魔法の世界で、砲が轟く
第四十一話 高まる不安
グデーリアン達、将軍が作戦会議を行っているときハットラー総統は執務室でいつも通り予算に関する書類に目を通していた。
今は戦時下であるため、国防費が異様なほど高くなっている。
やはり、軍隊という物は金食い虫という言葉を無言で物語っていた。
軍隊は維持するだけでも金が掛かる。
人件費に兵器の維持費、新兵器開発の予算など金の掛かる項目はいくつもある。
さらに言えば、現在は戦時下。
兵士には通常の給料の他に、危険手当代などの特別報酬が付き、怪我をすればその分の治療費が掛かる。場合によっては兵員の補充もある。兵器が壊れれば、その修繕費や場合によっては補充費。兵器開発を加速するために平時より多くの技術者や資材を投入するために開発費の高騰。弾薬や食料などの購入費や運搬費用の増大。
簡単に述べてもそれだけ、多くの金が平時よりも掛かる。
ただでさえ、金食い虫の軍隊がさらに凄いことになるのだ。
戦時に予算不足に陥るのは一定の国を除いたどの国にも共通の悩みであった。
「はあ……」
ハットラーはため息をつく。
このため息は先ほどの予算の悩みだけではなかった。
現在、ジーマンはかなり追い詰められている。
確かに初戦でこそ大勝利をしたが、その実態は真一達の手によってのものでありジーマン軍自らの手によるものではない。
ゆえに、真一達が敗北したらその瞬間にジーマンはお終いなのだ。現在、強力な新型戦車を開発中とはいえ、完成は10ヶ月後である。
さらに戦車戦の指揮ができる指揮官もジーマン国内には皆無である。
決して油断は許されない状況であった。
「はぁ……」
もう一度先ほどと同じようにため息を吐き、机に置かれたコーヒーを手に取った。
先ほど女史が持ってきてくれた物だ。
(ん?)
横に見知らぬ手紙が届いている。
「おい。ちょっと来てくれ」
ハットラーは、すぐに副官を呼んだ。
「この手紙は何だ?」
「それは右院のガップルス様からの書状です」
ここ、ジーマンは議会制であり、二院制を採用している。
日本とほぼ同じ仕組みであり(天皇陛下のような議会の開始を宣言したり、法律の施行をしたりする人はいないが)右院が衆議院、左院が参議院の役職を担っている。
ただ、細かい説明はここでは省かせてもらう。
 
その右院の中でも比較的大きな派閥の長であるガップルスから手紙が来た。
ハットラーとガップルスは古くからの友人ではあるが、こうして総統としてのハットラーに手紙を出すことは今まで無かったことだ。
不思議に思って、手紙を読み出したハットラーの顔が読み進めるにつれ、険しくなっていく。
「どうされたのですか?」
副官がハットラーに尋ねた。
「不味いことになった。議会が真一殿の事に勘づいた」
手紙の内容は、先日の勝利はジーマン軍に非ず、別の軍との噂が挙がっていたという内容である。
ここで、真一達の存在をバラしてしまうと議会のどこかの派閥が彼らを旗印に政争の場へ担ぎ上げられる可能性がある。
 これは彼らの全く望まない結末であるし、そのようなことが起これば、政治に混乱が起きる。
それ故、彼らの正体は秘匿する必要がある。
いや、あった。
しかし、今はもう後の祭りである。
噂が流れ、ガップルスが動かざるを得ない状況になったのであれば、かなり真実味を帯びた噂であるのだろう。
最早、隠すことも握り付すことも出来なくなった。
無理に否定をすれば、彼らの兵装をバラされることになることもあり得る。
ガップルスの手紙の後半は、個人的な内容が書かれており、ハットラーが隠す以上は何か理由があっての事であろうからガップルスの方からも噂は噂でしかないと冷静に判断するよう伝えており、今回は不問にしようと思うとの事であったが、機密がバレるまではそう時間は掛からないであろう。
(彼らには一度相談する必要があるな)
そう思ったハットラーは、電話の内線を取り、真一達に繋がるのを待った。
「はい、分かりました。こちらの方でも検討させていただきます」
司馬懿が電話を切ったのを見届けた真一が司馬懿に尋ねる。
「どうした?ハットラー総統からは何と?」
「何でも我々の存在が議会にバレたとかで。どうすべきか聞いてきました」
「仲達。君はどうすべきだと思う?」
真一は最悪の事態が起きたと思った。何せ、一番恐れていたのはこの政治の舞台に引きずり出されることだ。
ろくに政治の分からない人間が政治の世界に出れば、ただの道化だ。
良いように利用され、使い潰されたら捨てられる。
それだけは何としても避けたい事態であった。
司馬懿はかつて、曹家の人間に反乱分子として危険視されたのを呆けたふりをして生き抜いてきた人間だ。
政争などは、お手の物だろう。
「今回は呆けたふりをするのは難しいだろう。何せ、4人とも若いし馬鹿は戦には勝てない。だから、別の策で行くしかない」
「どうするんだ?」
真一はすがる思いで聞いた。
「牛のようにのらりくらりと相手をいなすだけだ」
「………」
「………」
二人の間に微妙な空気が流れた。
「それだけスか?」
「そうっす」
「そんなんで躱すことはできるの?」
「いや、無理だ」
司馬懿は真一の言葉をばっさりと切り捨てた。
「だめじゃん!」
「だめではない。これで時間ならば稼げる。その間に次の手を打つんだ」
「どのような手?」
「それを今考えるときではない。直に次の作戦が始まる。君が指揮官としてやることは一つ。その作戦に備え、知恵を絞ることだ」
「そうだったな」
そうは言ったものの真一は不安をぬぐいきれなかった。
(果たして俺はどうなるのだろうか)
そんな不安が、いつまでも胸の中で気持ち悪くうねっていた。
今は戦時下であるため、国防費が異様なほど高くなっている。
やはり、軍隊という物は金食い虫という言葉を無言で物語っていた。
軍隊は維持するだけでも金が掛かる。
人件費に兵器の維持費、新兵器開発の予算など金の掛かる項目はいくつもある。
さらに言えば、現在は戦時下。
兵士には通常の給料の他に、危険手当代などの特別報酬が付き、怪我をすればその分の治療費が掛かる。場合によっては兵員の補充もある。兵器が壊れれば、その修繕費や場合によっては補充費。兵器開発を加速するために平時より多くの技術者や資材を投入するために開発費の高騰。弾薬や食料などの購入費や運搬費用の増大。
簡単に述べてもそれだけ、多くの金が平時よりも掛かる。
ただでさえ、金食い虫の軍隊がさらに凄いことになるのだ。
戦時に予算不足に陥るのは一定の国を除いたどの国にも共通の悩みであった。
「はあ……」
ハットラーはため息をつく。
このため息は先ほどの予算の悩みだけではなかった。
現在、ジーマンはかなり追い詰められている。
確かに初戦でこそ大勝利をしたが、その実態は真一達の手によってのものでありジーマン軍自らの手によるものではない。
ゆえに、真一達が敗北したらその瞬間にジーマンはお終いなのだ。現在、強力な新型戦車を開発中とはいえ、完成は10ヶ月後である。
さらに戦車戦の指揮ができる指揮官もジーマン国内には皆無である。
決して油断は許されない状況であった。
「はぁ……」
もう一度先ほどと同じようにため息を吐き、机に置かれたコーヒーを手に取った。
先ほど女史が持ってきてくれた物だ。
(ん?)
横に見知らぬ手紙が届いている。
「おい。ちょっと来てくれ」
ハットラーは、すぐに副官を呼んだ。
「この手紙は何だ?」
「それは右院のガップルス様からの書状です」
ここ、ジーマンは議会制であり、二院制を採用している。
日本とほぼ同じ仕組みであり(天皇陛下のような議会の開始を宣言したり、法律の施行をしたりする人はいないが)右院が衆議院、左院が参議院の役職を担っている。
ただ、細かい説明はここでは省かせてもらう。
 
その右院の中でも比較的大きな派閥の長であるガップルスから手紙が来た。
ハットラーとガップルスは古くからの友人ではあるが、こうして総統としてのハットラーに手紙を出すことは今まで無かったことだ。
不思議に思って、手紙を読み出したハットラーの顔が読み進めるにつれ、険しくなっていく。
「どうされたのですか?」
副官がハットラーに尋ねた。
「不味いことになった。議会が真一殿の事に勘づいた」
手紙の内容は、先日の勝利はジーマン軍に非ず、別の軍との噂が挙がっていたという内容である。
ここで、真一達の存在をバラしてしまうと議会のどこかの派閥が彼らを旗印に政争の場へ担ぎ上げられる可能性がある。
 これは彼らの全く望まない結末であるし、そのようなことが起これば、政治に混乱が起きる。
それ故、彼らの正体は秘匿する必要がある。
いや、あった。
しかし、今はもう後の祭りである。
噂が流れ、ガップルスが動かざるを得ない状況になったのであれば、かなり真実味を帯びた噂であるのだろう。
最早、隠すことも握り付すことも出来なくなった。
無理に否定をすれば、彼らの兵装をバラされることになることもあり得る。
ガップルスの手紙の後半は、個人的な内容が書かれており、ハットラーが隠す以上は何か理由があっての事であろうからガップルスの方からも噂は噂でしかないと冷静に判断するよう伝えており、今回は不問にしようと思うとの事であったが、機密がバレるまではそう時間は掛からないであろう。
(彼らには一度相談する必要があるな)
そう思ったハットラーは、電話の内線を取り、真一達に繋がるのを待った。
「はい、分かりました。こちらの方でも検討させていただきます」
司馬懿が電話を切ったのを見届けた真一が司馬懿に尋ねる。
「どうした?ハットラー総統からは何と?」
「何でも我々の存在が議会にバレたとかで。どうすべきか聞いてきました」
「仲達。君はどうすべきだと思う?」
真一は最悪の事態が起きたと思った。何せ、一番恐れていたのはこの政治の舞台に引きずり出されることだ。
ろくに政治の分からない人間が政治の世界に出れば、ただの道化だ。
良いように利用され、使い潰されたら捨てられる。
それだけは何としても避けたい事態であった。
司馬懿はかつて、曹家の人間に反乱分子として危険視されたのを呆けたふりをして生き抜いてきた人間だ。
政争などは、お手の物だろう。
「今回は呆けたふりをするのは難しいだろう。何せ、4人とも若いし馬鹿は戦には勝てない。だから、別の策で行くしかない」
「どうするんだ?」
真一はすがる思いで聞いた。
「牛のようにのらりくらりと相手をいなすだけだ」
「………」
「………」
二人の間に微妙な空気が流れた。
「それだけスか?」
「そうっす」
「そんなんで躱すことはできるの?」
「いや、無理だ」
司馬懿は真一の言葉をばっさりと切り捨てた。
「だめじゃん!」
「だめではない。これで時間ならば稼げる。その間に次の手を打つんだ」
「どのような手?」
「それを今考えるときではない。直に次の作戦が始まる。君が指揮官としてやることは一つ。その作戦に備え、知恵を絞ることだ」
「そうだったな」
そうは言ったものの真一は不安をぬぐいきれなかった。
(果たして俺はどうなるのだろうか)
そんな不安が、いつまでも胸の中で気持ち悪くうねっていた。
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