魔法の世界で、砲が轟く

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第七十六話 捕虜

 ハットラーが暗殺されたという大ニュースは瞬く間にジーマン国中に響き渡った。
 それは最前線にいるジーマン軍兵士達にもである。


「ハットラー総統が殺されただと……」


 真一が呟いた。
 それはあまりにも急すぎる出来事であり、真一達にとっては衝撃的な内容であった。


「……」


 司馬懿はこの一報を聞いて以来、黙り続けている。
 彼女が残念がっているのは別の意味だ。真一達はハットラーを失ったことを命の恩人が死んだという目で見ている。
 しかし、彼女はハットラーが死んだことにより起こる弊害の方を恐れていた。
 ハットラーはいわば、現時点における最大の真一達の後ろ盾の人物であった。もちろん多少なりとも存在するがハットラーに勝てる権力を持つ者など存在はしない。
 しかし、その後ろ盾を失った今、真一達は今まで以上に面倒な立ち位置になる。


 それを果してコントロール仕切れるか。


 司馬懿には不安でならなかった。前世もなかなかな政争に巻き込まれたがあれは自分で動けば良かった。しかし、今回は影で動くことしか出来ず、出来ることも限られている。そのような状況ではかばいきれない。
 そんな悲観的な考えが司馬懿を沈黙という行動に駆り立てていたのだ。


 現在、総統の職に代わりに付いているのがロットだ。
 ロットは老いを理由に政界を引退したのは以前書いていたとおりだが、ハットラーの遺書にロットが指名されており、国会もそれを承認したため彼は総統の座へ返り咲いたのだ。実際、現状の混乱した国政を抑えられるのは総統を経験していてかつ、様々な人材に顔の利く彼を差し置いて他はいないであろう。
 彼は一応は真一達の後ろ盾にはなってはくれているが、彼はかなりの狸だと言うことは司馬懿の直感が告げている。それゆえ油断はならないと思っていた。
 ロットはハットラー亡き後、彼が推進していた非常事態宣言を継承。国民もハットラーの演説により賛成が多数となり、ついに非常事態宣言の正式な公布となった。
 このことによりジーマンは総戦力体制が直ちに確立され、着々と軍事力も強化されていた。
 しかし、問題なのがハットラー暗殺の犯人が発見されていないことだ。
 現場からは軍用の拳銃が発見されており軍の関係者ではないかという説が随所で噂されていた。現在軍でも当日の関係者の動きを探っており、未だに犯人捜索が続いている状況だ。


「それにしても誰だ、総統を殺したのは!」


 真一は思わず怒鳴る。


「それは分かりません。それよりも我々はやらねばならないことがあります」


 司馬懿はひとまず考えることを中断し、やるべき事をリスト化していく。


「まず、前回の戦闘でフィーリアを捕虜にしました。彼女の尋問を行いたいと思います」


「ああ。奴か」


 守は険悪な雰囲気を漂わせながら言う。フィーリアは譲の殺害と李典隊襲撃事件、及びコットン国王殺害の犯人もしくは深く関わりのある人物と考えられており、聞きたいことは山ほどある。


「とりあえず、そこまで案内してくれ」


 そう言って真一は司馬懿に案内をしてもらう。






「こちらになります」


 そう言って通されたのはバラーの町の中央にある廃工場の一角であった。


「現在、ジーマン軍の方でも尋問を行っているらしく既にいくつかの事は分かっているようです」


 そう言って司馬懿は小冊子を渡した。
 そこにはコットン国王殺害と勇者が寝返った理由が書かれていた。


「これは……!」


 そこには衝撃の内容が書かれている。
 コットン国王殺害に関しては、かつてフィーリアが捕虜になった際に魔王と取引をしたことが書かれていた。
 その時に取り交わした内容はコットン国王の命と引き替えに魔王軍はコットン国から撤収する旨が約束されていたようだ。約束に用いたのはもし破った場合は命を代償にするという極めて重要な約束に使われる契約書を使ったらしい。
 また、勇者が寝返った理由としては魔王軍は実際に時空を転移させる技術は持っており、これを使うには条件があるようだ。その条件を呑むため、今魔王軍と協力し、何かを遂行中らしい。
 これに関してはフィーリアは詳しいことは知らないようで、これ以上の記述はなかった。


「それにしても良くこれだけの内容を話したな」


「ええ。出来れば彼女が余り傷つかずにいてくれると良いのですが……」


 司馬懿は顔をしかめながら言う。彼女の時代において捕虜の口を割らせるためには様々な手を使っている。
 同じ女としてそういったことになってなければ良いが、と暗意に言ったのだ。
 一応、彼女を捉えたのは第一独立師団の功績であり、ジーマン軍に引き渡す条件として極力傷つけぬ事を条件にしていた。
 しかし、口を割らない場合はそうするように仕向けるしかない。




 何十もの厳重な扉をくぐりたどり着いたのは小さな小部屋であった。
 そこに入るための扉の両脇には兵士が二人完全武装をして立っており、厳重な様子がうかがえる。


「どうぞ」


 案内の兵士が扉を指し、司馬懿達は中へと入っていた。

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