魔法の世界で、砲が轟く

spring snow

第三十四話 原因調査④

「貴様、何者だ!」


 新庄は腰にある拳銃に手を掛けて、いつでも引き抜ける体制を整えて怒鳴った。


 目の前にいる少女が言ったことは、知られてはいけない重要な情報ばかりである。
 この情報を知るのは新庄と主の真一達だけだ。
 つまり、目の前の少女はその機密をどうにかして知り得たことになる。
 場合によっては問答無用で目の前の少女を何があっても話せない状態にしなくてはならない。


しかし、仮にも相手は少女である。
新庄はできる限り最悪な事態とならないような策を巡らせていた。


 しかし、このような状況を目の前にしても少女は全く狼狽えない。それは怯えや恐怖によって動かないのではなく、絶対に撃たないと分かっているような安心感から動かないようだ。表情はリラックスしているように見える。


「おじさん、その手に握っている物は撃てないよ」


 唐突に言った少女の一言に新庄は勘づく。


心を読まれている!


 これはスパイにとって致命的な状況であった。
 何かを隠そうとしても全て見透かされる。これは起こりえない状況である。


 普通、人は表情筋や体の動きから相手の心理状況を把握する。
 瞳孔が開くときは、驚きと言った感情を表すことや足をぶらぶらさせているときは退屈さを感じているなど人の感情はどこかしらから読み取れることが多い。


 しかし、スパイはこうした動きを極力なくすように訓練される。
 なぜなら、スパイは絶対に敵に情報をつかまれてはいけないからであることは明白であろう。
 故に、相当な観察眼と見破る能力がなければスパイの感情などを見破るのはほぼ不可能である。


 しかし、この世界にはそんなことを無視して無茶苦茶な方法で相手の感情を読みとる方法がある可能性が高い。
 元の地球においては考えられないような方法。


「魔法か……」


魔法であるなら、こうした見破る訓練を受けなくても簡単に見抜くことができる。しかも、先ほど少女が言った中に感情からだけでは把握できない情報もあった。
よって、これは魔法である可能性が高いという結論に至ったわけだ。


「ご名答。よく分かったね」


 少女は何の感情もこもっていない無機質な声で答えた。


「私は、生まれつき人よりも多い魔力の持ち主でね。この目はその魔力から来た物のようだ。ま、と言ってもこいつは災いしかもたらさなかったけどね……」


 今まで、無表情であった少女が一瞬だけ寂しそうな顔をしたのを新庄は見逃さなかった。
 この理由はだいたい予測が付く。


 人間に限った話ではないのだが、動物というのは元来、見慣れない物に対して警戒心を強く抱くものである。それゆえ、オッドアイなど見たことがない人が彼女を見れば不気味に思って近寄ろうとしないであろう。
 おそらく、彼女はお金が理由なのではなく、その身体機能から森に捨てられたのだ。


 新庄はその親に対し、強い怒りを覚えた。


子供は親を選ぶことなどできない。
しかし、親は子供を持つ否かを決めることはできる。だからこそ、親は子供が生まれたらその子供を心から愛し、育てる義務がある。
にもかかわらず、その生まれてきた子供を捨てるというのはどのような理由があるにしろ新庄には許せないことであった。


そんな新庄を見て少女は怒鳴った。


「勝手な予測で私の親のことを非難するな!貴様如きに私たちの何が分かると言うんだ!」


「私の親は私をここらから愛していたし、育て上げようともしてくれた!だが、周りの大人達は違った!左右で目の違う私を不気味に思っていたから、常に距離を置いていた!だから、人の感情が分かることは隠していた。余計に不気味に思われ、下手すれば命が狙われる。それ以上に嫌だったのは、両親に迷惑が掛かると思ったからだ。幼心に分かっていた。しかし、あるときに破滅の時が来た」


 そこで一呼吸を着く。


「私が10歳の頃だ。両親がある店で買い物をしていたとき、店主が両親をだまそうとしているのが感情が読み取れたから分かった。それを指摘した私は、能力がバレた。恐れていた最悪の事態が起こった。私は不気味な子から悪魔の子と言われるようになり、事ある毎に命を狙われた。あるときは、川に落とされそうになり、またあるときは馬車にひかれそうになり。もう家の外には出られなくなっていた。それでも親は私のことを大切に育ててくれた。だから、私の居場所は家族の中だけだった」


そこまで言い切ったが、言葉が続かなかった。
 泣いていたのだ。何となく先の言葉の予測が付いた新庄は止めようとする。


「もう分かった、これ……」


「私の両親はその者達に殺されたんだ!あいつらは、なかなか殺せない私を確実に亡き者にすべく、親を無残に殺し、私を誘い出そうとした!運良く、森に遊びに出かけていた私は逃げられた。突然親の感情が聞こえてきたんだ。『帰ってきてはいけない!早く逃げろ』という声が……」


 彼女は泣き崩れた。
 シム爺は黙って彼女のそばに行き、魔法をかけて彼女を眠らせた。


「すまんの。コノミのことを守るには嘘をつくしかなかった。親が捨てたと言えば普通はそれ以上の追求はしない。彼女にあの記憶をよみがえらせたくはなかった」


 その言葉は新庄に懺悔するかのような言葉だった。


「わしが見つけたときは満身創痍の状態であった。切り傷はあちこちにでき、足の皮は完全にめくれ、ろくに食事もとれずにやせ細っていた。わしは家の急いで連れて帰り、介護をしてやりどうにか一命は取り留めた。しかし、体がいくら良くなっても心だけはあの頃の満身創痍のままじゃ。今でも、時折暴れ出すことがある。わしには、あの頃の記憶を思い出させない以外に救う手立てはない」


 今にも崩れ落ちそうな言葉は深々と新庄の胸に突き刺さる。


「それを話して何になる……」


 その感情をぐっとこらえて、新庄は冷たく言い放つ。
 新庄は軍人だ。
 彼らを救いたいのは山々だが、第一に考えるのは真一達の利益でなくてはならない。


「さあ、わしにも分からんが、お前さんなら話しても良いと思ったんじゃ」


 弱々しく話すシム爺に新庄は話した。


「シム爺よ、取引をしないか?」



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