魔法の世界で、砲が轟く
第三十九話 戦車への対策
「私は参謀部より派遣されてきたスーザンよ~!よ・ろ・し・く・ね♡」
筋肉だるまの化け……いや男が投げキスをしながら自己紹介をした。
そう。彼こそが皆が待ちに待っていた参謀部から派遣されてくる人物だったのだ。
しかし、本当にこのような人間が参謀部のような優秀な場所から派遣されてきた人物なのであろうか。
グレイには一抹の不安があった。
「スーザンじゃ~、ないか~」
唐突に後ろから間延びした声が聞こえた。
グレイが後ろを振り返るとニックが天幕から出てくるのが見えた。
おおよそ、グレイが帰ってこないために様子を見にきたのであろう。
「お二人はお知り合いなのですか?」
「士官学校時代にね~、同級生だったんだ~」
「うっふ♡その通りよ!彼昔からこんなキュートな性格だから、何度もお誘いしたんだけど乗ってくれなくて~……」
「その話は~、もう良いよ~。それよりも~、早く~、軍議を~、開始しよう~」
珍しく他人の話を遮ったニックは、天幕へと戻っていた。
「まだ照れてるのね!かわいい♡」
体をくねくねしながら、スーザンは天幕の中へと入っていった。
哀れ、グレイは軍団長のニックですらかなり濃いキャラなのにスーザンという変態も相手にしなくてはいけなくなったのである。
彼の胃は最早、悲鳴を上げつつあった。
こんな人間達で果たしてこの戦争に勝てるのであろうか。
グレイの不安は増すばかりであった。
天幕の中では兵士達が軍議のための地図などの道具を出していた。
軍議とは言っても、これからの作戦だけでなく今回の敗北の原因調査も行う。
そのために、普段ならば絶対呼ばれることのない一般の兵士(ジーマン軍と交戦した者)も呼ばれている。
今回の被害は負傷兵も含めると、全滅どころではなく壊滅に近い被害が出ていた。
被害
騎馬兵(奇襲部隊)2万内1万4293名戦死 1964名負傷
歩兵部隊(先鋒)1万内4529名戦死 3219名負傷
ここで、被害の話について軽く話しておこう。
読者の皆様の中にもご存じの方はいるであろうが、殲滅と壊滅と全滅では被害の大きさによって言葉を使い分ける。
全滅というのは部隊の損害が3割を超えた時。
壊滅というのは部隊の被害が5割を超えた時。
殲滅というのは部隊の被害が10割の時。
(記載によって若干割合に変動がある)
つまり全滅 壊滅 殲滅の順に被害は大きい。
一見、全滅というのは部隊が全損した時に使われる言葉だと思うかもしれないが、これには理由がある。
軍隊というのは部隊を大きく二つに分けると前方の実戦部隊と後方の支援部隊とに分かれる。だいたいの軍隊の人数費は実戦部隊5割、支援部隊5割と言ったところだ。
つまり、部隊の3割を失うと言うことは失う兵力はほとんどが前線部隊であるために(補給部隊のみが奇襲されたなどの特殊な事例は除く)、前線部隊の6割を失った計算になる。
これほどの被害が出ると、それだけの人数を補填するには一旦後方に退くしかなくなるために軍事的な行動を取るのは不可能となる。それ故、その部隊はないものとして扱われることから全滅という扱いになる。
「これだけの被害が出るとはね……」
あまりの被害の大きさにさすがのスーザンも絶句している。
いくら激しい戦いでも近年でこれだけの被害を出した戦いは存在しなかった。
ジーマンによる大規模な爆発が確認され味方に大きな被害が出たという話は聞いていたが、ここまでとは誰も予測できなかったであろう。
「ジーマンの爆発は坑道か何かを吹き飛ばしたときにできた物だと思われます」
グレイが言った。
「坑道?」
スーザンが聞き返した。
「はい。どうもジーマンはこの坑道を用いて我が軍に後方から奇襲を掛けた模様と思われます。さらに我々がジーマンの部隊を追いかけてこの坑道に入ったところを……」
「なるほど。でも坑道はもう存在しないわけでしょう?なら、問題ないわ」
「問題ないのですか?」
「ええ。今回の被害は坑道の爆発が大きな原因。でも、もうその手は使えない。ということは、これほどの被害が今後出ることはないと思うわ。ただ……」
「ただ?」
「ただ、問題は今回の戦いで確認された敵の戦車ね」
「そうですか?」
「そうよ~。だって、今後戦うことになるのはあの戦車よ!勝つ方法とかは考えられてるの?」
「……」
グレイは黙るしかない。
実はグレイ達司令部の悩みの一つがこれである。
前回の戦闘で目撃された敵の最新の戦車は、今までに見たことがないほど強力な戦車であるとの報告があった。
後に撃破された敵戦車を回収して調べると敵の砲撃能力は75cmまで強化されており、装甲も従来より厚くなっていた。
このような戦車を今後、敵に回すと思うと背筋が凍る思いであった。
現在の魔王軍の防御魔法は、相当無理をして作り上げた物であった。
ジーマンの戦車隊は、魔王軍の中ではかなり恐れられている。
なにせ、通常の魔法では破壊ができず、敵の砲撃は広範囲の味方を殺す。
このような一方的な殺戮を防ぐために、作り出したのが現在の防御魔法のシステムなのだ。
これのおかげで従来の物よりも相当強力な防御力を手に入れることができただが、それには重大な問題がある。
特殊な魔法石が必要なのだ。
これは魔王国領土内ではわずかしか取れず、コットン王国に輸入のほとんどを頼っている。
今回、コットン国との戦争でその石が出土する鉱山を手に入れたことで魔法を使えるようになったが、生産は未だ安定せず潤沢に仕えないのが実情だ。
そんな苦労をした上で手に入れた防御魔法を簡単に突破する戦車を敵は作り出してしまった。
対策を考えろと言われても、無茶な注文であった。
「何のために彼らを呼んだと思っているの?」
スーザンはグレイを見ながら聞いた。
スーザンの言う彼らとは戦闘に参加した者達だ。
「少なくとも敵戦車を破壊していると言うことは、破壊できないわけではない。つまり、無敵の戦車などではないの。彼らはどうやって戦車を撃破したのかを聞いて敵の戦車の破壊の仕方を考え出すのよ」
こうして、敵の戦車への対抗策を考える魔王軍であった。
筋肉だるまの化け……いや男が投げキスをしながら自己紹介をした。
そう。彼こそが皆が待ちに待っていた参謀部から派遣されてくる人物だったのだ。
しかし、本当にこのような人間が参謀部のような優秀な場所から派遣されてきた人物なのであろうか。
グレイには一抹の不安があった。
「スーザンじゃ~、ないか~」
唐突に後ろから間延びした声が聞こえた。
グレイが後ろを振り返るとニックが天幕から出てくるのが見えた。
おおよそ、グレイが帰ってこないために様子を見にきたのであろう。
「お二人はお知り合いなのですか?」
「士官学校時代にね~、同級生だったんだ~」
「うっふ♡その通りよ!彼昔からこんなキュートな性格だから、何度もお誘いしたんだけど乗ってくれなくて~……」
「その話は~、もう良いよ~。それよりも~、早く~、軍議を~、開始しよう~」
珍しく他人の話を遮ったニックは、天幕へと戻っていた。
「まだ照れてるのね!かわいい♡」
体をくねくねしながら、スーザンは天幕の中へと入っていった。
哀れ、グレイは軍団長のニックですらかなり濃いキャラなのにスーザンという変態も相手にしなくてはいけなくなったのである。
彼の胃は最早、悲鳴を上げつつあった。
こんな人間達で果たしてこの戦争に勝てるのであろうか。
グレイの不安は増すばかりであった。
天幕の中では兵士達が軍議のための地図などの道具を出していた。
軍議とは言っても、これからの作戦だけでなく今回の敗北の原因調査も行う。
そのために、普段ならば絶対呼ばれることのない一般の兵士(ジーマン軍と交戦した者)も呼ばれている。
今回の被害は負傷兵も含めると、全滅どころではなく壊滅に近い被害が出ていた。
被害
騎馬兵(奇襲部隊)2万内1万4293名戦死 1964名負傷
歩兵部隊(先鋒)1万内4529名戦死 3219名負傷
ここで、被害の話について軽く話しておこう。
読者の皆様の中にもご存じの方はいるであろうが、殲滅と壊滅と全滅では被害の大きさによって言葉を使い分ける。
全滅というのは部隊の損害が3割を超えた時。
壊滅というのは部隊の被害が5割を超えた時。
殲滅というのは部隊の被害が10割の時。
(記載によって若干割合に変動がある)
つまり全滅 壊滅 殲滅の順に被害は大きい。
一見、全滅というのは部隊が全損した時に使われる言葉だと思うかもしれないが、これには理由がある。
軍隊というのは部隊を大きく二つに分けると前方の実戦部隊と後方の支援部隊とに分かれる。だいたいの軍隊の人数費は実戦部隊5割、支援部隊5割と言ったところだ。
つまり、部隊の3割を失うと言うことは失う兵力はほとんどが前線部隊であるために(補給部隊のみが奇襲されたなどの特殊な事例は除く)、前線部隊の6割を失った計算になる。
これほどの被害が出ると、それだけの人数を補填するには一旦後方に退くしかなくなるために軍事的な行動を取るのは不可能となる。それ故、その部隊はないものとして扱われることから全滅という扱いになる。
「これだけの被害が出るとはね……」
あまりの被害の大きさにさすがのスーザンも絶句している。
いくら激しい戦いでも近年でこれだけの被害を出した戦いは存在しなかった。
ジーマンによる大規模な爆発が確認され味方に大きな被害が出たという話は聞いていたが、ここまでとは誰も予測できなかったであろう。
「ジーマンの爆発は坑道か何かを吹き飛ばしたときにできた物だと思われます」
グレイが言った。
「坑道?」
スーザンが聞き返した。
「はい。どうもジーマンはこの坑道を用いて我が軍に後方から奇襲を掛けた模様と思われます。さらに我々がジーマンの部隊を追いかけてこの坑道に入ったところを……」
「なるほど。でも坑道はもう存在しないわけでしょう?なら、問題ないわ」
「問題ないのですか?」
「ええ。今回の被害は坑道の爆発が大きな原因。でも、もうその手は使えない。ということは、これほどの被害が今後出ることはないと思うわ。ただ……」
「ただ?」
「ただ、問題は今回の戦いで確認された敵の戦車ね」
「そうですか?」
「そうよ~。だって、今後戦うことになるのはあの戦車よ!勝つ方法とかは考えられてるの?」
「……」
グレイは黙るしかない。
実はグレイ達司令部の悩みの一つがこれである。
前回の戦闘で目撃された敵の最新の戦車は、今までに見たことがないほど強力な戦車であるとの報告があった。
後に撃破された敵戦車を回収して調べると敵の砲撃能力は75cmまで強化されており、装甲も従来より厚くなっていた。
このような戦車を今後、敵に回すと思うと背筋が凍る思いであった。
現在の魔王軍の防御魔法は、相当無理をして作り上げた物であった。
ジーマンの戦車隊は、魔王軍の中ではかなり恐れられている。
なにせ、通常の魔法では破壊ができず、敵の砲撃は広範囲の味方を殺す。
このような一方的な殺戮を防ぐために、作り出したのが現在の防御魔法のシステムなのだ。
これのおかげで従来の物よりも相当強力な防御力を手に入れることができただが、それには重大な問題がある。
特殊な魔法石が必要なのだ。
これは魔王国領土内ではわずかしか取れず、コットン王国に輸入のほとんどを頼っている。
今回、コットン国との戦争でその石が出土する鉱山を手に入れたことで魔法を使えるようになったが、生産は未だ安定せず潤沢に仕えないのが実情だ。
そんな苦労をした上で手に入れた防御魔法を簡単に突破する戦車を敵は作り出してしまった。
対策を考えろと言われても、無茶な注文であった。
「何のために彼らを呼んだと思っているの?」
スーザンはグレイを見ながら聞いた。
スーザンの言う彼らとは戦闘に参加した者達だ。
「少なくとも敵戦車を破壊していると言うことは、破壊できないわけではない。つまり、無敵の戦車などではないの。彼らはどうやって戦車を撃破したのかを聞いて敵の戦車の破壊の仕方を考え出すのよ」
こうして、敵の戦車への対抗策を考える魔王軍であった。
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