魔法の世界で、砲が轟く

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第四十話 敵を殲滅せよ

 既に敵が侵攻してから二月が経った。


 この時にもなると将兵の間で、魔王軍に謎の部隊が大打撃を与えたらしいと言う噂が軍内部のみならずジーマン国内においても立ち始めた。
 ジーマン首脳部としては真一達の部隊の事は極力伏せておきたかったことから、一部の上層部の人間にしか伝えられていなかったのだが、二ヶ月の期間の間、一度も敵からの攻撃がないことから将兵の間で魔王軍に何かあったのを勘ずいたのであろう。


 そんなときにジーマン軍は次の作戦への準備が完了した。


 そこで、作戦の概要を説明すべくクラウスが前線にまで出ていた。


 会議は前線の陣の真ん中にこしらえられた天幕内で指揮官達を集めて行われる。


「それでは次回の作戦について説明を行う」


 クラウスが声を掛けた。
 先ほども書いたように、前回の戦闘(ドニエパル側の戦い)において、大ダメージを喰らった魔王軍はその被害のためか、進軍を中止している。ジーマン側も戦闘を仕掛けていないために、戦線は動いていない。
 この戦局を打開すべく、立案されたのが今回の作戦である。


「敵は今、我が軍の攻撃に備えて陣地の補強、兵員の増強を行っている。現在、2日前の偵察隊の報告により分かっている範囲のことを説明する」


「敵陣にはこちら側のに半円を描くように対戦車壕を張り巡らされている。壕は一重のみだ。また、敵陣内部にもトーチカを補強したり、塹壕を掘ったりして、こちらの攻撃に備えているそうだ」


 そこで、と言ってクラウスは話を続ける。 


「まず、グデーリアンが指揮する第1独立師団は敵の本隊の正面から攻撃を行う。第3,4師団は敵陣左右に展開し、待機せよ。なお、それぞれの兵力は戦車隊30両、重砲40門、野砲や重機関銃を多数装備したそれぞれ4万の部隊だ」


 そう言って部屋の中央に置かれた大きい地図に、青色の友軍を示す駒が3つ置かれた。
 その正面には魔王軍を示す赤色の駒が置かれている。


「そして、敵の戦線を徐々にジーマン国内側から押していく。その間にジーマン第5,6師団はこの混乱に乗じて敵の部隊を左右に迂回し、後方から奇襲を仕掛けろ」


 地図に新たに置かれた二つの駒が赤色の駒の左右を通り抜け後方に迂回した後、赤の駒にぶつかった。


「第5,6師団はそのまま前進を続け、グデーリアン隊との合流を目指せ。この二つが合流したら、部隊を二つに分け、一方は右へ。もう一方は左を目指し、敵を殲滅する。この攻撃開始時に敵の左右に展開する第3,4師団に信号弾で合図を送る。そうすれば、左右に展開している部隊が前進を開始し、敵の包囲殲滅ができる」


「これで敵は逃げ道をなくすことになる。今回の目的は国内にいる敵を殲滅することだ。一兵たりとも逃がすな!」


 そこで一拍おいてから、話を続けた。


「作戦を聞いて分かるように今回は早さが何よりも重要だ。ゆえに作戦の根幹は戦車が担う事となる」


 そういった直後、全体からザワザワとどよめきが起こった。
 なぜなら、今まではジーマンにとって一番重要なのは機関銃だったからである。


 魔法兵というのは昔から自らの防御魔法に絶対の自信を持っているために、無防備に突撃をしてくることが多かった。それ故、重砲のような大型の砲よりも機関銃の砲が速射性や生産性などの点において優れていたのだ(昔は機関銃の弾でさえ防御魔法は防げなかった)。
 その後、敵の防御魔法が強力になってからは敵の魔法を貫通しうる武器が登場しなくなったため(一部の重砲は除く)に敵との攻防は専ら近距離戦(50m以内の戦闘)と言うことになった。
 それ故、遠距離からの広範囲攻撃で敵を殲滅する重砲よりも近距離から敵を攻撃しやすい機関銃が最近まで好まれるようになる。


 戦車の評価は機動力はあっても、どれも中途半端というものだ。
 重砲のように威力がある砲弾を撃つには力不足だし、機関銃を撃つならわざわざ戦車に積まなくても歩兵が打てば良い。装甲はある程度の魔法は弾けるが、それほど厚くもないという散々な評価である。
 そもそもジーマン軍は、敵地への進行を考えられて運用されてはいない。基本、敵からの攻撃を受け、それを防御するというのが基本理念だ。
 ジーマンは他の二国とは違い、食料や鉱山資源は自国領内で事足りている(それどころか、輸出すらしている)。
 ゆえに、敵の陣地を突破するための物を熱心に作らずとも構わないのだ。
 もちろん、自国領内に侵入してくる敵への対処をしなくてはならない。その時の塹壕突破時の歩兵護衛用、奇襲用の武器として戦車は定義されているため、主戦力ではなかった。
 

 そんなジーマンにおいて戦車の有用性を話す人間はいても、それを実戦に生かそうという者はいなかった。
 しかし、それを言った人物が出てきたのだ。
 しかも、それがジーマン陸軍のトップの一人であるクラウスの言葉であったのは、将官達をどよめかせるには十分な内容であろう。


「ここまでで質問はあるか?」


「はい」


 一人が手を挙げた。


「何だ?」


「今回は機動力が大事であると言われましたが、歩兵は足が速くはありません。いかがするおつもりですか?」


「質問に答えよう。今回はそのために、国内中の輸送車両をかき集めて全員が乗せられるだけの数は確保してある。それを使って貰う」


 ジーマンは機械中心に発達した国であり、車などは一般家庭にもかなり普及してるほどである。
 それ故、ジーマンの陸軍は元々機械化の大部分に成功している軍隊ではあった。


「分かりました。ありがとうございます」


「他には?」


「今回の主役は戦車との事でしたが、誰が指揮官として動くのでしょうか?」


「各戦車には新型の無線機を積んで貰う。それで、後方から私が指揮を執る。なお、今回の出撃に際してある方に少し戦車の運用について指導して貰う」


「その方は?」


「こちらへ」


 読者の皆様にも予測は付いているだろう。
 その人物というのは当然、グデーリアンである。


「私はハインツ・ヴィルヘルム・グデーリアン。宜しく。諸君は何故戦車の専門家がいるのだとか、私が何者なのかなど気になる点は多いと思う。しかし、今は戦時下、私に関することを調べてる暇があるなら、少しでもこの戦車戦の技術を身につけ、魔王軍に勝ってもらいたい」


 いきなり挑戦状のような言葉を投げかけたグデーリアンは、皆が反論を始める前に言葉を続けた。


「なお、今後、私の指導を受けたくないというのであれば、出て行って貰っても構わない。ただし、その者には今回の作戦から外れて貰うがね」


 誰も文句や質問をする者がいないのを確認したグデーリアンは戦車戦の方法についての簡単な講義を始めた。













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