魔法の世界で、砲が轟く

spring snow

第三十三話 原因調査③

「わしも聞いた話でしかないが、魔王軍の進行時にその部隊は壊滅したらしい」


「どういうことです!そんな強力な部隊であればやばいと思えば逃げられるでしょう!」


「それが何故か壊滅したらしい。理由はよく分からん。風の噂で伝わってきた程度だ」


その噂が伝わってきたのは、今から半年ほど前という。


これが本当だとすれば、一大事である。
それだけの優秀な部隊を壊滅させられるほどの戦力があるとなると真一達が戦闘を行って無事とは思えない。


ただ、今回の話の目的は王国軍の話だ。


何故そんな部隊の話なのであろうか。


「何故その話を今のタイミングで?」


「まあ、そう急かすな。爺の話を聞いておくと後で役に立つ物だぞ」


 新庄はシム爺にたしなめられてしまった。
 しかし、彼の言うとおり役に立つ重要な話が手に入ったのは事実だ。ここは黙っておくのが適当だろう。


「そしてその部隊は、それ以来、消息を絶った。今まではこの国精鋭として事ある毎に色々な場面に登場していたのだが、ここ最近はぱったりであるから噂は信憑性が高い」


「で、おぬしの気になっている話についてだが、真っ白な旗を持つ軍はこの世界に存在しない」


「では、一体……」


「しかし、一見、真っ白な旗に見える旗を持つ部隊はいる。それは戦場でも目立つような色の旗にすべく作られたのだよ。その部隊はあまりの強さから味方の士気を上げると同時に敵の士気を消し飛ばすことができるかだ」


「ま、まさか……」


 王国軍の鎧を着ていて、すさまじい強さを発揮するが故に目立つ旗を掲げる部隊。
 ここまで聞いて、先ほどのシム爺の話を思い出せば予測は容易に付く。


「そうじゃよ。即応軍じゃ」


 一言、ぼそりと呟いた。


「だが、何故……」


「申し訳ないが、これも分からんのだよ。壊滅したという噂が嘘であったのか、敵が錯乱のためにこうしたのか。全く分からん」


「しかし、敵がここで錯乱を行う利点がない。と考えると噂が嘘であったと考えるのが自然であるが、半年の空白は何であったのかが説明できん。その日に起こったのが……」


「国王軍消滅ですね」


「そうじゃ」


 新庄は一気に増えていく謎に困惑していた。


 とりあえず現場を見てみないことにはなんとも言えない。
 そのシム爺が見たという現場に行ってみることにした。


「その現場はどこですか?」


「ここから北へ4km行ったところじゃ。現場に行くのかね?」


「とりあえず行ってみるつもりです」


「そうか。ならば、案内人をつけた方が良い」


「ですが、案内人など……」


「わしの孫に案内人に適任がおる」


「お孫さんですか……」


「と言っても、森の中に捨て子として置かれていた子を預かったので、義理の孫だがの」


「そ、そうですが……」


 自分の母国でもある日本にも、お金がないために子供を身売りにしたりすることも少なくはなかった。
 このような、あまり時代の発展していない国においては当たり前であろう。
 その話にはそれ以上、触れないことにした。


「その案内人のお方はどちらに?」


 聞くと、シム爺はしばらく部屋の奥にある本棚をじっと見つめた後、ため息をつきながら言った。


「だそうじゃよ、コノミ。聞いておるのじゃろ」


 そう言うと、奥の本棚ががたがたと揺れ始め突然扉のようにぱかっと開いた。
 あの本棚は隠し扉であったらしい。
 中から、16、7歳の少女が飛び出してきた。


「いや~、バレていましたか!さすがですね、老師!」


「わしの目をごまかそうとは百年早いわ」


 その少女は快活そうな子で、黒い髪でボーイッシュな髪型であった。
 しかし、顔のある一点が変わっていた。
 それはオッドアイであることであった。右目が金色、左目が銀色である。


 初めて見た人がいれば驚くであろう。
 しかし、新庄が驚いたのは別の点であった。


「君はあのときの……」


 そう言うとその少女は新庄を見ながら叫んだ。


「あ~!昨日のおじさんだ!案内する人はおじさんのことだったんだ!」


 昨日、新庄が調査をできなかったのは誰であろう彼女に原因があった。


時は昨日の新庄が村に入った頃にまで遡る。




 新庄はまず宿を探すことから始めた。
 しかし、この村に来たのは初めてであるからどこに何があるのかがまるで分からない。
 村の中で迷っていると、目の前に少女が来て話しかけてきた。


「ねえ、おじさん。どこから来たの?」


「村の外からだよ」


「へえ!村の外ってどんな?」


「そうだな、とっても高い建物がたくさんあったり、向こうの見えないような大きい湖があったりするよ」


「そうなんだ!私、村の外から出たことがないから…。もっと話を聞かせてよ!」


 その後、日が沈むまで話をさせられた新庄であった。
そのために調査の続きができなかったのだ。
村の宿の場所が聞けたから、新庄は彼女には感謝はしていた。


「おじさん、あの場所、気になっていたんだ」


「まあな、そういった噂を追うのが好きでね」


「へ~!変わった趣味だね!」


「まあな」


 言葉少なに返す新庄。
 何故か、この少女に嘘をつくのが苦しくて仕方が無かったのだ。


こんなことは今まで無かったのだが……


初めて感じる感覚に戸惑っていた新庄は言葉を返す余裕が無かったのだ。


「おじさん、それ、嘘だね」


 少女はぼそりと呟いた。


「え……」


 思わず黙り込んだ。


何故バレた!


新庄は驚愕せざるを得なかった。
うろたえたのは事実だが、仮にも諜報員であった新庄の真意を簡単に見抜けるものではない。
しかし、目の前の少女は簡単に見抜いてきている。


「コノミ!」


 シム爺が叫ぶが、少女は止まろうとしない。


「おじさん、真一とか言う人の指示で動いているんでしょう」


 あまりの的確な見破られ方に新庄はその少女への警戒を高める。
 部屋の中に緊張した雰囲気が漂い始めた。



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