魔法の世界で、砲が轟く
第六十五話 フィーリア隊、撃破!
「砲手、目標。右十一時方向の敵兵士!」
四号戦車の75㎜砲がモーターの働きで旋回を始める。
砲手は標準器を覗いて、敵に大体の標準を合わせる。
「停止!」
その瞬間、前につんのめるような衝撃が走り、車体が急停車する。
魔法はその間も周囲に降り注ぎ続けるが、急停車を捕らえきれず、戦車の前方に大量の土煙を上げる。その一瞬のすきに砲手は細かな標準を調整し、完全に敵を捕らえた。
「撃て!」
砲手が静かに引き金を引くと大きく尾栓が後退し、車内に煙が充満する。
砲弾が音速の二倍の速さたたき出され、敵兵を仕留めんとすっ飛んでいく。その弾種は当然、歩兵用の榴弾だ。
「防御魔法展開!」
しかし簡単に倒せる相手ではない。こちらが発砲したことを確認するなり、敵は防御魔法を展開。それも今までのよう装置を使うものではなく、本人の魔法力だけで発動する防御魔法だ。その堅さは装置の比ではない。
75㎜砲の砲弾はそれで弾かれてしまう。
「何だと!」
リットンは思わずその光景に絶句する。
今までであれば簡単に貫通していた防御魔法なだけにその頑丈さには驚かされる。
「今度はこちらが仕返してやれ!」
フィーリアがそう叫び、リットン隊の内の一隻の戦車に狙いをつけ爆発魔法を発射。過たずその魔法はね狙った戦車に命中。一瞬でその戦車を火だるまに返る。
フィーリア隊の中でも特に精鋭を集めただけあり、その攻撃力は生半可なものではない。
「三号車、やられました!」
「油断をするな! 今回の敵は今までの奴とは違うぞ!」
リットンはそう警告を出し、続く命令を出す。
「各個にて敵に標準をつけ、敵を撃破せよ! 無理はしなくて良い! 確実にやれる奴からやっていけ! それから直線運動や停止は極力避けよ!」
残った指揮下の二両の戦車を指揮するが敵はかなりの練度であり、この車両だけでの撃破は厳しいものがあった。
「第一小隊長車より第二中隊長車へ! 502地点で優勢なる敵の部隊と接敵! 既に一両の戦車が破壊されており我々だけでの撃破は困難! 至急増援を求む!」
増援を要請するために中隊長車へ連絡を送った。
「第二中隊長車より第一小隊長車へ! 状況は分かった! これより増援として第二小隊、第三小隊を送る! 到着までは数分はかかる模様! それまでは持ちこたえてくれ!」
「了解!」
数分の時間をどう持ちこたえさせるかということを頭の中で素早く計算を行うリットン。
逃げれば簡単ではあるが、敵がどう動くか分からない以上下手な撤退は返って危険を去らす。だが何よりもリットンの感情にあったのはこの敵は自分が仕留めるという執念であった。フィーリア隊は以前、主の一人であった譲を殺したという第一独立師団にとっては因縁の相手だ。何としても功を立てたいのは誰もが皆同じであった。
「各車、動き続けながら砲撃を行え! 何があっても止まってはならん!」
持ちこたえさせるにはこれが一番だと考え、残った車両に指示を出す。
「砲手、狙いは誰でも構わない! とにかく撃てるだけ撃ちまくれ!」
リットンは砲手に指示を出し、敵を双眼鏡越しに見た。
「今回の敵は我が主を殺した者達だ。何としても仕留めたいが、お前らを無駄死にさせるわけにはいかん。口惜しいが増援が来るまでは辛抱してくれ」
「了解!」
この間にも戦車は敵の激しい魔法に晒される。周囲には何発もの魔法が降り注ぎ、時折手が届きそうなほど近くに着弾し、車体を大きく揺らすこともあるが今のところ撃破された戦車は一両のみだ。
「良し。このまま行けば……」
そういった直後のことであった。
前を進んでいた四号車の周囲に今までに無いほど多くの攻撃が降り注いだ。おそらくは敵がこのままでは埒があかないと四号車にのみ的を絞ったのであろう。
上がる土煙の中で激しい火炎が踊るのが見えた。
そして、その土煙が晴れた直後、そこには元四号車であった火の塊が残っていた。敵の魔法が四号車の車体を貫通。中の弾薬が誘爆を起こしたのだ。この様子では中の乗員に生存者はいないであろう。
「四号車、被弾!」
報告をする操縦手の声には悔しさがにじんでいる。今まで戦ってきた戦友が乗った戦車が二両も撃破されたのだ。その仇討ちも出来ないことが悔しいのだろう。
「今は耐えろ! 耐えるのだ!」
リットンはそうは言うものの耐えられる時間はもう残されていないことは明白であった。
先ほど四号車を襲った敵の攻撃が、今度はこのリットンの車体を襲う。あれを躱すことは不可能であろう。増援到着まではまだ少し時間が掛かる。おそらくは間に合わない。
(俺の死に場所はここになるのか)
リットンは思った。
独ソ戦で戦死を遂げ、こちらの世界に来てからは思う存分、この戦車と戦えた。もう少し暴れたかった気もするが、一度死んだ身だ。それ以上は贅沢というものであろう。
かつての独ソ戦に比べれば、十分良い戦いが出来た。
今までの思い出が走馬燈のように蘇る中で、敵の兵士がこちらに標準を合わせるのが見えた。何か手に棒のようなものを持っている。おそらくはそこから魔法を発射するのであろう。
その敵兵の手が完全にこちらを捕らえたなと言うのが分かった瞬間、その兵士の横の地面が爆ぜた。
その兵士は一瞬で吹き飛び、朱に染まって地面に倒れる。
何が起きたのかを理解する前に敵兵の周囲に幾つもの細い土煙が上がる。
ここに来てリットンは味方の戦車による攻撃だと言うことが理解できた。しかし、増援はまだ到着してはいない。
よく見てみると、敵の右と左から砲撃が行われていることが見て取れる。
「小隊長! 一号車と二号車です!」
敵の伏兵の確認のために出していた一、二号車が味方苦戦の報を聞き、救援に駆けつけたのだ。
敵は完全に不意を突かれたらしく、防御魔法を張る暇もないほど混乱をしている。その間に敵兵は次々と砲撃や機関銃の砲火に絡め取られていき、ついに地面の上に立つ者はいなくなった。
「敵を撃破しました! やりましたよ、小隊長!」
こうしてついに第一独立師団は本隊まで後一歩の地点までたどり着いたのだ。
四号戦車の75㎜砲がモーターの働きで旋回を始める。
砲手は標準器を覗いて、敵に大体の標準を合わせる。
「停止!」
その瞬間、前につんのめるような衝撃が走り、車体が急停車する。
魔法はその間も周囲に降り注ぎ続けるが、急停車を捕らえきれず、戦車の前方に大量の土煙を上げる。その一瞬のすきに砲手は細かな標準を調整し、完全に敵を捕らえた。
「撃て!」
砲手が静かに引き金を引くと大きく尾栓が後退し、車内に煙が充満する。
砲弾が音速の二倍の速さたたき出され、敵兵を仕留めんとすっ飛んでいく。その弾種は当然、歩兵用の榴弾だ。
「防御魔法展開!」
しかし簡単に倒せる相手ではない。こちらが発砲したことを確認するなり、敵は防御魔法を展開。それも今までのよう装置を使うものではなく、本人の魔法力だけで発動する防御魔法だ。その堅さは装置の比ではない。
75㎜砲の砲弾はそれで弾かれてしまう。
「何だと!」
リットンは思わずその光景に絶句する。
今までであれば簡単に貫通していた防御魔法なだけにその頑丈さには驚かされる。
「今度はこちらが仕返してやれ!」
フィーリアがそう叫び、リットン隊の内の一隻の戦車に狙いをつけ爆発魔法を発射。過たずその魔法はね狙った戦車に命中。一瞬でその戦車を火だるまに返る。
フィーリア隊の中でも特に精鋭を集めただけあり、その攻撃力は生半可なものではない。
「三号車、やられました!」
「油断をするな! 今回の敵は今までの奴とは違うぞ!」
リットンはそう警告を出し、続く命令を出す。
「各個にて敵に標準をつけ、敵を撃破せよ! 無理はしなくて良い! 確実にやれる奴からやっていけ! それから直線運動や停止は極力避けよ!」
残った指揮下の二両の戦車を指揮するが敵はかなりの練度であり、この車両だけでの撃破は厳しいものがあった。
「第一小隊長車より第二中隊長車へ! 502地点で優勢なる敵の部隊と接敵! 既に一両の戦車が破壊されており我々だけでの撃破は困難! 至急増援を求む!」
増援を要請するために中隊長車へ連絡を送った。
「第二中隊長車より第一小隊長車へ! 状況は分かった! これより増援として第二小隊、第三小隊を送る! 到着までは数分はかかる模様! それまでは持ちこたえてくれ!」
「了解!」
数分の時間をどう持ちこたえさせるかということを頭の中で素早く計算を行うリットン。
逃げれば簡単ではあるが、敵がどう動くか分からない以上下手な撤退は返って危険を去らす。だが何よりもリットンの感情にあったのはこの敵は自分が仕留めるという執念であった。フィーリア隊は以前、主の一人であった譲を殺したという第一独立師団にとっては因縁の相手だ。何としても功を立てたいのは誰もが皆同じであった。
「各車、動き続けながら砲撃を行え! 何があっても止まってはならん!」
持ちこたえさせるにはこれが一番だと考え、残った車両に指示を出す。
「砲手、狙いは誰でも構わない! とにかく撃てるだけ撃ちまくれ!」
リットンは砲手に指示を出し、敵を双眼鏡越しに見た。
「今回の敵は我が主を殺した者達だ。何としても仕留めたいが、お前らを無駄死にさせるわけにはいかん。口惜しいが増援が来るまでは辛抱してくれ」
「了解!」
この間にも戦車は敵の激しい魔法に晒される。周囲には何発もの魔法が降り注ぎ、時折手が届きそうなほど近くに着弾し、車体を大きく揺らすこともあるが今のところ撃破された戦車は一両のみだ。
「良し。このまま行けば……」
そういった直後のことであった。
前を進んでいた四号車の周囲に今までに無いほど多くの攻撃が降り注いだ。おそらくは敵がこのままでは埒があかないと四号車にのみ的を絞ったのであろう。
上がる土煙の中で激しい火炎が踊るのが見えた。
そして、その土煙が晴れた直後、そこには元四号車であった火の塊が残っていた。敵の魔法が四号車の車体を貫通。中の弾薬が誘爆を起こしたのだ。この様子では中の乗員に生存者はいないであろう。
「四号車、被弾!」
報告をする操縦手の声には悔しさがにじんでいる。今まで戦ってきた戦友が乗った戦車が二両も撃破されたのだ。その仇討ちも出来ないことが悔しいのだろう。
「今は耐えろ! 耐えるのだ!」
リットンはそうは言うものの耐えられる時間はもう残されていないことは明白であった。
先ほど四号車を襲った敵の攻撃が、今度はこのリットンの車体を襲う。あれを躱すことは不可能であろう。増援到着まではまだ少し時間が掛かる。おそらくは間に合わない。
(俺の死に場所はここになるのか)
リットンは思った。
独ソ戦で戦死を遂げ、こちらの世界に来てからは思う存分、この戦車と戦えた。もう少し暴れたかった気もするが、一度死んだ身だ。それ以上は贅沢というものであろう。
かつての独ソ戦に比べれば、十分良い戦いが出来た。
今までの思い出が走馬燈のように蘇る中で、敵の兵士がこちらに標準を合わせるのが見えた。何か手に棒のようなものを持っている。おそらくはそこから魔法を発射するのであろう。
その敵兵の手が完全にこちらを捕らえたなと言うのが分かった瞬間、その兵士の横の地面が爆ぜた。
その兵士は一瞬で吹き飛び、朱に染まって地面に倒れる。
何が起きたのかを理解する前に敵兵の周囲に幾つもの細い土煙が上がる。
ここに来てリットンは味方の戦車による攻撃だと言うことが理解できた。しかし、増援はまだ到着してはいない。
よく見てみると、敵の右と左から砲撃が行われていることが見て取れる。
「小隊長! 一号車と二号車です!」
敵の伏兵の確認のために出していた一、二号車が味方苦戦の報を聞き、救援に駆けつけたのだ。
敵は完全に不意を突かれたらしく、防御魔法を張る暇もないほど混乱をしている。その間に敵兵は次々と砲撃や機関銃の砲火に絡め取られていき、ついに地面の上に立つ者はいなくなった。
「敵を撃破しました! やりましたよ、小隊長!」
こうしてついに第一独立師団は本隊まで後一歩の地点までたどり着いたのだ。
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