魔法の世界で、砲が轟く

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第五十四話 バルバロッサ作戦

「魔国本土侵攻作戦ですか……」


 会議において配られた資料を眺めながら、司馬懿は独り言を言った。
 その資料はつい先日開催された統合本部の今後のジーマン軍の戦略について話し合う会議において提案されたものであった。
 その内容は魔王軍に対して戦車を用いた機動戦を展開し、敵を包囲殲滅を計るというものであった。
 計画は将軍や統合本部の作戦課の人間が提案したものであった。


「果たしてこのように上手くいくのですかね?」


 司馬懿は真一に問いかけた。


「いや、おそらくは失敗するだろうな。そもそも今回、魔王軍に勝てたのは偶然であり、援軍の到着が後少しでも遅れたり勇者達が油断していなければ、こちらの方が危なかった。撃破した魔王軍は確かに魔国内でも強力な部隊ではあるが、決して最強な部隊ではない。そもそも数的にも質的にも今のところは魔王軍の方が兵力は上だ。今後はさらなる苦戦が予測される」


「確かに。先日、魔国内部に潜り込んだ新庄も同じような報告を上げてきております。敵の数は圧倒的であり、まだ確認されていない兵器や軍もいるとか……。おそらく安易な気持ちで魔国領内に攻め込めば、今後はさらなる被害が出るでしょう」


「それだけは避けなくてはならない。しかし、今回のこの作戦はどうも統合本部の方も乗り気ではないようだ。実際、グデーリアンを筆頭とした現場指揮官やクラウスのような一部の将軍も反対の声を上げている」


「と言うことは、国民ですか?」


 司馬懿は真一に尋ねた。


「ああ。おそらくはな。国民と言うよりは一部の議員がどうも騒いでいるらしい。それも決して無視できるような規模ではないそうだ。すでに議会の承認は得ている」


「大戦果を公表したところ、それに調子に乗った一部の人間がこれに乗して魔国を討つべしと声を上げた。と言ったところでしょうか?」


「見事。さすが魏の政争を生き抜いてきただけあるな」


「お褒めいただき、恐縮です」


 司馬懿が言ったように今、ジーマンでは戦勝気運が高まっており、この勝利を機に魔国領内に攻め入って魔王を討とうという派閥がかなり力をつけていた。


 これに対して、ジーマン軍の軍令部は魔国は未だその国力や兵力は衰えておらず、決して侮るべきではないとして航空機や新型戦車と言った新兵器を配備し、準備を整えてから事に望みたいと主張している。


 実は第一独立師団でも前回の戦闘で失われた弾薬の補給や兵員の補填と言った作業が完了しておらず、完全な戦力の回復には至ってはいない。


 ここで真一や守の能力を使って兵員を生み出せば良いという考える人もいるであろう。しかし、彼らがそう簡単に力を回復できる人間と必要最低限以外の人間がしれば、今後、真一達を悪用する人間が出てくる可能性がある。全国に名前が知れ渡ってしまった今、これ以上の目立つ行動や能力の使用は控えたかった。


「しかし、このまま通すわけにはいきますまい」


「だから、今度は私が政治の場で口を出させてもらおうかと思ってね」


 以前述べたとおり、国民から人気が凄まじかった彼らは特別枠として議員に任命。政治の場に参加することが約束されていた。ただし、これには制限があり軍事関係の事のみを口出しして良いと言うことや議会の決めることに関しては一切の選択権を持たないことなどかなりの制限が掛かったものであった。故に言うならば、軍と議会の窓口に近い存在である。
 最初はこの話を蹴ろうとした彼らだったが、統合本部の方から唯一の国民と軍との窓口としてこの職を受けてくれと言われ、仕方なく始めたものであった。


 正しく今がその時であろう。


 しかし、司馬懿はそんな真一に言った。


「いえ、これは受けておいた方が良いと思います」


「……何故だ?」


 その意外すぎる言葉に一瞬固まってしまう真一はようやくその言葉だけを継げた。


「議会でこれに反対した人は絶対にいたはずです。さらに言えば、これをロット殿が知らなかったわけはありません。間違いなく統合本部はそちらに手を回し議員を説得しようとしたはず。それが為らなかったと言うことはおそらく説得ができないほど強力な勢力だと言うことです。と言うことは裏にいるのは国民でしょうね。彼以上の影響力があるものはこの国では世論しかありませんから。大半の国民がそう考えているのでしょう。そうでなければ、こんなことを国民が許しません」


「と言うことはこれを議会に持ち込んでも勝ち目はなく、むしろ国民の反感を買う可能性が高いと」


「はい。ですから、今回は遂行するしかありません」


 無情にもそれが現実であった。






 その一ヶ月後、作戦は統合本部の方でさらに詰められ、ついにその作戦が始まることになる。


 作戦名は「バルバロッサ作戦」。


 奇しくも真一達のいた世界でドイツ軍が滅亡の序章を飾る作戦と同じ名であった。















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