魔法の世界で、砲が轟く
第四十三話 敵の罠
前線に進みつつ戦車隊の指揮を執っていたグデーリアンは、敵の防御の仕方に違和感を感じていた。
(おかしい。敵からの攻撃が微弱だ)
以前戦闘を行った際よりも敵の兵力は多い上、敵は混乱などもしていない。
なのにも関わらず今回は敵の攻撃が前回よりも若干弱い様に感じる。
士気が低いと言ってしまえばそれまでだが、それはないとグデーリアンは考える。
何せ敵には参謀部から派遣されてきた人間がいるのだ。
そのような人間が、戦闘も無しに軍の士気が低い状態にまで陥るとは考えづらい。
何か罠を張っている可能性がある。
それがどのような罠なのかグデーリアンには思いつかなかった。
こみ上げてくる言いようのない不安感にグデーリアンは身震いした。
前世でもこれに似た体験をしたことがある。
それは独ソ戦時の最初の作戦でもあるバルバロッサ作戦時だ。
この時は倒しても倒しても現れる敵の数に困惑した物だ。
この作戦においてドイツ軍は初戦でソ連軍の戦力を撃滅すれば、簡単に勝利できるだろうと楽観的な思考があった。
しかし、現実は違った。
ソ連軍はその圧倒的な人的資源を使い、やられた分の倍の兵力を徴収し、前線に送り込んできたのである。
結果はご承知の通り、冬に耐えかねたドイツ軍の撤退によってこの作戦は失敗となる。
グデーリアンの勘はあの時と同じ警告をしていた。
一瞬、作戦中止も考えたが、それはもう手遅れだ。
既に全軍が動き始めており、先鋒は敵陣深くに突入している。
ここで撤退の指示を出したら無用な混乱を起こし、被害は甚大な物となる。
故に撤退はできなかった。
(何かが起こる)
このグデーリアンの勘は、やがて現実の物となる。
リットンは4号戦車で指揮を執り続けていた。
敵からの攻撃は、あまりなく時たまあってもかする程度の物か直撃してもその装甲は貫通を許さなかった。
「また、塹壕か……」
敵は機関銃を相当警戒していたのであろう。
敵陣を突破しても幾重にも塹壕が張り巡らされている。通常では考えられないほどだ。
しかし、戦車は塹壕を突破するために作られた物であり、塹壕をいくら作っても大した意味はない。
(この戦い、簡単そうだな)
塹壕から身をのり出していた敵兵を機関銃で穴だらけにするのを見つつ、リットンは思った。
唐突に右前方を走っていた1号の後部に火炎が踊った。
(まずい!あの位置にはエンジンが!)
リットンがそう考えた直後、エンジンに引火。
戦車が炎に包まれ、中から乗員が火に包まれて飛び出してくる。
それを敵は、火や雷の魔法で殺していく。
指揮官から撤退の命令はないため、ットンの小隊は突撃を続けようとする。
 
今度は左前方を走る3号車の後部に火の手が上がった。
1号車の時と同じ惨劇が繰り返される。
流石にここまで、やられては黙ってはいられない。
リットンは主砲を後部に向け、敵を砲撃しようとした。
その時、リットンの目に飛び込んできたのはあちこちで上がる黒煙であった。
その黒煙の元は、今まで自分と同じように突撃を続けていた味方の戦車のものである。
その中には自分が所属する小隊を率いる小隊長のいる車両が含まれているのが見えた。
すぐに副隊長が指揮を変わるはずだが、指示はない。
よく見るとその小隊長車の少し後方で燃えているのが確認できる。
そこで、最先任のリットンが指揮をとることになった。
「各車に通達。隊長、副隊長が戦死したため私が指揮を執る。敵は後方からエンジンを狙って攻撃を集中させている。各車警戒を強めつつ攻撃を続行せよ」
今は、自分の小隊の被害を減らすべく全神経をその一点に集中させた。
「やはり、敵は罠を張っていたか!」
グデーリアンは後方から戦況を見守っていたが、焦燥の色を隠しきれなかった。
 
途中までは作戦通り事は進んでいた。
しかし、先鋒が敵陣の中央に差し掛かった時である。
一斉に塹壕から戦車めがけて魔法が打ち出され、狙われた戦車のエンジン部に被弾をした。
それがしばらく続き、全体で30両程が撃破されたところで、各車が気づき始めた。しかし、塹壕はそこかしこにあるために完全な鎮圧は容易ではない。
すぐに戦車用の通信回線を繋げ、各車に命令を送る。
「各車に通達。ジグザグ運動をしながら、前進を続けろ。決して止まるな!それから機関銃を撃ちつつ前進せよ」
現在、苦戦をしているのは戦車隊で、歩兵は大きな被害を出すことなく、着実に各塹壕を確保していってる。
戦車隊とどうするかが問題であった。
今後も戦車隊が必要になってくる。初戦で大きな被害を出すわけには行かなかった。
そこで、今度は歩兵隊の指揮官に繋いだ。
「戦車隊が敵の塹壕に予想以上に手こずっている。至急、救援をお願いしたい」
「分かりました。しかし、こちらも塹壕を一つづつ制圧を行っていますので、そうすぐには……」
「そこをどうにかできんか?」
「出来る限りの事はやってみます」
「分かった。頼むぞ!」
そこで、回線を切った。
(これは相当な被害が出るな!)
心中でそう呟いた。
後退も考えたが、司令部からの指示がない以上、後退は出来ない。
 
おそらく、敵の猛攻はしばらく続くであろう。
  
今、全軍の指揮を執っているのはグデーリアンではない。
敵に撃滅される前に敵を撃ち破れるよう祈ることしかグデーリアンには、できなかった。
(おかしい。敵からの攻撃が微弱だ)
以前戦闘を行った際よりも敵の兵力は多い上、敵は混乱などもしていない。
なのにも関わらず今回は敵の攻撃が前回よりも若干弱い様に感じる。
士気が低いと言ってしまえばそれまでだが、それはないとグデーリアンは考える。
何せ敵には参謀部から派遣されてきた人間がいるのだ。
そのような人間が、戦闘も無しに軍の士気が低い状態にまで陥るとは考えづらい。
何か罠を張っている可能性がある。
それがどのような罠なのかグデーリアンには思いつかなかった。
こみ上げてくる言いようのない不安感にグデーリアンは身震いした。
前世でもこれに似た体験をしたことがある。
それは独ソ戦時の最初の作戦でもあるバルバロッサ作戦時だ。
この時は倒しても倒しても現れる敵の数に困惑した物だ。
この作戦においてドイツ軍は初戦でソ連軍の戦力を撃滅すれば、簡単に勝利できるだろうと楽観的な思考があった。
しかし、現実は違った。
ソ連軍はその圧倒的な人的資源を使い、やられた分の倍の兵力を徴収し、前線に送り込んできたのである。
結果はご承知の通り、冬に耐えかねたドイツ軍の撤退によってこの作戦は失敗となる。
グデーリアンの勘はあの時と同じ警告をしていた。
一瞬、作戦中止も考えたが、それはもう手遅れだ。
既に全軍が動き始めており、先鋒は敵陣深くに突入している。
ここで撤退の指示を出したら無用な混乱を起こし、被害は甚大な物となる。
故に撤退はできなかった。
(何かが起こる)
このグデーリアンの勘は、やがて現実の物となる。
リットンは4号戦車で指揮を執り続けていた。
敵からの攻撃は、あまりなく時たまあってもかする程度の物か直撃してもその装甲は貫通を許さなかった。
「また、塹壕か……」
敵は機関銃を相当警戒していたのであろう。
敵陣を突破しても幾重にも塹壕が張り巡らされている。通常では考えられないほどだ。
しかし、戦車は塹壕を突破するために作られた物であり、塹壕をいくら作っても大した意味はない。
(この戦い、簡単そうだな)
塹壕から身をのり出していた敵兵を機関銃で穴だらけにするのを見つつ、リットンは思った。
唐突に右前方を走っていた1号の後部に火炎が踊った。
(まずい!あの位置にはエンジンが!)
リットンがそう考えた直後、エンジンに引火。
戦車が炎に包まれ、中から乗員が火に包まれて飛び出してくる。
それを敵は、火や雷の魔法で殺していく。
指揮官から撤退の命令はないため、ットンの小隊は突撃を続けようとする。
 
今度は左前方を走る3号車の後部に火の手が上がった。
1号車の時と同じ惨劇が繰り返される。
流石にここまで、やられては黙ってはいられない。
リットンは主砲を後部に向け、敵を砲撃しようとした。
その時、リットンの目に飛び込んできたのはあちこちで上がる黒煙であった。
その黒煙の元は、今まで自分と同じように突撃を続けていた味方の戦車のものである。
その中には自分が所属する小隊を率いる小隊長のいる車両が含まれているのが見えた。
すぐに副隊長が指揮を変わるはずだが、指示はない。
よく見るとその小隊長車の少し後方で燃えているのが確認できる。
そこで、最先任のリットンが指揮をとることになった。
「各車に通達。隊長、副隊長が戦死したため私が指揮を執る。敵は後方からエンジンを狙って攻撃を集中させている。各車警戒を強めつつ攻撃を続行せよ」
今は、自分の小隊の被害を減らすべく全神経をその一点に集中させた。
「やはり、敵は罠を張っていたか!」
グデーリアンは後方から戦況を見守っていたが、焦燥の色を隠しきれなかった。
 
途中までは作戦通り事は進んでいた。
しかし、先鋒が敵陣の中央に差し掛かった時である。
一斉に塹壕から戦車めがけて魔法が打ち出され、狙われた戦車のエンジン部に被弾をした。
それがしばらく続き、全体で30両程が撃破されたところで、各車が気づき始めた。しかし、塹壕はそこかしこにあるために完全な鎮圧は容易ではない。
すぐに戦車用の通信回線を繋げ、各車に命令を送る。
「各車に通達。ジグザグ運動をしながら、前進を続けろ。決して止まるな!それから機関銃を撃ちつつ前進せよ」
現在、苦戦をしているのは戦車隊で、歩兵は大きな被害を出すことなく、着実に各塹壕を確保していってる。
戦車隊とどうするかが問題であった。
今後も戦車隊が必要になってくる。初戦で大きな被害を出すわけには行かなかった。
そこで、今度は歩兵隊の指揮官に繋いだ。
「戦車隊が敵の塹壕に予想以上に手こずっている。至急、救援をお願いしたい」
「分かりました。しかし、こちらも塹壕を一つづつ制圧を行っていますので、そうすぐには……」
「そこをどうにかできんか?」
「出来る限りの事はやってみます」
「分かった。頼むぞ!」
そこで、回線を切った。
(これは相当な被害が出るな!)
心中でそう呟いた。
後退も考えたが、司令部からの指示がない以上、後退は出来ない。
 
おそらく、敵の猛攻はしばらく続くであろう。
  
今、全軍の指揮を執っているのはグデーリアンではない。
敵に撃滅される前に敵を撃ち破れるよう祈ることしかグデーリアンには、できなかった。
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