魔法の世界で、砲が轟く
第四十七話 二つの策
その瞬間、全てのジーマン軍の兵士が凍り付いた。
噂にはなっていたものの本物の勇者が自分たちの目の前に出てくることを考えもしなかったからだ。
その実力はおとぎ話にすら出てくるような強力な物である。
敵がその勇者であるとは考えたくもなかった。
しかし、現実には自分たちの強力無比な戦車が数十両も一撃で吹き飛ばされている。
本物であるとしか考えられない。
「くっ!このままでは軍の士気は地に落ちるぞ!」
後方で全軍の指揮を執っていたクラウスは地図を載せた大きなテーブルを殴りつけた。
勇者を敵にして軍の士気が高いままとは考えられない。ジーマン軍の兵士が投降するのは時間の問題かに思われた。
しかし、この時グデーリアン隊はある策を実行すべく動き出していた。
その策はグデーリアン隊の力を遺憾なく発揮できる軍師が提案した物であった。
時は出撃前にまで遡る。
「グデーリアン将軍」
出撃前のグデーリアンはある人物から呼び止められた。
振り返った先にいたのは司馬懿だ。
「おお、仲達殿か!どうした?」
「将軍。今回の作戦、用心なされ。敵は相当な策士がいると思われます」
「何と!どういうことだ?」
「敵の参謀にスーザンというものが加わりました。かの者はかつて士官学校を創設以来の成績を収めた人物であります。この者は異例の出世を果たし、次期参謀長候補の最有力候補と見られています」
「そんな人物が何故前線に?」
「敵が我々の存在に気付いたからでしょう。強力な敵が現れた時、持ちうる最大の戦力を一気に投入するのは兵法の常です」
「それでは敵が今後、持たないのでは?」
「敵が送り込んだ中で有力な人物は一人。いざとならば一人だけ逃がすことは可能でしょう」
前世において武将達を捉えようとしても逃げられた事は数多ある。
そう簡単にいかぬ事は分かっている。
「さらに敵の本隊はあのトーチカ陣にいる者達ではないと思われます」
「何と!」
「先日、コットン王国軍が消滅した事件の時、勇者達も行方不明になりました。この事件は間違いなく魔王軍が絡んでいるでしょう。ではその勇者達はどこへ行ったのか?」
「まさか……」
「おそらく魔王軍が取り込んでいる可能性が高いと思われます。そして敵は恐らく彼らを出してくるでしょう。敵の本隊はそれです」
「すぐに真一殿に報告を!」
「申してあります。そこで真一殿は私に任せると仰られました」
「して策は?」
「あります。敵は相当大規模な魔法を使える人間と防御が得意な者、そしてそれら二人を守るどちらも使える人間の三人で来ると思われます。この3人を倒すには敵に油断を誘う必要があるでしょう」
「確かに。敵が油断なく大規模な魔法を何発も討ってきたら我々は為す術もなく、敗北します。しかし、敵は今後の占領のことも考えて、あまり大規模な殺戮は行いたくないはず。ならば何をしてくるか。敵はこちらの勇者だと言うことを公言してこちらの士気を下げた後に投降を呼びかけてくるでしょう」
「我々はこれを逆手に取ります。敵に投降する者達の中に紛れ込んで一気に敵の後方へ入り込み、敵陣から攻撃を行います」
「そのような方法では投降する者を巻き込みながらでも攻撃をするのでは?」
「それはないでしょう。勇者達は何でも戦争を数十年の間戦争をしたことがない国から来たそうです。そのような者達に非道な決断を下すことはできないでしょう」
「それは甘すぎるのでは?」
「大丈夫です。そのためにもう一つ策を授けます」
「本当にやるのか……」
グデーリアンは呟いた。
この策を授けられたとき、グデーリアンは猛反対をした。
それに対し、司馬懿は抑揚のない声で言った。
部下を死なせるのか
と。
この時、グデーリアンは策を行うことを決意した。
「砲兵隊に告ぐ!標準を敵部隊から勇者達の手前に切り替えろ!」
この時、既に各ジーマン軍の部隊から降伏者が出ようとしていた。
「やってられるか!勇者が敵なんぞ俺は御免だ!」
「おい!待て!」
そんな争いがあちこちで繰り広げられていた。
そして敵に降伏した者達が武器を捨て勇者達の所へ逃げていく。
ジーマン軍は大混乱をしているためにこの者達に攻撃をしている余裕などない。
そして先鋒が完全に勇者達の後方へ抜けたのを確認し、さらなる降伏者が勇者達の所へ達しようとしたその時、唐突に上空から重砲の砲弾の飛翔音が聞こえだした。
すると今当に降伏をしようとしていた者達の所へ砲弾が着弾を始めたのだ。
「いったい、ジーマン軍は何をしているんだ!」
勇者として出てきていた佐藤昌之は叫んだ。
「私が行きますわ!」
そう言って伊集院マリアがすぐにその兵士達を救いに駆けだした。
そして現場に着くと大規模な防御魔法を展開。兵士達を攻撃から守る。
しかし、事はそれだけでは済まない。
砲撃が続く中、多数の戦車隊が降伏する兵士達をなぎ倒しながら昌之めがけて突進を開始した。
とっさのことに混乱して突っ立っている昌之めがけて砲撃を開始したのだ。
その戦車は全て四号戦車であり、グデーリアン隊の物であった。
反射的に防御魔法を使い砲撃から身を守る昌之の横を戦車隊は突っ切り、そのまま魔王軍の陣へ突っ込んだ。
魔王軍はとっさのことで対応が遅れる。
その間にも戦車隊は砲撃を落ち着いて行い、次から次へと魔王軍を仕留めていく。
そして、そのうちの一両の戦車から第五,六師団へ突撃のあいずの信号弾が打ち上がった。
待ってましたとばかりに両師団は突撃を開始し魔王軍に食らいつく。
最早魔王軍の敗北は勇者を持ってしても覆せないことは目に見えていた。
昌之達はどうにかしようとするも砲撃は未だ絶え間なく続いており助ける余裕はない。
これこそ、司馬懿がグデーリアンに授けた二つ目の策であった。
投降する兵士を巻き込むように砲撃を行え。
そうすれば勇者はその者達を救おうとするだろうからその間に敵に戦車隊で突撃を行えば、敵の近くまでいける。その時、勇者達は広範囲魔法を撃てないから為す術もないと。
司馬懿の言ったとおりのことが起きた。
「これならば勝てる!」
グデーリアンは思わず叫んだ。
こうして魔王軍とジーマン軍の二回目の対決であるベラリン戦は、収束へと向かうのである。
この戦いにおいて勇者達と第2軍司令部は命からがら逃亡に成功したものの兵力の大半を失い、魔王軍はジーマン国内からの撤退を決意する。
その撤退のさなか、司馬懿が準備を行っていた戦車隊にさらなる追撃を喰らい魔王軍は壊滅した。
このことで司馬懿の名はジーマン国内で轟くようになり、大きな発言権を持つようになる。
果たしてこの戦争はどうなるのか。
まだ、誰にも分からない。
噂にはなっていたものの本物の勇者が自分たちの目の前に出てくることを考えもしなかったからだ。
その実力はおとぎ話にすら出てくるような強力な物である。
敵がその勇者であるとは考えたくもなかった。
しかし、現実には自分たちの強力無比な戦車が数十両も一撃で吹き飛ばされている。
本物であるとしか考えられない。
「くっ!このままでは軍の士気は地に落ちるぞ!」
後方で全軍の指揮を執っていたクラウスは地図を載せた大きなテーブルを殴りつけた。
勇者を敵にして軍の士気が高いままとは考えられない。ジーマン軍の兵士が投降するのは時間の問題かに思われた。
しかし、この時グデーリアン隊はある策を実行すべく動き出していた。
その策はグデーリアン隊の力を遺憾なく発揮できる軍師が提案した物であった。
時は出撃前にまで遡る。
「グデーリアン将軍」
出撃前のグデーリアンはある人物から呼び止められた。
振り返った先にいたのは司馬懿だ。
「おお、仲達殿か!どうした?」
「将軍。今回の作戦、用心なされ。敵は相当な策士がいると思われます」
「何と!どういうことだ?」
「敵の参謀にスーザンというものが加わりました。かの者はかつて士官学校を創設以来の成績を収めた人物であります。この者は異例の出世を果たし、次期参謀長候補の最有力候補と見られています」
「そんな人物が何故前線に?」
「敵が我々の存在に気付いたからでしょう。強力な敵が現れた時、持ちうる最大の戦力を一気に投入するのは兵法の常です」
「それでは敵が今後、持たないのでは?」
「敵が送り込んだ中で有力な人物は一人。いざとならば一人だけ逃がすことは可能でしょう」
前世において武将達を捉えようとしても逃げられた事は数多ある。
そう簡単にいかぬ事は分かっている。
「さらに敵の本隊はあのトーチカ陣にいる者達ではないと思われます」
「何と!」
「先日、コットン王国軍が消滅した事件の時、勇者達も行方不明になりました。この事件は間違いなく魔王軍が絡んでいるでしょう。ではその勇者達はどこへ行ったのか?」
「まさか……」
「おそらく魔王軍が取り込んでいる可能性が高いと思われます。そして敵は恐らく彼らを出してくるでしょう。敵の本隊はそれです」
「すぐに真一殿に報告を!」
「申してあります。そこで真一殿は私に任せると仰られました」
「して策は?」
「あります。敵は相当大規模な魔法を使える人間と防御が得意な者、そしてそれら二人を守るどちらも使える人間の三人で来ると思われます。この3人を倒すには敵に油断を誘う必要があるでしょう」
「確かに。敵が油断なく大規模な魔法を何発も討ってきたら我々は為す術もなく、敗北します。しかし、敵は今後の占領のことも考えて、あまり大規模な殺戮は行いたくないはず。ならば何をしてくるか。敵はこちらの勇者だと言うことを公言してこちらの士気を下げた後に投降を呼びかけてくるでしょう」
「我々はこれを逆手に取ります。敵に投降する者達の中に紛れ込んで一気に敵の後方へ入り込み、敵陣から攻撃を行います」
「そのような方法では投降する者を巻き込みながらでも攻撃をするのでは?」
「それはないでしょう。勇者達は何でも戦争を数十年の間戦争をしたことがない国から来たそうです。そのような者達に非道な決断を下すことはできないでしょう」
「それは甘すぎるのでは?」
「大丈夫です。そのためにもう一つ策を授けます」
「本当にやるのか……」
グデーリアンは呟いた。
この策を授けられたとき、グデーリアンは猛反対をした。
それに対し、司馬懿は抑揚のない声で言った。
部下を死なせるのか
と。
この時、グデーリアンは策を行うことを決意した。
「砲兵隊に告ぐ!標準を敵部隊から勇者達の手前に切り替えろ!」
この時、既に各ジーマン軍の部隊から降伏者が出ようとしていた。
「やってられるか!勇者が敵なんぞ俺は御免だ!」
「おい!待て!」
そんな争いがあちこちで繰り広げられていた。
そして敵に降伏した者達が武器を捨て勇者達の所へ逃げていく。
ジーマン軍は大混乱をしているためにこの者達に攻撃をしている余裕などない。
そして先鋒が完全に勇者達の後方へ抜けたのを確認し、さらなる降伏者が勇者達の所へ達しようとしたその時、唐突に上空から重砲の砲弾の飛翔音が聞こえだした。
すると今当に降伏をしようとしていた者達の所へ砲弾が着弾を始めたのだ。
「いったい、ジーマン軍は何をしているんだ!」
勇者として出てきていた佐藤昌之は叫んだ。
「私が行きますわ!」
そう言って伊集院マリアがすぐにその兵士達を救いに駆けだした。
そして現場に着くと大規模な防御魔法を展開。兵士達を攻撃から守る。
しかし、事はそれだけでは済まない。
砲撃が続く中、多数の戦車隊が降伏する兵士達をなぎ倒しながら昌之めがけて突進を開始した。
とっさのことに混乱して突っ立っている昌之めがけて砲撃を開始したのだ。
その戦車は全て四号戦車であり、グデーリアン隊の物であった。
反射的に防御魔法を使い砲撃から身を守る昌之の横を戦車隊は突っ切り、そのまま魔王軍の陣へ突っ込んだ。
魔王軍はとっさのことで対応が遅れる。
その間にも戦車隊は砲撃を落ち着いて行い、次から次へと魔王軍を仕留めていく。
そして、そのうちの一両の戦車から第五,六師団へ突撃のあいずの信号弾が打ち上がった。
待ってましたとばかりに両師団は突撃を開始し魔王軍に食らいつく。
最早魔王軍の敗北は勇者を持ってしても覆せないことは目に見えていた。
昌之達はどうにかしようとするも砲撃は未だ絶え間なく続いており助ける余裕はない。
これこそ、司馬懿がグデーリアンに授けた二つ目の策であった。
投降する兵士を巻き込むように砲撃を行え。
そうすれば勇者はその者達を救おうとするだろうからその間に敵に戦車隊で突撃を行えば、敵の近くまでいける。その時、勇者達は広範囲魔法を撃てないから為す術もないと。
司馬懿の言ったとおりのことが起きた。
「これならば勝てる!」
グデーリアンは思わず叫んだ。
こうして魔王軍とジーマン軍の二回目の対決であるベラリン戦は、収束へと向かうのである。
この戦いにおいて勇者達と第2軍司令部は命からがら逃亡に成功したものの兵力の大半を失い、魔王軍はジーマン国内からの撤退を決意する。
その撤退のさなか、司馬懿が準備を行っていた戦車隊にさらなる追撃を喰らい魔王軍は壊滅した。
このことで司馬懿の名はジーマン国内で轟くようになり、大きな発言権を持つようになる。
果たしてこの戦争はどうなるのか。
まだ、誰にも分からない。
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