魔法の世界で、砲が轟く
第七十四話 ミンシュタインの返答
「統合本部から連絡が来た」
ミンシュタインが主だった将官を集めて言った。
彼が話している内容は援軍についてであるが、彼の表情はすぐれないものであり内容に関してはだいたい予測は付いた。
「可能な限り努力はするそうだが、実現は難しいようだ」
「そうですか……」
皆が思わず嘆息した。分かっていたことではあるが、やはり現実を突きつけられると厳しいものであった。
元々ここにいる誰もがこうなることを予測していたからこそ、開戦に反対であったのだ。しかし、それを抑えきれるほど軍務の力が強いわけではなく、国民の熱に押され開戦に到ったのだ。
「しかし、現状の戦力ではこれ以上の進軍は不可能です。このまま無理をして進めれば本当に取り返しの付かない事態になるでしょう」
司馬懿は冷静に戦力を比較して言った。
ジーマン軍は今回の戦力が全力であるのに対し、魔王軍は今回潰した兵力のさらにその数倍を保有するだけの兵力がある。
まず、その地点で兵力が違いすぎる上、ここから先は魔王領のさらに深淵。と言うことは魔王軍に圧倒的な地の利がある。これらの点を加味すると伸びきった補給線と連戦による疲労で指揮が落ちており、戦力すらすり減ったジーマン軍では対抗する術がないことは明白であった。
元々は包囲殲滅が作戦の根本にあるが、ジーマン軍がそれをやろうとするにはあまりにも戦車の数が足りない上、ここから先に控える魔王軍の精鋭には太刀打ちできない可能性が高い。
最早、ジーマン軍にこれ以上進む事ができないのが現状だ。
「しかし、ここで進軍を止めれば国内では軍は情けないという世論がわき起こるでしょうな。場合によっては更に強行的な路線を敷く野党に国民が付き、内閣の総辞職を求めるでしょう」
ミンシュタインの補佐を行う政治将校が言った。政治将校はここでは、政治的な動きが軍隊にどのような面で影響を与えるかを見極め、軍事的な行動を補助する役目を担っており、その力は極めて小さいものである。
「ふむ」
ミンシュタインは様々な意見を聞きながら小さく返事をしてまぶたを閉じる。
彼はあくまでも軍人であり、政治には常に一線を引いてきた人間だ。上(政治家)の命令があればたとえどんな死地にでも赴く覚悟は出来ている。しかし、今回のように兵士を無駄に死なせるような可能性のある真似だけは何としても避けたいと考えていた。
「私はこれまで数多くの戦を経験してきた。しかし、その戦において犠牲はつきものだ」
ミンシュタインは一言一言噛みしめるように言う。
「もちろん犠牲を0にしようとしても無理な話と言うことは分かっているし、それを行うつもりもない。ああ、当然だが犠牲を少なくする努力はするがね。だが、今回の話に関してだけはどうしても納得がいかん。今まで私は軍人は政治に関わるべからずの精神でやってきたが、今回ばかりは少し総統に話に行きたいと思う」
「ミンシュタイン殿、しかし、それは……!」
「何、失うとしても老いぼれ1人が閑職に追い込まれるだけの話よ。気にすることはない。今、ジーマン軍には若く優秀な人材が数多く揃っている。私のような老いぼれはこう言った場面で身を退くべきなのだよ」
ミンシュタインは豪快に笑いながら言う。
その志には誰もが涙せずにはいられなかった。
「ミンシュタイン将軍! もしあなたを失えば、それはジーマン軍にとっては多大な損失です! それだけはなりません! 私が行きます! どうか将軍だけはお留まりください!」
「いえ、私が!」
「私が行きます!」
そう言ってその場にいる誰もが我も我もと志願をしてきた。
「ならん!」
静かながら断固たる口調に誰もが口を噤む。声は大きくはないが、その言葉にはミンシュタインという人間にしか出せない重さがあった。
「ここにいる人間は誰もが優秀な人材だ。君たちは誰もがジーマン軍の宝なのだ。そのような人間をこのような事態で失うことは出来ん!」
「将軍……」
誰もが力なく項垂れる。
「そんなに心配せんでよい。今生の別れではないのだ。気にするな」
そう言ってミンシュタインは皆を落ち着かせるよう言葉を掛けてから、司馬懿の方をふと見た。
「司馬懿君、君は唐突な人事であったがよくここまで、私に付いてきてくれた。礼を言う」
「いえ、ミンシュタイン殿の英断によって全ては起こせたのです。私だけの力ではとても……」
「そんなことはない。バラー戦では君の助言で大いに助かった」
「恐縮でありますが、それは他の人がなされたことです。私は助言をしただけであります」
「そうか。ならばそうしておこう」
そう言ってミンシュタインは笑った。
「さて、従兵! これを電文で総統府に送ってくれ」
そう言って、ミンシュタインはメモを従兵に渡した。
「了解しました!」
従兵はその場を駆け足で後にする。
「皆、本当にご苦労であった!」
ミンシュタインは笑顔でそう言って、天幕から出て行った。
数日後、ミンシュタインはわずかな見送りを受けて、バラーを後にした。
「それでミンシュタイン殿は行かれたのか!」
真一は司馬懿からの報告を聞いた。
「はい。ご立派な最後でした」
「なぜ、それを私たちに言わないのだ!」
「ミンシュタイン殿は前線の兵士達に負担を掛けるのは申し訳ないと誰にも言わないよう注意しておりました。私ですら発つ時間を知ったのは行く10分前だったのです」
「そうか。ミンシュタイン殿がか……」
真一は空を見上げながら呟く。
「彼がいなくなったらこちらの方面の戦線は大変なことになるぞ」
しかし、この時、ジーマン本国ではそれどころではない騒ぎが起きていたのだ。
ミンシュタインが主だった将官を集めて言った。
彼が話している内容は援軍についてであるが、彼の表情はすぐれないものであり内容に関してはだいたい予測は付いた。
「可能な限り努力はするそうだが、実現は難しいようだ」
「そうですか……」
皆が思わず嘆息した。分かっていたことではあるが、やはり現実を突きつけられると厳しいものであった。
元々ここにいる誰もがこうなることを予測していたからこそ、開戦に反対であったのだ。しかし、それを抑えきれるほど軍務の力が強いわけではなく、国民の熱に押され開戦に到ったのだ。
「しかし、現状の戦力ではこれ以上の進軍は不可能です。このまま無理をして進めれば本当に取り返しの付かない事態になるでしょう」
司馬懿は冷静に戦力を比較して言った。
ジーマン軍は今回の戦力が全力であるのに対し、魔王軍は今回潰した兵力のさらにその数倍を保有するだけの兵力がある。
まず、その地点で兵力が違いすぎる上、ここから先は魔王領のさらに深淵。と言うことは魔王軍に圧倒的な地の利がある。これらの点を加味すると伸びきった補給線と連戦による疲労で指揮が落ちており、戦力すらすり減ったジーマン軍では対抗する術がないことは明白であった。
元々は包囲殲滅が作戦の根本にあるが、ジーマン軍がそれをやろうとするにはあまりにも戦車の数が足りない上、ここから先に控える魔王軍の精鋭には太刀打ちできない可能性が高い。
最早、ジーマン軍にこれ以上進む事ができないのが現状だ。
「しかし、ここで進軍を止めれば国内では軍は情けないという世論がわき起こるでしょうな。場合によっては更に強行的な路線を敷く野党に国民が付き、内閣の総辞職を求めるでしょう」
ミンシュタインの補佐を行う政治将校が言った。政治将校はここでは、政治的な動きが軍隊にどのような面で影響を与えるかを見極め、軍事的な行動を補助する役目を担っており、その力は極めて小さいものである。
「ふむ」
ミンシュタインは様々な意見を聞きながら小さく返事をしてまぶたを閉じる。
彼はあくまでも軍人であり、政治には常に一線を引いてきた人間だ。上(政治家)の命令があればたとえどんな死地にでも赴く覚悟は出来ている。しかし、今回のように兵士を無駄に死なせるような可能性のある真似だけは何としても避けたいと考えていた。
「私はこれまで数多くの戦を経験してきた。しかし、その戦において犠牲はつきものだ」
ミンシュタインは一言一言噛みしめるように言う。
「もちろん犠牲を0にしようとしても無理な話と言うことは分かっているし、それを行うつもりもない。ああ、当然だが犠牲を少なくする努力はするがね。だが、今回の話に関してだけはどうしても納得がいかん。今まで私は軍人は政治に関わるべからずの精神でやってきたが、今回ばかりは少し総統に話に行きたいと思う」
「ミンシュタイン殿、しかし、それは……!」
「何、失うとしても老いぼれ1人が閑職に追い込まれるだけの話よ。気にすることはない。今、ジーマン軍には若く優秀な人材が数多く揃っている。私のような老いぼれはこう言った場面で身を退くべきなのだよ」
ミンシュタインは豪快に笑いながら言う。
その志には誰もが涙せずにはいられなかった。
「ミンシュタイン将軍! もしあなたを失えば、それはジーマン軍にとっては多大な損失です! それだけはなりません! 私が行きます! どうか将軍だけはお留まりください!」
「いえ、私が!」
「私が行きます!」
そう言ってその場にいる誰もが我も我もと志願をしてきた。
「ならん!」
静かながら断固たる口調に誰もが口を噤む。声は大きくはないが、その言葉にはミンシュタインという人間にしか出せない重さがあった。
「ここにいる人間は誰もが優秀な人材だ。君たちは誰もがジーマン軍の宝なのだ。そのような人間をこのような事態で失うことは出来ん!」
「将軍……」
誰もが力なく項垂れる。
「そんなに心配せんでよい。今生の別れではないのだ。気にするな」
そう言ってミンシュタインは皆を落ち着かせるよう言葉を掛けてから、司馬懿の方をふと見た。
「司馬懿君、君は唐突な人事であったがよくここまで、私に付いてきてくれた。礼を言う」
「いえ、ミンシュタイン殿の英断によって全ては起こせたのです。私だけの力ではとても……」
「そんなことはない。バラー戦では君の助言で大いに助かった」
「恐縮でありますが、それは他の人がなされたことです。私は助言をしただけであります」
「そうか。ならばそうしておこう」
そう言ってミンシュタインは笑った。
「さて、従兵! これを電文で総統府に送ってくれ」
そう言って、ミンシュタインはメモを従兵に渡した。
「了解しました!」
従兵はその場を駆け足で後にする。
「皆、本当にご苦労であった!」
ミンシュタインは笑顔でそう言って、天幕から出て行った。
数日後、ミンシュタインはわずかな見送りを受けて、バラーを後にした。
「それでミンシュタイン殿は行かれたのか!」
真一は司馬懿からの報告を聞いた。
「はい。ご立派な最後でした」
「なぜ、それを私たちに言わないのだ!」
「ミンシュタイン殿は前線の兵士達に負担を掛けるのは申し訳ないと誰にも言わないよう注意しておりました。私ですら発つ時間を知ったのは行く10分前だったのです」
「そうか。ミンシュタイン殿がか……」
真一は空を見上げながら呟く。
「彼がいなくなったらこちらの方面の戦線は大変なことになるぞ」
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