魔法の世界で、砲が轟く
第四十五話 譲
譲はグデーリアン隊が危機に陥りかけている時にフィーリア隊の動きを見つめていた。
操縦手から彼女らの舞台の伝説を聞き、彼らの危険性に誰よりも気付いていたからだ。
譲達は二十一世紀に生きる人間だ。特殊部隊の恐ろしさについても良く気付いている。
最近の話で言えば、アメリカが敵視していた某イスラム系過激派組織の指導者を殺害した者もアメリカ海軍の特殊部隊と言われる。
また、某朝鮮半島の北のお国の特殊部隊の十数人が韓国の山中に逃げ込んだ際にも、これを撃滅するのに数個師団をと投じたと言われる。
現代においてもこうした特殊部隊の任務は多岐に及び、敵の後方に展開した際には恐るべき効力を発揮する。
こうした存在を敵が抱えていると思うと気が気でならない。
ましてや、今はグデーリアン隊は攻撃が思うように進んでおらず、戦線は硬直している。この状態で敵が後方から奇襲を掛けてきたら、為す術もなくグデーリアン隊は指揮官を失い、潰される。
グデーリアンに警告を促すことも可能ではあるが、そのようなことをしても今、グデーリアンは目の前の敵を撃滅することのみを考えているだろうから、余計な雑念を植え付けるだけであろう。
こういった場面にこそ、譲が動かなくてはならないのだ。
しかし、こうした譲の心配をよそにフィーリア隊は動くことはなかった。
幸いにも救援部隊の到着は間に合い、グデーリアン隊はフィーリア隊の攻撃を受ける前に危機を脱することができた。
譲はほっと一息ついた。
ここでグデーリアン隊がやられてしまえば、間違いなくジーマンは負ける。そうなれば、自分たちはどうなるのか分からない。
運が良ければ、敵の戦力に加えられるかもしれないが、能力の高さを恐れて、殺される可能性や敵をさんざん苦しめた戦犯として裁かれる可能性も十分にありうる。
グデーリアン隊が敗れると言うことは、自分たちの命綱が断たれるも同然の事であった。
この時、フィーリア隊の旗が陣の中央から消えていることに譲は気付いていなかった。
もう一分でも譲が気を抜かずフィーリア隊の動きに注目していればこの先に起こることも避けられたかもしれない。しかし、その決定的な瞬間を譲は逃してしまったのだ。
歴史は回る。 大きな大河に全てを飲み込まれていく。 抗えぬ大きな力に……
グデーリアンは、ようやく到着した援軍と共に残党の掃討に掛かっていた。
既に弾薬切れの車両は後方に下がらせている。
「これでようやく敵も片づきそうだ」
敵を突破できれば左右にいる味方が動き、敵を包囲殲滅が可能となる。
味方の戦車隊に前進を続けるように指示を出そうとした。
その瞬間のことであった。
何か寒気のような物を感じたのだ。
まるで、大事な何かを奪われて血の気が引いたときのように……。
グデーリアンは、今までこのような感情に襲われたことは無い。
しかし、何となく勘づいてはいた。本能的に分かったのだ。
何が起こったのかを……。
どうか外れてほしい。
そう思い、譲のいる戦車がいるであろう方向をゆっくりと向く。
譲はグデーリアンが攻撃を再開すると考え、一旦、後方に下がろうと考える。
(攻撃が再開すれば、グデーリアンは全軍に前進の指示を出すであろう。その時に自分が無線を通じて声を掛ければ、士気も上がるだろう)
そう考えての行動である。
操縦手に後退を指示しようとした瞬間のことである。
何かの衝撃が背中に走る。
背中を軽く車体にぶつけただけであろうと考え、指示を出そうと指揮棒を動かそうとするが、手が動かない。
不思議に思って、手を見ようと視線を下に落とす譲。
その先に見えたのは、胸から飛び出した尖った物であった。
あれ……?
その時初めて焼けるような激痛が背中と胸に走る。
悲鳴を上げる前に何かが喉をせり上がってくる。それは鉄の味がする熱い液体であった。
そうか、自分は死ぬんだな……。
不思議と分かる。自分の死に場所がここになることを。それは理解すると言うより悟るような感覚であった。
まだ死にたくないな……。恩返しすらろくにできていないでは無いか……。
そんなことを考えている内に視界がぼやけてくる。
操縦手が何かを叫んでおり、車体が揺れている気がする。
恐らく射貫かれた自分を助けようと必至に後退しているのであろう。
そんなことをしても無駄だから……。
譲は言おうとするが声は出ない。出てくるのは赤い液体のみ。
譲は強い眠気を感じ始めている。
ごめん、皆。 恩返しは今は無理そうだ。 また今度の機会にね。
譲は眠気に身を任せ、まぶたを閉じた。
司馬懿はこの時、その能力の高さを見込まれ政務を行っていた。
不意に近くの窓が大きな音を立てて開いた。
「全く、鍵をかけ忘れたのは誰ですかね……」
ぶつぶつと文句を言いつつ、扉を閉めようと席を立った。
昨夜は凶星が出ており、そのことで気が若干立っているだけに些細なことでも怒りやすくなっているのだ。
部屋の外に誰かの気配を感じ取り、声を掛けた。
「戸の前にいるのは誰だい?」
すると、戸が静かに開き譲が入ってきた。
「どうされたのです?あなたは戦場の方にいたはずでは……」
譲は静かに微笑んで、言った。
「お別れに参りました」
「え……」
「それではごきげんよう……」
そう言ってきびすを返して戸を出て行こうとする。
「待ちなさい。どういうことです?」
しかし、譲は司馬懿の静止も聞かずに出て行った。
唐突の出来事に固まっている司馬懿の耳に何者かがばたばたと足音を立てて駆けて来るのが聞こえる。
その足音は司馬懿の部屋の目の前で止まり、戸をぶち開けて飛び込んできた。
「大変です! 仲達様! 譲殿が……、譲殿が!」
その瞬間、聡明な司馬懿は何が起きたのかを悟った。
(あなたは最後のお別れに来たのですね……)
譲との関係はあまり長くは無い。
しかし、命の危機であった逃避時も常に共にあり続けた戦友である。
やはり、戦友の死という物は辛い物であった。
司馬懿が静かに窓の外を見つめる。
その外は夕焼けが今当に地平線の向こうへと沈もうとしている瞬間であった。
操縦手から彼女らの舞台の伝説を聞き、彼らの危険性に誰よりも気付いていたからだ。
譲達は二十一世紀に生きる人間だ。特殊部隊の恐ろしさについても良く気付いている。
最近の話で言えば、アメリカが敵視していた某イスラム系過激派組織の指導者を殺害した者もアメリカ海軍の特殊部隊と言われる。
また、某朝鮮半島の北のお国の特殊部隊の十数人が韓国の山中に逃げ込んだ際にも、これを撃滅するのに数個師団をと投じたと言われる。
現代においてもこうした特殊部隊の任務は多岐に及び、敵の後方に展開した際には恐るべき効力を発揮する。
こうした存在を敵が抱えていると思うと気が気でならない。
ましてや、今はグデーリアン隊は攻撃が思うように進んでおらず、戦線は硬直している。この状態で敵が後方から奇襲を掛けてきたら、為す術もなくグデーリアン隊は指揮官を失い、潰される。
グデーリアンに警告を促すことも可能ではあるが、そのようなことをしても今、グデーリアンは目の前の敵を撃滅することのみを考えているだろうから、余計な雑念を植え付けるだけであろう。
こういった場面にこそ、譲が動かなくてはならないのだ。
しかし、こうした譲の心配をよそにフィーリア隊は動くことはなかった。
幸いにも救援部隊の到着は間に合い、グデーリアン隊はフィーリア隊の攻撃を受ける前に危機を脱することができた。
譲はほっと一息ついた。
ここでグデーリアン隊がやられてしまえば、間違いなくジーマンは負ける。そうなれば、自分たちはどうなるのか分からない。
運が良ければ、敵の戦力に加えられるかもしれないが、能力の高さを恐れて、殺される可能性や敵をさんざん苦しめた戦犯として裁かれる可能性も十分にありうる。
グデーリアン隊が敗れると言うことは、自分たちの命綱が断たれるも同然の事であった。
この時、フィーリア隊の旗が陣の中央から消えていることに譲は気付いていなかった。
もう一分でも譲が気を抜かずフィーリア隊の動きに注目していればこの先に起こることも避けられたかもしれない。しかし、その決定的な瞬間を譲は逃してしまったのだ。
歴史は回る。 大きな大河に全てを飲み込まれていく。 抗えぬ大きな力に……
グデーリアンは、ようやく到着した援軍と共に残党の掃討に掛かっていた。
既に弾薬切れの車両は後方に下がらせている。
「これでようやく敵も片づきそうだ」
敵を突破できれば左右にいる味方が動き、敵を包囲殲滅が可能となる。
味方の戦車隊に前進を続けるように指示を出そうとした。
その瞬間のことであった。
何か寒気のような物を感じたのだ。
まるで、大事な何かを奪われて血の気が引いたときのように……。
グデーリアンは、今までこのような感情に襲われたことは無い。
しかし、何となく勘づいてはいた。本能的に分かったのだ。
何が起こったのかを……。
どうか外れてほしい。
そう思い、譲のいる戦車がいるであろう方向をゆっくりと向く。
譲はグデーリアンが攻撃を再開すると考え、一旦、後方に下がろうと考える。
(攻撃が再開すれば、グデーリアンは全軍に前進の指示を出すであろう。その時に自分が無線を通じて声を掛ければ、士気も上がるだろう)
そう考えての行動である。
操縦手に後退を指示しようとした瞬間のことである。
何かの衝撃が背中に走る。
背中を軽く車体にぶつけただけであろうと考え、指示を出そうと指揮棒を動かそうとするが、手が動かない。
不思議に思って、手を見ようと視線を下に落とす譲。
その先に見えたのは、胸から飛び出した尖った物であった。
あれ……?
その時初めて焼けるような激痛が背中と胸に走る。
悲鳴を上げる前に何かが喉をせり上がってくる。それは鉄の味がする熱い液体であった。
そうか、自分は死ぬんだな……。
不思議と分かる。自分の死に場所がここになることを。それは理解すると言うより悟るような感覚であった。
まだ死にたくないな……。恩返しすらろくにできていないでは無いか……。
そんなことを考えている内に視界がぼやけてくる。
操縦手が何かを叫んでおり、車体が揺れている気がする。
恐らく射貫かれた自分を助けようと必至に後退しているのであろう。
そんなことをしても無駄だから……。
譲は言おうとするが声は出ない。出てくるのは赤い液体のみ。
譲は強い眠気を感じ始めている。
ごめん、皆。 恩返しは今は無理そうだ。 また今度の機会にね。
譲は眠気に身を任せ、まぶたを閉じた。
司馬懿はこの時、その能力の高さを見込まれ政務を行っていた。
不意に近くの窓が大きな音を立てて開いた。
「全く、鍵をかけ忘れたのは誰ですかね……」
ぶつぶつと文句を言いつつ、扉を閉めようと席を立った。
昨夜は凶星が出ており、そのことで気が若干立っているだけに些細なことでも怒りやすくなっているのだ。
部屋の外に誰かの気配を感じ取り、声を掛けた。
「戸の前にいるのは誰だい?」
すると、戸が静かに開き譲が入ってきた。
「どうされたのです?あなたは戦場の方にいたはずでは……」
譲は静かに微笑んで、言った。
「お別れに参りました」
「え……」
「それではごきげんよう……」
そう言ってきびすを返して戸を出て行こうとする。
「待ちなさい。どういうことです?」
しかし、譲は司馬懿の静止も聞かずに出て行った。
唐突の出来事に固まっている司馬懿の耳に何者かがばたばたと足音を立てて駆けて来るのが聞こえる。
その足音は司馬懿の部屋の目の前で止まり、戸をぶち開けて飛び込んできた。
「大変です! 仲達様! 譲殿が……、譲殿が!」
その瞬間、聡明な司馬懿は何が起きたのかを悟った。
(あなたは最後のお別れに来たのですね……)
譲との関係はあまり長くは無い。
しかし、命の危機であった逃避時も常に共にあり続けた戦友である。
やはり、戦友の死という物は辛い物であった。
司馬懿が静かに窓の外を見つめる。
その外は夕焼けが今当に地平線の向こうへと沈もうとしている瞬間であった。
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