魔法の世界で、砲が轟く
第四十六話 危険な香り
リットンの四号戦車のすぐ近くにまたも魔法が着弾した。
敵の魔法は着弾すると何かが高速で回転するような異音を立て、爆ぜる。
敵の攻撃は四号戦車の装甲をそう容易くには貫通しないが、近くに着弾して気持ちの良いものではない。
「敵戦車、右正横より数両突っ込んでくる!」
別の戦車からの緊急の無線で、気付いたリットンはすぐに命令を出した。
「5、6号車は敵の戦車の牽制及び撃破に当たれ。残りは私と共に敵の突破を計る」
先ほどから敵の攻撃が前後左右からやってくる。
敵は何らかの手段を使って、兵力をあちらこちらに置いているらしい。
しかしこちらの戦車に効かなければ、ただ単なる兵力の分散という愚策でしか無い。
初戦こそ敵の攻撃の意外性から手間取ったものの慣れてしまえば簡単だ。
「前方に敵の歩兵数十名を確認!敵は塹壕にこもり、こちらの魔法を浴びせてきています」
まっすぐ前に視線を移すと報告の通り、手前が堀になっている塹壕が見える。敵兵数人がそこから定期的に顔を出して魔法を放ってくる。
すぐに他の四号戦車が砲撃を開始した。リットンの車両も砲撃を始める。
戦車隊は先ほど弾薬の補給を受けており、既に砲撃は可能となっていた。
急激な停車に体を持って行かれそうになり、それを全身の力を不絞って止める。
すぐに横の砲手が旋回レバーを回し敵に標準をつける。その間に装填手は砲弾に薬莢を取り付け、主砲に装填を行う。
そして、砲手が引き金を引くと大きく車体が揺れ音速を遙かに超えるスピードで弾が吹っ飛んでいく。
またエンジンを吹かし、戦車を動かす。ひたすらこれの繰り返しであった。
唐突に後ろから魔法が飛んできて前の地面に着弾する。
「後方より敵が十名ほど接近してきています!」
後方にいる戦車の車長から無線が入ってくる。
案の定敵は後方からも現れた。
「各車に伝達。敵はこちらのエンジンを狙ってきている。敵に狙われぬよう蛇行しつつ砲撃を続け、目の前の敵を突破することに専念せよ」
すぐに次の魔法が飛んできて今度は右後方に着弾する。
さすがに動いている敵を補足できるほど命中率が言い訳では無いらしい。
(ならば、敵に狙いをつけさせないように動き回れば良いだけのことだ)
かつてソ連軍と戦車戦をやっていたときも基本的にはこの方法で戦っていた。
これができない者はどんどん死んでいった。
ここにいる者のほとんどはそれを手足のようにこなせる者ばかりだ。
故に敵に後れを取るような者は一人もいない。
だが、敵も一筋縄ではいかず、うまい者はこちらの未来位置を狙って攻撃を仕掛け命中させてくる。
そのような人間はほんの一握りで、ほとんどは命中させられず、むなしく土柱を上げるだけだ。
ふと目を後ろに移すと敵兵が味方の歩兵隊に殲滅されているところが目に入った。
敵兵はこちらに夢中になっていたらしく、近くに迫っていた味方の兵士に気づけなかったらしい。不意を突かれた敵兵は為す術もなく朱に染まって倒れていった。
後ろの脅威が去るのと同時に後方の歩兵隊が追いついたのを確認したリットンは、さらなる前線を命じるべくマイクを取ろうとした。
その瞬間、まるで落雷がすぐ近くに落ちたような音が鳴り響き、外が真っ白く光った。
同時に車体が大地震に見舞われたかのように揺れ、リットンは頭を砲塔に強く打ち付け、しばし、視界が暗くなった。
ようやく立ち直り、周りに目を移すと周囲は特に大きな被害は無いが、戦車隊の先鋒がいたはずの地点に大きなクレーターができており、周囲には何も残っていなかった。
事が起こるまでは確かに数十両の戦車が前進していたのが見えたのに、今となっては何も確認できない。
リットンはあまりの光景に一瞬呆然としたが、すぐに続くであろう司令部からの指示を待った。
グデーリアンはちょうど、譲の重体の件を聞きそのことに対する対応を考えていた所をリットン達を襲った揺れと光が襲った。
一瞬の出来事には呆然とするもすぐに立ち直り、全軍に命令を出す。
「全車に告ぐ!一旦後退して敵の攻撃の要因を探る!」
敵の攻撃方法が分からない以上、前進させて無駄な被害を出すわけには行かない。
それ故の対処であった。
しかし、すぐにその原因は分かることになる。
敵の陣の中央方面から敵兵らしき人間が数人出てくるのが見えた。
グデーリアンは彼らの存在に何となく勘づくところがあった。
その勘はどうか外れて欲しいと思った。もし勘が当たってしまったら信じられないような被害が出ることは間違いない。
彼らからは同じ香りがしたのだ、自分たちの主達と同じ臭いが。
その人物達は途中でふと足を止め、そこで大声をあげた。
「ジーマン軍に告ぐ!今すぐ投降せよ!今の惨状を見たであろう!我々を敵に回せば他の者達にも同じ惨劇が降り注ぐことになるぞ!いざすぐ投降すればお前達の罪を許そう!」
ジーマン軍は先ほどの被害の混乱から立ち直っておらず、かなりざわついていた。
グデーリアン隊はどことなくグデーリアンと同じ感覚を感じており、別の意味でざわついていた。
そこに彼らはたたみかけるかのように言った。最もグデーリアンが聞きたくなかった言葉を。
「私たちはコットン国に召喚された勇者である!」
敵の魔法は着弾すると何かが高速で回転するような異音を立て、爆ぜる。
敵の攻撃は四号戦車の装甲をそう容易くには貫通しないが、近くに着弾して気持ちの良いものではない。
「敵戦車、右正横より数両突っ込んでくる!」
別の戦車からの緊急の無線で、気付いたリットンはすぐに命令を出した。
「5、6号車は敵の戦車の牽制及び撃破に当たれ。残りは私と共に敵の突破を計る」
先ほどから敵の攻撃が前後左右からやってくる。
敵は何らかの手段を使って、兵力をあちらこちらに置いているらしい。
しかしこちらの戦車に効かなければ、ただ単なる兵力の分散という愚策でしか無い。
初戦こそ敵の攻撃の意外性から手間取ったものの慣れてしまえば簡単だ。
「前方に敵の歩兵数十名を確認!敵は塹壕にこもり、こちらの魔法を浴びせてきています」
まっすぐ前に視線を移すと報告の通り、手前が堀になっている塹壕が見える。敵兵数人がそこから定期的に顔を出して魔法を放ってくる。
すぐに他の四号戦車が砲撃を開始した。リットンの車両も砲撃を始める。
戦車隊は先ほど弾薬の補給を受けており、既に砲撃は可能となっていた。
急激な停車に体を持って行かれそうになり、それを全身の力を不絞って止める。
すぐに横の砲手が旋回レバーを回し敵に標準をつける。その間に装填手は砲弾に薬莢を取り付け、主砲に装填を行う。
そして、砲手が引き金を引くと大きく車体が揺れ音速を遙かに超えるスピードで弾が吹っ飛んでいく。
またエンジンを吹かし、戦車を動かす。ひたすらこれの繰り返しであった。
唐突に後ろから魔法が飛んできて前の地面に着弾する。
「後方より敵が十名ほど接近してきています!」
後方にいる戦車の車長から無線が入ってくる。
案の定敵は後方からも現れた。
「各車に伝達。敵はこちらのエンジンを狙ってきている。敵に狙われぬよう蛇行しつつ砲撃を続け、目の前の敵を突破することに専念せよ」
すぐに次の魔法が飛んできて今度は右後方に着弾する。
さすがに動いている敵を補足できるほど命中率が言い訳では無いらしい。
(ならば、敵に狙いをつけさせないように動き回れば良いだけのことだ)
かつてソ連軍と戦車戦をやっていたときも基本的にはこの方法で戦っていた。
これができない者はどんどん死んでいった。
ここにいる者のほとんどはそれを手足のようにこなせる者ばかりだ。
故に敵に後れを取るような者は一人もいない。
だが、敵も一筋縄ではいかず、うまい者はこちらの未来位置を狙って攻撃を仕掛け命中させてくる。
そのような人間はほんの一握りで、ほとんどは命中させられず、むなしく土柱を上げるだけだ。
ふと目を後ろに移すと敵兵が味方の歩兵隊に殲滅されているところが目に入った。
敵兵はこちらに夢中になっていたらしく、近くに迫っていた味方の兵士に気づけなかったらしい。不意を突かれた敵兵は為す術もなく朱に染まって倒れていった。
後ろの脅威が去るのと同時に後方の歩兵隊が追いついたのを確認したリットンは、さらなる前線を命じるべくマイクを取ろうとした。
その瞬間、まるで落雷がすぐ近くに落ちたような音が鳴り響き、外が真っ白く光った。
同時に車体が大地震に見舞われたかのように揺れ、リットンは頭を砲塔に強く打ち付け、しばし、視界が暗くなった。
ようやく立ち直り、周りに目を移すと周囲は特に大きな被害は無いが、戦車隊の先鋒がいたはずの地点に大きなクレーターができており、周囲には何も残っていなかった。
事が起こるまでは確かに数十両の戦車が前進していたのが見えたのに、今となっては何も確認できない。
リットンはあまりの光景に一瞬呆然としたが、すぐに続くであろう司令部からの指示を待った。
グデーリアンはちょうど、譲の重体の件を聞きそのことに対する対応を考えていた所をリットン達を襲った揺れと光が襲った。
一瞬の出来事には呆然とするもすぐに立ち直り、全軍に命令を出す。
「全車に告ぐ!一旦後退して敵の攻撃の要因を探る!」
敵の攻撃方法が分からない以上、前進させて無駄な被害を出すわけには行かない。
それ故の対処であった。
しかし、すぐにその原因は分かることになる。
敵の陣の中央方面から敵兵らしき人間が数人出てくるのが見えた。
グデーリアンは彼らの存在に何となく勘づくところがあった。
その勘はどうか外れて欲しいと思った。もし勘が当たってしまったら信じられないような被害が出ることは間違いない。
彼らからは同じ香りがしたのだ、自分たちの主達と同じ臭いが。
その人物達は途中でふと足を止め、そこで大声をあげた。
「ジーマン軍に告ぐ!今すぐ投降せよ!今の惨状を見たであろう!我々を敵に回せば他の者達にも同じ惨劇が降り注ぐことになるぞ!いざすぐ投降すればお前達の罪を許そう!」
ジーマン軍は先ほどの被害の混乱から立ち直っておらず、かなりざわついていた。
グデーリアン隊はどことなくグデーリアンと同じ感覚を感じており、別の意味でざわついていた。
そこに彼らはたたみかけるかのように言った。最もグデーリアンが聞きたくなかった言葉を。
「私たちはコットン国に召喚された勇者である!」
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