魔法の世界で、砲が轟く

spring snow

第六十一話 スーザンの正体

 魔王軍が撤退した後に、ジーマン軍はバラー入りを果たす。
 さすが魔国内でも有数の大都市なだけあり、多くの民家や商店が並び、その人口の規模の大きさを示している。しかし、この町の本当の姿はそこではない。町でも中央になると数多くの工場が並んでいる。かつてはそこで魔王軍の兵器の大半が製造されていた。今は、工場は機密保持のために魔王軍が撤退する際に仕掛けていった、爆発魔法によってすべてが吹き飛ばされ元の姿をうかがい知ることはできない。


「これだけ大きな町ともなると我が国内でも、なかなか見ない規模だ」


 バラーの町を見てクラウスは思わず感想をこぼした。


「これほどの大きさの町を確保したとなるとわが国の橋頭保にしても良いですね」


 司馬懿はそう言いつつも警戒を解こうとしていない。
 それは敵将のスーザンがこれほど簡単に街を受け渡すとは考えられなかったからだ。もちろん、奇襲を食らって、慌てて撤退したといえば、それまでであるがスーザンに限って何もせずにただ撤退するということは考えられない。それは数多くの戦闘を経験してきた司馬懿の勘がそう告げていた。


「しかし、いやに静かですね。この町は」


 いくら戦闘が戦闘が行われた後とはいえ、異様な静けさだ。


 司馬懿は何となく嫌な気がして、周囲を見渡した。周りを見渡すが特に変わった異変はない。
 しかし、司馬懿の勘は警鐘を鳴らし続けている。


 直後、遠くから爆発音が鳴り響く。


「何だ……」


 随伴員の誰かが呟く。


「何かがあったようですが……」


 そう言っているとその爆発音が聞こえた方角で大きな火柱が上がった。


「何だ!」


 すると車両に乗っけられた無電が鳴る。


「もしもし!」


 すぐに近くの兵士が電話に出ると、すぐに顔を真っ青にして司馬懿達に言った。


「大変です! 勇者達が我が軍の後方に現れ、第2近衛戦車大隊が急襲を受け壊滅した模様です!」


「何だと!」


 ミンシュタインがすぐに電話を替わる。
 話を聞くうちにどんどん顔色が悪くなっていく。


「分かった。すぐに負傷した兵士は後方に下げ、現場の混乱の収拾と敵への防御の構えを準備してくれ」


 その言葉を最後にミンシュタインは電話を切った。


「やられましたな」


 司馬懿は地図を広げながらミンシュタインに言った。


「司馬懿殿、この攻撃どう思う?」


「敵の襲撃に備えましょう。おそらくは敵の狙いは戦車隊ではありません。この司令部です」


 そう言って地図を指さした。


「勇者達が攻撃を仕掛けてきたのは、こちらのバレーの町の外です。しかし、本当に敵の狙いが戦車であるなら、ここではなくもっと戦車の本隊が接近してきてからにするでしょう。何せ、この地域にいるのは近衛戦車大隊くらいですから。敵はこのようなものを狙うために切り札を切りはしません。何せ、こちらの戦車は増産体制に入っており、多少の戦車を失ってもすぐに回復が出来ます。しかし、敵の切り札に回復はありません。失ってしまえばそれまでです。つまり、敵の狙いはジーマンが失えば取り戻しが聞かなくなるもの。つまりはこの司令部です」


「なるほど。勇者達の派手な攻撃に兵力を引きつけ、手薄になった本陣を一気に叩く気か!」


「おそらくは」


「各軍に通達。近衛戦車大隊はすぐに後方の本隊と合流し、勇者達を迎撃せよ。他の部隊は司令部の周囲に集結し守りを固めよ。なお、直ちに偵察隊を編制。周囲に残敵がいないか確認せよ」


 ミンシュタインは命令を一気に伝えた。


「これでこれ以上被害が出ないと良いのだが……」


「おそらくは大丈夫でしょう」


 司馬懿が安心させるように言う。しかし、本当に大丈夫だと思いたいのは司馬懿であった。


(この戦い方、奴に似ている)


 司馬懿はかつての仇敵を思い浮かべる。
 前世の後漢末期において魏についていた司馬懿と五度も壮絶な知恵比べを行った、蜀の丞相。 
 もし今回の作戦が奴が練ったものであれば、おそらくは我が軍はただでは済まないであろう。


(打てるだけの手は打った。後は相手がどう出るかだ)


 司馬懿はそう決心し、戦闘音が聞こえる方角を見た。










「くっそ! 奴等、どんだけ強いんだよ!」


 偶然その場に居合わせた第一独立師団のリットンは悪態をつく。


 敵の土魔法の攻撃を受けた部隊で生き残っていたのがリットンと言うこともあり、その調査を受けるために第2近衛戦車大隊の元を訪れたとき勇者達の攻撃を受けたのだ。


 前回の戦闘に置いて勇者達の戦闘を見ており、その凄まじさについては知っていたつもりであった。今回は前回の勇者達とは違うのか威力はそこまで行かないが、数が凄い。周囲には勇者達が攻撃を行った際に上がった土煙が広がっており、視界は悪い。


 しかし、時折リットンの周囲には勇者の魔法が着弾する。しかも威力は127㎜砲の衝撃よりも数段強烈だ。


「ここまでのものとなると152㎜砲並の威力だな。一撃でお陀仏だ」


 笑みを浮かべるが完全に引きつっている。リットンはかつての独ソ戦時において一度だけ、ソ連軍の152㎜砲搭載の戦車と戦ったことがある。あの時は目の前にいた戦車が装甲をたたき割られ、燃え上がる瞬間を見た。
 あの光景は未だに目に焼き付いている。


「しかし、ここで引くわけにはいかんよな」


 まだ周囲にはジーマン軍の戦車が攻撃態勢を整えておらず、大混乱が起きている。


「Panzer vor!」


 自分が指揮する戦車に前進を命じる。


(無謀かもしれんが、時間稼ぎ程度にはなるだろう)


 そう言って土埃が上がっている場所へと突進する。


「敵影は!」


 砲手がリットンに聞いてくる。


「見えんな。だが油断はするな!」


 土煙が晴れていくとそこには何もいない。


「逃げたのか! あいつらの目的は攻撃ではない! こちらの軍を混乱させることだ!」


 その瞬間、リットンははめられたことに気付いた。しかし、その怒りをぶつける相手はいなかった。








「何! 敵の攻撃は一度だけだと!」


 意外すぎる報告にミンシュタインは驚くと同時に安堵した。


「良かった、何事も……」


「何事もなくではありません。今回の戦闘、こちらの大敗です」


 司馬懿がミンシュタインに言い放つ。


「どういうことだ?」


「敵はその一撃でこちらの精鋭を壊滅させたのに対し、こちらは敵には一撃も浴びせられていません。さらに今回の混乱により、敵の撤退する部隊に何一つ被害を与えられませんでした。つまりは敵は大きな被害を受けることなく、こちらの精鋭に大きなダメージを与えたと言うことです!」


 司馬懿は今回の自分の決断を呪った。


(敵の目的は攻撃ではなく、こちらに追撃をさせないようにすることであったか! 一杯食わされた!)


 だが、同時に今回の戦闘を見てある一つのことに確信を持った。


(正攻法より奇襲などを得意とし、虚と実を使い分け、巧みに優位なこちらを自分のペースへ巻き込む。間違いない。今回の敵の指揮官は諸葛亮だ!)


 三国志最強の軍師同士による、この異世界で壮絶な千恵比べの再会の第一ラウンドは諸葛亮の勝利となった。


「孔明! この挑戦、受けて立つ!」


 司馬懿の顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

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