胸を撫で下ろし、酒を一口飲み悪戯っ子みたいに微笑み言う。

「気付いたかのう?」

セレンは眉を潜め、抗議する様に言う。

「心外です、分かるに決まっています」
「悪いのう、そんな怒るでないのう?」

茜はお詫びのつもりなのか、セレンの空いたグラスに酒を注ぐ。
セレンもお詫びを受け入れたのか、再びグラスからチビチビと飲み始める。

「龍脈の力を自然に使える様にする為、ですよね」

正解だと言う様に、茜は楽しそうに微笑む。
そう、木刀を振るという日課があったから出来たこと。
なければ、無理矢理にも日課を作ってしまうつもりだったが。
茜はクックッ笑い、言う。

「今は振るのに必死でのう、周りが見えとらんがのう。慣れてくれば、自分の変化に気付くでのう?その、気付いた時の様子を、ワシは見たいんだのう」
「そんな表情ばかりしていると、隠しきれませんよ?」

茜はセレンの指摘に苦笑し、片手をパタパタと横に振り言う。

「いや、気付かぬのう」
「そうでしょうか?」

茜は頷き、呆れた様に思い出しながら言う。

「そうだのう。まだ、盾とは10日と少ししか一緒に居ないがのう、他人の事には鋭いのだがのう・・・自分の事になると、からっきしだのう」
「・・・そうなんでしょうね」

自分よりも少しとはいえ、付き合いが長い茜が言うのなら、そうなのだろうセレンは頷く。
茜は苦笑し続ける。

「記憶を見たから、言えるのだがのう。自己犠牲だけは止めて欲しいのう・・・まぁ、これからはワシが居るから注意はするがのう」
「・・・そうですね、私も注意はするでしょう」

だが、止まるかどうかは分からない。
茜はクックッと笑う、セレンはそんな茜を見て首を傾げる。

「まぁ、状況によるがのう?盾の判断には、凄く興味があるでのう」
「それは、確かに興味がありますね」

大衆に流されたくない、と言っている者の判断や決断に神属二人は凄く興味がある。
ガサガサッと、二つある内の女性用のテントがゆれる。
茜とセレンは、そちらに目を向けるとミリスがテントから出て来る所だった。
ミリスは眠そうに欠伸をし、茜とセレンを見付けると恥ずかしそうに茂みの方を指差す。
茜とセレンは微笑み頷き、ミリスはそそくさと小走りでそちらに向かう。

「しょ「お花を摘みに行ったのです」

茜の言葉を遮り、セレンは言う。
セレンはダイレクトに言おうとした、茜に困った様に言う。

「茜様、女性なんですから言葉は選んでください」

昔から、こういう所は変わらない。
出会った時もそうだったと、セレンは思い返してみる。
セレンは溜め息をする。

「盾様に嫌われてしまいますよ?」
「言葉使いでかのうっ?」

セレンは頷く。
そんなセレンを茜は見ると、またもやアタフタとし焦る。

「そ、そんな・・・」

セレンはそんな茜を見て内心、楽しんでいた。
以前の彼女を知っているからこそ、現在の変化に驚きよりも楽しさが勝っていた。
表情が表れさせれるなら、確実に満面の笑みになっていただろう。
セレンはこれも楽しみの一つに追加し、そろそろ助けに入る事にする。

「気を付けていれば、大丈夫ですよ。私も居ますし」
「本当かのう?」

涙目で上目使いに見ないで欲しい。
20歳前にしか見えず、綺麗の範囲に入る童顔でそんな事をしないで欲しい。
セレンは片手を額に当て、困る。
そして、あぁ盾はこんな事を毎回されているのだろう、と安易に想像出来た。

「本当ですよ」
「セレン、迷惑掛けるのう」
「・・・今更ですか?」

茜はしまった、と頬をヒクつかせる。
セレンはこことぞばかりに、姿勢を正し言う。

「覚えていない様なので、説明致しましょう」
「い、いや、大丈夫だのう」
「いえいえ、聞いてください。良い機会です」

茜は絶望の表情で空を仰ぐ。
そして、願う。
盾が起きてくる事を。

セレンの話しは長々進み、1時間近く経った頃に茜は途中で逃げた。
ちなみに、茜の願いは叶う事はなかった。


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