神様と異世界旅行

日課は怠らない

俺はガソリン式の草刈機を操って、頭位まで伸びた草を刈っていた。
あの、出来事から一週間。
俺は次の日、草刈機を買いに走った。
勿論、茜(あかね)さんも一緒に。
いや、お留守番をお願いしたのだが、まぁ無理矢理というか泣き顔になりそうだったので連れて行った。
茜さんが居た時代に比べて、かなり発展していたそうで、その日に帰宅したのは夕方だった。
いや~、やっぱり女性ですね。
甘いお菓子や、デザートなど連れ回されましたよ。
お陰で、冷蔵庫の横にある棚にはお菓子がたっぷりです。
その次の日から草刈を始めて、今は茜さん曰く半分以上は来たらしい。
草刈機を仕様した事があったのが、幸運だった。

草刈をしながら、茜さんは色々教えてくれた。

まず、茜さんは封印されていたらしい。
というのも、前任の家に住んでた者と決めて本人承諾の上の封印だったらしい。
細かくは聞くのは止めた。
少し悲しそうな表情をしたのを見逃さなかったから。

そして、その封印をしていたのが門の両側にあった石柱だった。
あの、黒い汚れは墨なんだそうだ。
ただし、ただの墨ではないらしい。
そう、楽しそうに笑いながら茜さんは教えてくれた。

次に家の事。
この家は、意思を持っているらしい。
自分の主足る者かどうかの選別、家の管理をしてくれているらしい。
時代に合わせて進化する機能付き。
そして主になった場合、家に入る者を『許可』しない限り入れない。
また『拒否』すれば家どころか、下手するとこの土地から一時的に追い出されるとの事。
そもそも、この土地は茜さんの力が深く関わっているらしく悪意を持った者は訪れないそうだ。
茜さん曰く関所として利用するには、その機能がないと色々まずかったとの事。

最後に、茜さんが俺を相棒に選んだ理由。
封印を解かれた茜さんは身体を慣らして直ぐ様、ここに来た。
封印が解かれた、つまりは新しい入居者がいるのだ。
茜さんの説明からして、家に選ばれないと主になれない。
茜さんはワクワク気分と少し威嚇をしに来たそうなんだが、俺の反応が予想と違い面白く思い勧誘。
本当は無理矢理言う事を聞かすつもりだったのを、茜さんはクックッ笑いながら教えてくれた。
あまりに、面白いから眷属にしてしまおう。
それが、初対面の状況だった。

眷属の証しとして。
俺の身体に、玉が埋めこまれているそうだ。
そう、あの時に見た藍色をした玉だ。
ただ物理的ではなく、精神的にらしいが。
眷属にするだけなら、何故名前を聞いたのか訪ねると。
そっぽを向いて「内緒だのう」と言われ、そこからは聞いていない。


俺は草刈機を一旦止め、後ろを振り返る。
茜さんが草刈機で刈った草を、せっせと袋に入れている。
茜さんの今の服装は、初対面の時の着物と違い浴衣の様な生地が薄い青白いのを着て襷掛けしている。
顔を見ると、少し汗ばんでるのが分かる。
う~ん、こんな人が無理矢理言う事を聞かす様な事をしようとした人・・・龍神様とはね、思えないよなぁ。
茜さんは俺が見ているのに気付くと、作業を止め何処から出したのか手拭いで汗を拭きながら微笑み言う。

「どうした、盾よ?」

茜さんは初対面の数日立ってから、俺の事を名前で呼ぶ様になっていた。
俺は頬を掻きながら言う。

「いや、その姿を見ると神には見えないなってね」
「そうかのう?昔の神は意外と下に降りて、こうしておったがのう」
「え、そうなの?」
「何を驚く?良く考えてみてのう、あんな何も無い空間に何年もいる訳がないのう。ましてや管理の為とはいえ・・・のう?」
「・・・何もないのか?」
「何も・・・だのう。あるのは球体のみだからのう」

茜さんは手振りで、これぐらいの球体と教えてくれた。
大きさはバスケットボール位だろうか。
俺は苦笑しながら言う。

「神も、楽じゃなさそうだな」

茜さんは苦虫を噛み潰した様に、片手をパタパタさせながら言う。

「楽じゃないのう。だから、神になりたい人の気持ちは少しも理解出来ないのう」
「神になったら、好きな様に出来ると思ってるからね」
「甘いのう、神にも役割がありそれを管理しないといけないでのう」
「何もない空間でね」
「そう、何もない空間でのう」
「茜さんは、管理は良いのか?」

茜さんは俺の問いに、楽しそうに笑い言う。

「この星でワシがしてやれることは、終わったでのう。後は人次第だのう」
「人次第・・・ね」

まぁ、俺には関係がない話だ。
茜さんは空を見上げると言う。

「盾よ、もう日が暮れそうだでのう、そろそろ日課の時間と思うがのう?」

そして、こちらを向き楽しそうにクックッ笑いながら続ける。

「この調子で二人で作業すれば、明日や明後日には開通するでのう」

俺は苦笑しながら草刈機を肩に担ぎ、家の方に歩き出す。

「あの木刀、未だに10回も振れないんだけど」

茜さんは隣を歩きながら言う。

「2日、3日で1回以上振れれば良い方だと思うがのう?」
「そうかな?」
「そうだのう、あれは特別製だでのう。普通の者は1回でも振れないでのう」
「ぇ、そうな物を振らされたのか?」
「普通の物では、鍛練にならんだろうからのう?」

そう、話してるうちに裏口に近付いてきた。
俺は家に草刈機を立て掛けると、茜さんがいつの間にか片手に持っていた黒い木刀を両手で受け取る。
ズシッという重さで腰が落ちそうになるが、なんとか踏ん張る。

「今日は目標は3回だでのう?」

俺は苦笑しながら言う。

「昨日迄は2回じゃなかったか?」
「目標を上げないと鍛練に、ならんでのう?」

確かにだが、その悪戯っ子みたいな笑顔は止めようか。
茜さんは両手をパンパンッと、叩く。

「ほら、早くしないと完全に日が暮れてしまうでのう?」

俺は歯を食い縛りながら木刀を構える。
そして、真面目な表情で集中する。
フッと、木刀が軽くなるのを感じ上段に移動させる。
そして、下段に振る。
それを繰り返す。
そうこの木刀、ただ振ると鉄の塊の様に思いのだが集中すると普通の木刀の様に軽くなる。
ただ、疲れる。
半端なく、疲れてしまう。
原理は未だに分からないが。
2回を振った所で、集中力が切れてしまいズシッと木刀が重くなる。

「最後だでのう?頑張らんとのう?」

俺は額の汗を気にせず、木刀を見ながら集中する。
集中力が足らないのか、中々軽くならない。

「木刀に集中するのではなく、両の手に集中するといいのう」

両手、か。
両手に、集中。
自分の体温、感触、木刀の触り心地。
フッと軽くなった瞬間、木刀を振る。
もう無理だ。
俺は地面に座り込むと、肩で息をする。
茜さんは満足気に微笑み、俺が地面に置いた木刀を拾い言う。

「今の感覚を忘れては、いかんからのう?色々と応用が出来るからのう」

俺は肩で息をしながら聞き返す。

「応用?」
「気付いてないなら、追々に・・・のう。盾も、その方が面白いはずだでのう」
「・・・際ですか」
「で、のう。お腹がのう。空いてきたん・・・だがのう?」
「・・・え?」
「お腹が・・・」
「いや、何度も言わなくていいから」

この龍神様、意外と人使い荒いぞ?
大丈夫か俺。
と、言っても茜さんの表情を見てしまうとこれがどうしようもなくなってしまう。
俺って、こんなに流され安かったっけ?
さて、落ち込み始めている龍神様の為に身体に鞭打って、もう一頑張りしますかね。

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