魔法の世界で、砲が轟く

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第三十七話 戦車開発

 グデーリアンが、クラウスに戦車の運用の仕方について話しているとき、真一達はジーマンの兵器廠にいた。
 彼らは元々、軍オタである。
 故に、武器の性能などに関して詳しかった。
 そのため、彼らは兵器廠で武器の性能に関しての意見を求められていたのである。


 兵器廠では最新の兵器に関する研究などが進められている。
 間違っても、真一達のようなこの国に亡命してきた人間達を通すような場所ではない。
 しかし、そんなわがままを言っていられないのが今のジーマンであった。


 使える物は親でも使え。


 今のジーマンに最も当てはまる物がそれであろう。
 何せ、この戦いに負ければ確実にジーマンという国が消滅するのだ。その上、敵より兵力、兵器の質が共に劣っている。そんな中、敵に被害を与えられる性能の兵器を持つ人間が現れたら、軍事機密など関係なく、その人間を利用せざるを得ないであろう。




「次期主力戦車(MBT)はこんな高性能な物が必要なのですか!」


 ジーマン兵器廠の技術者が悲鳴にも近い声挙げた。


 そこに記載された内容は以下の物であった。


主砲
 長砲身の75mm砲
速力
 整地において時速50km
 不整地において時速30km
装甲
 砲塔前面50mm
 砲塔側面後面20mm
 車体前面70mm
 車体側面40mm
 車体後面30mm
 (傾斜装甲)
乗員
 5名
追記
 ターレットリングは1850mm以上の大きさを取っておくこと。


 参考までに現在のジーマンの主力戦車のZ4戦車のスペックを書いておこう。


主砲
 長砲身56mm砲
速力
 整地において時速45km
 不整地において時速10km
装甲
 砲塔前面30mm
 砲塔側面後面15mm
 車体前面50mm
 車体側面30mm
 車体後面10mm
乗員
 4名


 と言う物であり、今までから考えれば、かなり高性能な戦車を作ろうとしていたのである。


「この性能の物が作れなければ我が国は負ける。敵の装甲は75mmでもなければ貫けない。さらに機動力や防御力も足りない」


 守が淡々と述べた。
 これは事実である。敵の攻撃力や防御力は現在、飛躍的に向上している。
 戦争というのは多くの犠牲を出すと同時に科学力や技術力が大きく進歩するという面もあるのだ。
 ゆえに、今後敵が向上させうる軍事力のことを考えると、この性能の物は必要であるし、場合によってはこれ以上の物が必要であると思われていた。


「分かりました。ちなみに開発期間はどれほどでしょうか?」


「10ヶ月以内にお願いしたい」


「また、ずいぶんとギリギリですね。しかし、やらねばならぬのでしょう?」


 守は黙ってうなずいた。


「良いでしょう。我々の名にかけて完成させましょう」


「ありがとう」


 こうして、ジーマンにおいて新たな戦車開発が始まるのであった。




 真一は、統合本部の中にある人事課の方へと呼び出されていた。
 理由は真一の機甲部隊にジーマンの将官を入れろという物であった。


「我々といたしましては今後、ジーマンで飛躍的に向上して行くであろう戦車に関して詳しい者は我が国には存在しません。このままではあなた方しか戦車を扱える部隊がいないことになってしまう。しかし、私たちはジーマン国民の面子としてはその技術を体得、自分たちでも祖国を守れるようにしたいのです。」


 人事課の局長が真一にそうお願いをしてきた。


(実際はこちらが主導権を握りすぎると後で面倒だから、いざとあらば、我々を切り捨てても良いように予備の人間を自分たちの手駒にしておきたいのであろう)


 真一は今回のことをそう解釈していた。
 もしこのまま、真一達しか戦車戦の指揮が執れない場合、真一達が殺されれば、ジーマンは負ける。
 また、勝ったとしても真一達が調子に乗って無茶な要求をしてくれば、ジーマンはそれをのむ以外に選択肢はない。もしこの時に要求を呑まず見捨てられたら、やはりジーマンは負ける。
 こうしたリスク分散のためと言うことであろう。


(だが、指揮を執れるようになれば俺たちの負担も減るし、断る理由もない)


 そう考えた真一はこの話を受けることにした。
 どちらにせよ、真一達は今ジーマンの保護下にある。
 この国が負けて困るのは真一達も同じなのだ。
 こうして数人の若いジーマンの将校が真一達の部隊に組み込まれることとなった。


  用件が終わった二人は、宿舎に帰るために集まっていた。


「しかし、真一。このような戦車を作るよう指示を出さなくても俺が召喚すれば解決じゃないのか?」


 守は疑問に思っていたことを真一に聞いた。


「いや、それでは俺たちに力が集中することになり、余計な争いに巻き込まれることになる。古代の英雄達もそうして死んだ例は数多ある。そうしたことを回避することに加え、我々への負担が減ることとなる。我々に悪い話ではない」


「なるほど。確かに」


 守は納得したのかそれ以降、その話に触れることはなかった。
 しかし、その話には続きがあった。
 あえて、真一は言わなかったのだ。


(どちらにせよ、我々は戦果を多く稼ぐことになる。そうなれば、本国の連中は俺たちを煙たがって政争に巻き込むに違いない。その時、私たちは果たして切り抜けられるだろうか……)


 その時の空は真一の心の中を表すように、曇っていた。



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