魔法の世界で、砲が轟く
第五十一話 茶器
今日はこちらの世界で言う日曜日だ。
こちらの世界にも宗教というものは存在する。しかし、多神教の宗教で他の宗教とのいざこざがほとんどなく、ある意味平和な世の中であった。
その休日は当然ながら、公的な機関は休日である。そこで真一や司馬懿と言った異世界の人間も休日の恩恵を甘受していた。
司馬懿はこの日、市場に出て新たに自分の好みのお茶の種類を探していた。
この世界においてはお茶を楽しむという文化は地球ほど発達はしていない。まだまだ貴族が楽しむ格好品で高級品である。しかし、司馬懿達は一様軍の高官に当たる人物ではあったためにお金に関してはかなり持っていた上、軍の宿舎を使っているために生活費は普段国から出るために食費などの生活費も掛からない。故にお金は使わなければ貯まる一方であった。
そこで司馬懿が見つけた新たな趣味がお茶であった。元より漢の出身である司馬懿はお茶はたしなむ方ではあったが、それほどハマることはなかった。
しかし、こちらの世界に来て娯楽がかなり変わった。その中でも元来の自分を思い出させてくれる存在がお茶であった。
そこでこのような休日に市場に繰り出してお茶を探すのだ。
お茶を売っている店があるのは市場でも閑静な通路の一角にある。その通りは高級な商店が並ぶ通りで富裕層の人間しか来ないために市場でも閑静な通りとして有名な通りであった。
いつものように司馬懿が入るとその店の主人が出迎える。
「いらっしゃいませ」
静かに言い、司馬懿だと分かると話しかけてきた。
「どうでしたか?以前のものは」
「大変素晴らしいものでした。香りが凄く良くて、酸味がほどよく効いていて美味しかったです」
「それは良かった。あのお茶はこの時期にしか咲かない貴重な花を使って作られた紅茶なんですよ」
「成る程。では相当貴重なものなんでしょうね」
「ええ。売り始めるとすぐ売り切れてしまうので、なかなか手に入らないんですよ」
そう雑談をしながら店内にある物を見ていく。
そんな中、ふと店の端に置かれている茶器が気になり、吸い寄せられるように司馬懿はその茶器の所に行った。
その茶器は自分の故郷である漢の地で使われていた茶器によく似ていた。
全体的に丸い形に口がちょっと出ている。手に取ってみるとまるで使い慣れた筆のように自分の手に馴染む。
しばらく司馬懿が愛おしげにその茶器を見ていると店主が見かねて声を掛けた。
「その茶器、気に入りましたか?」
「ええ、凄く」
司馬懿の顔はまるで数年来の旧友に会ったかのように嬉しそうな顔をしていた。
「その茶器、差し上げましょうか?」
「え、でも……」
「あなたならこの茶器の良さが分かるような気がするんです」
「しかし、大切なものなんでしょう?」
「ええ、でも良いんです。道具は使われてこそ生きるんです。お茶と同じ。お茶は飲まれなければただ葉を乾燥させたものでしかない。でもそれを飲んでくれる人がいて初めてお茶になる。道具も使われなくては湿気ってしまいますから」
そう言って、店主は茶器を司馬懿から茶器を受け取り、それを包み始めた。
「あの代金は……」
「構いません。強いて言うなら今後も当店をご贔屓に」
「ありがとうござます!」
そう言って司馬懿は勢いよく頭を下げた。
「後、こちらのお茶もおまけでつけときますね」
「え、そんなに良いんですか」
「たまには良いんですよ、ただ」
そう言って店主は他の人にはバラさないようにと唇に人差し指を当てて、商品を司馬懿に渡す。
「ありがとうございます!」
そう言って司馬懿は商品を受け取り、店から出た。
「またのご来店、お待ちしております」
静かにそう言って店主は司馬懿を見送った。
司馬懿が見えなくなると、店主は一言呟いた。
「親父、これで良いんだよな」
そうあの茶器はこの店の先代の主である彼の父親が大切にしていた物であった。彼が子供の頃、その茶器に触れようとして何度も怒られたことがある。
そして、彼が成人して店を継ぐ頃になると父親は病で床に伏せるようになった。
あるとき、彼は父親に呼ばれ会いに言ったところ父親はあの茶器と一緒に自分のことを待っていた。
「おお、来たか。まあ、そこに座れ」
そう言ってベットの脇にあった椅子を勧めた。
彼がそこに座ると、父親は彼の目を見てしゃべり始めた。
「この茶器のことに関してお前に話しておこうと思ってな」
「ああ、それか」
「この茶器はな、俺が若い頃に一番出でていた物で一目で気に入って行商人から譲ってもらった物なんだ。値段はかなり高かったが、俺がお茶を売る店をやっていることを知ると。その時に行商人に言われたのは、これをこの人だと思った人に渡してくれとのことだった。それは何年経とうと構わない。しかし、適当な人や理性的に思った人ではなく、直感的に思った人に渡してくれ。もしその人が見つからない時は、息子の代以降にも引き継いでくれとな。俺はその内容があまりにも抽象的だったんで分からなかったが、行商人はそれだけ言うと立ち去った。それ以来、その行商人とは会ったことはない」
そう言って、一呼吸入れた。
「結局、俺はそのお目当ての人とは会えなかった。だから、お前にこれを託す。どうか、それをお目当ての人に渡してやってくれ」
そう言うと、茶器を静かに彼に渡した。
「分かった。何としても見つけ出すよ」
そう言って彼は父親の部屋から出た。
その夜、彼の父親はまるでその言葉を遺言とするかのように静かに息を引き取った。
久しぶりに懐かしい思い出にふけった彼は、もう店じまいの時間帯のことも忘れて道路に立っていた。
「そろそろ店じまいしねえとな」
そう言って店の中へ入ろうとした瞬間、どこからか声がしたように感じた。
『良くやった』
それは彼の父親そっくりの声であった。
「おうよ!」
どこへ向けてでもなく、そう返事をすると彼は店に入った。
こちらの世界にも宗教というものは存在する。しかし、多神教の宗教で他の宗教とのいざこざがほとんどなく、ある意味平和な世の中であった。
その休日は当然ながら、公的な機関は休日である。そこで真一や司馬懿と言った異世界の人間も休日の恩恵を甘受していた。
司馬懿はこの日、市場に出て新たに自分の好みのお茶の種類を探していた。
この世界においてはお茶を楽しむという文化は地球ほど発達はしていない。まだまだ貴族が楽しむ格好品で高級品である。しかし、司馬懿達は一様軍の高官に当たる人物ではあったためにお金に関してはかなり持っていた上、軍の宿舎を使っているために生活費は普段国から出るために食費などの生活費も掛からない。故にお金は使わなければ貯まる一方であった。
そこで司馬懿が見つけた新たな趣味がお茶であった。元より漢の出身である司馬懿はお茶はたしなむ方ではあったが、それほどハマることはなかった。
しかし、こちらの世界に来て娯楽がかなり変わった。その中でも元来の自分を思い出させてくれる存在がお茶であった。
そこでこのような休日に市場に繰り出してお茶を探すのだ。
お茶を売っている店があるのは市場でも閑静な通路の一角にある。その通りは高級な商店が並ぶ通りで富裕層の人間しか来ないために市場でも閑静な通りとして有名な通りであった。
いつものように司馬懿が入るとその店の主人が出迎える。
「いらっしゃいませ」
静かに言い、司馬懿だと分かると話しかけてきた。
「どうでしたか?以前のものは」
「大変素晴らしいものでした。香りが凄く良くて、酸味がほどよく効いていて美味しかったです」
「それは良かった。あのお茶はこの時期にしか咲かない貴重な花を使って作られた紅茶なんですよ」
「成る程。では相当貴重なものなんでしょうね」
「ええ。売り始めるとすぐ売り切れてしまうので、なかなか手に入らないんですよ」
そう雑談をしながら店内にある物を見ていく。
そんな中、ふと店の端に置かれている茶器が気になり、吸い寄せられるように司馬懿はその茶器の所に行った。
その茶器は自分の故郷である漢の地で使われていた茶器によく似ていた。
全体的に丸い形に口がちょっと出ている。手に取ってみるとまるで使い慣れた筆のように自分の手に馴染む。
しばらく司馬懿が愛おしげにその茶器を見ていると店主が見かねて声を掛けた。
「その茶器、気に入りましたか?」
「ええ、凄く」
司馬懿の顔はまるで数年来の旧友に会ったかのように嬉しそうな顔をしていた。
「その茶器、差し上げましょうか?」
「え、でも……」
「あなたならこの茶器の良さが分かるような気がするんです」
「しかし、大切なものなんでしょう?」
「ええ、でも良いんです。道具は使われてこそ生きるんです。お茶と同じ。お茶は飲まれなければただ葉を乾燥させたものでしかない。でもそれを飲んでくれる人がいて初めてお茶になる。道具も使われなくては湿気ってしまいますから」
そう言って、店主は茶器を司馬懿から茶器を受け取り、それを包み始めた。
「あの代金は……」
「構いません。強いて言うなら今後も当店をご贔屓に」
「ありがとうござます!」
そう言って司馬懿は勢いよく頭を下げた。
「後、こちらのお茶もおまけでつけときますね」
「え、そんなに良いんですか」
「たまには良いんですよ、ただ」
そう言って店主は他の人にはバラさないようにと唇に人差し指を当てて、商品を司馬懿に渡す。
「ありがとうございます!」
そう言って司馬懿は商品を受け取り、店から出た。
「またのご来店、お待ちしております」
静かにそう言って店主は司馬懿を見送った。
司馬懿が見えなくなると、店主は一言呟いた。
「親父、これで良いんだよな」
そうあの茶器はこの店の先代の主である彼の父親が大切にしていた物であった。彼が子供の頃、その茶器に触れようとして何度も怒られたことがある。
そして、彼が成人して店を継ぐ頃になると父親は病で床に伏せるようになった。
あるとき、彼は父親に呼ばれ会いに言ったところ父親はあの茶器と一緒に自分のことを待っていた。
「おお、来たか。まあ、そこに座れ」
そう言ってベットの脇にあった椅子を勧めた。
彼がそこに座ると、父親は彼の目を見てしゃべり始めた。
「この茶器のことに関してお前に話しておこうと思ってな」
「ああ、それか」
「この茶器はな、俺が若い頃に一番出でていた物で一目で気に入って行商人から譲ってもらった物なんだ。値段はかなり高かったが、俺がお茶を売る店をやっていることを知ると。その時に行商人に言われたのは、これをこの人だと思った人に渡してくれとのことだった。それは何年経とうと構わない。しかし、適当な人や理性的に思った人ではなく、直感的に思った人に渡してくれ。もしその人が見つからない時は、息子の代以降にも引き継いでくれとな。俺はその内容があまりにも抽象的だったんで分からなかったが、行商人はそれだけ言うと立ち去った。それ以来、その行商人とは会ったことはない」
そう言って、一呼吸入れた。
「結局、俺はそのお目当ての人とは会えなかった。だから、お前にこれを託す。どうか、それをお目当ての人に渡してやってくれ」
そう言うと、茶器を静かに彼に渡した。
「分かった。何としても見つけ出すよ」
そう言って彼は父親の部屋から出た。
その夜、彼の父親はまるでその言葉を遺言とするかのように静かに息を引き取った。
久しぶりに懐かしい思い出にふけった彼は、もう店じまいの時間帯のことも忘れて道路に立っていた。
「そろそろ店じまいしねえとな」
そう言って店の中へ入ろうとした瞬間、どこからか声がしたように感じた。
『良くやった』
それは彼の父親そっくりの声であった。
「おうよ!」
どこへ向けてでもなく、そう返事をすると彼は店に入った。
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