魔法の世界で、砲が轟く
第三十話 焦り
グデーリアンは味方の無線から聞こえてくる戦況を聞きながら、自分たちがどう動くべきか戦況を練っていた。
やがて、敵の野営地まで残り1kmを切ったとき不意に無線機から連絡が入った。
「熊の足を撃った。繰り返す熊の足を撃った」
暗号で敵の馬をなくし終えたと言うことだ。
つまり、敵はグデーリアン隊に対抗する手段はほぼ無くなったに等しい上、逃げる手段も失ったわけだ。
グデーリアンはここで、敵に降伏を申し入れてはどうかと一瞬考えたが、すぐに頭から消した。
敵は魔法を使える可能性が高い。
魔法を使えなくする方法を知らないグデーリアン達は、降伏した敵を受け入れた瞬間、後ろからやられるなんて状態になりかねない。
それを防ぐためには敵を降伏させるのではなく、敵を殲滅するしかない。
そう決意を固め、敵がいるであろう方向をにらみつけた。
そして、大音声で無線機に怒鳴った。
「重砲はこの位置にて砲撃準備をせよ!護衛として200名の兵士をつける。残りの部隊は私に続け!」
そして、グデーリアン隊は後方から榴弾砲による遠距離射撃をする部隊と前線に出て突撃を敢行する部隊とに分かれた。
さらに700m進み、敵との距離が300mのところまで来た。
グデーリアンは司馬懿と連絡を取る。
「グデーリアンより司馬懿へ。敵の陣まであと、300mだ。できることなら、突撃
前に援護射撃をして敵を混乱させていただきたい」
「了解。これより援護射撃を開始する。どの位の時間の間だい?」
「敵の陣地に突入するまでだから1分ほどで頼む」
「了解」
そう言って、無線が切れた。
グデーリアンはそこで一旦、部隊を停止させる。
平原には、車両のエンジン音だけが鳴り響く。
しばらくすると、トーチカ陣地から複数の射撃音が聞こえてきた。
元々、敵に狙いをつけていたようだ
かなり、正確な砲撃であり、重砲の弾も撃っているのか時折、敵の陣地に大きな火柱が上がる。
「Panzer vor!」
グデーリアンはそう叫んで、全車両が突撃を始める。
すぐに、ハッチを閉め車長の席から前方を見ると前方では数人の敵兵が天幕から飛び出してきて馬を止めている場所に走って行くのが見える。
しかし、そこを味方の機関銃がなぎ払い敵兵は血しぶきを上げて倒れていく。
1分を過ぎたのであろう。
唐突に砲撃がやんだ。
敵との距離まで残り、100mを切る。
敵はこちらの存在に気付いたのかこちらに向けて剣を抜き構える者、逃げ出す者、馬を取りに走る者などいろいろな兵士がいる。
だが、どの兵士にも等しく鉛玉の洗礼が降り注ぎ、自らが作り出した赤い水の中に体を沈めていった。
グデーリアンが味方の戦車隊に目を向けると先鋒の戦車隊がろくに隊形も組まないで、敵陣に入っていくのが見えた。
敵がどんな魔法を使うか分からない以上、かなり危険な行為だ。
実際、先ほどの戦場においてその無防備な後部のエンジンを狙われ破壊された戦車が何両か存在しているのをグデーリアンは見ている。
確かに戦車はこの世界においてかなり強力な兵器ではあるが決して、撃破されないわけではないのだ。
グデーリアンが急いで止めようと指示を出そうとするが、時既に遅く、そのうちの一両がエンジンに魔法を喰らい、炎上するのが見えた。
すぐに、他の車両は後退を始め、横に隊列を組みつつ砲撃をする。
敵も反撃をしようと前進したところを砲弾に吹き飛ばされていく。
だが、今回の敵はかなり訓練されているらしく、混乱も立ち直り、隊列を組み始めている。
騎馬隊で騎馬を使えていないうえ、奇襲を受けているにも関わらず、これほどの練度を誇ることにグデーリアンは内心、舌を巻いていた。
(予想より厳しい戦いになるぞ)
彼は心の中で呟いた。
彼の車両の前にいた敵兵がまた一人、吹き飛ばされた。
司馬懿は作戦が全て成功したとき、勝ったと思った。
しかし、今はどうであろうか。
敵の予想外の奮闘により、戦車隊は攻めきれずにいる。犠牲は少ないのだが、決定打が出せないのだ。
この時、グデーリアンは真横に一列に並んだ戦車隊を突撃させる方法をとったのだが、敵はそれを闘牛を避ける闘牛士のように躱して、すれ違いざまに魔法を浴びせるために戦車隊にも無視のできない被害が出ている。戦車隊に後続している歩兵隊は敵が完全に守りを固めてしまっているため、攻めあぐねていた。
この事態を打開すべく、一旦後退して砲兵と戦車による砲撃を行っているのだが、敵が多いために戦況は硬直していた。
しかも、今回は敵の本隊が到着する前に全てを終わらせねばならず、タイムリミットは刻々と迫っていた。
このままでは、作戦目標を達成することができない。
焦燥に駆られる司馬懿。しかし、何も案は出てこない。
時間だけがただ過ぎていった。
誰もが今回は負けたかもしれない、そんな不吉な考えが頭をよぎったとき、森から数量の戦車が飛び出してきて敵に突っ込んで行った。
予想外のところからの攻撃に誰もが目を見開いた。
敵は完全に不意を突かれ、大混乱に陥る。
この戦車隊は敵の騎馬隊を発見した段階で司馬懿が森に移らせた戦車隊である。
今まで、ずっと待機していたが、戦況が硬直したのを見て無断で動いたのだ。
砲をぶっ放しつつ、突撃していった戦車はその勢いを殺さずに敵を引き倒していく。
この好機を逃すグデーリアンではない。
全軍突撃を命令して、一気に攻め込んだ。
戦車のエンジンは猛々しく吠え、その何トンもある車体を動かす。
この突撃を前にして敵は総崩れを起こし、その銃火に次々と倒れる。
時折、敵にも手練れがいて混乱の中、物陰に隠れてはこちらの兵を魔法で倒す兵士はいるが、最早敵は軍として成り立っていない。
この戦いは誰が見ても、ジーマンの勝利が決まったことを見せていた。
そろそろ頃合いかと判断した司馬懿は退却を命じた。
すると、今まで敵陣の中を荒れ狂っていた戦車や兵士が一気に退却していく。
この時、敵は体勢を立て直すのに必死でこちらのことなど構っていられなかった。
そして、トーチカ陣地から撤退しようと坑道の入り口にまでグデーリアン達が後退すると先ほどまで攻めていた敵の先鋒隊が体勢を立て直してきたらしく、攻め込んでくるのが見えた。
しかも、騎馬隊の方もこちらに向かってくる。
大急ぎで、後退していき坑道に逃げ込んだ。
しかし、敵は逃がさぬとばかりに坑道の中にまで入り込んできて、魔法を放ってきた。
司馬懿はこのことを予測し、戦車隊に殿を任せていた。
こちらも負けじと主砲をぶっ放す。
敵の兵士が吹き飛ぶが、後ろにいる兵が今度は前に出てきて魔法を放つ。
魔法は運良く前面装甲に跳ね返される。
こんな、生死をかけた鬼ごっこは、坑道を出るまで続いた。
やがて、坑道の出口が見えてグデーリアン隊は無事脱出したが、敵は何が何でも逃がしたくないらしい。坑道の中から敵の雄叫びが徐々に近づいているのが分かった。
そこで、司馬懿は近くの坑道監視所に連絡。
坑道を発破させることにした。
敵の声が大きくなっていき、一人目が飛び出そうとした瞬間、坑道の出口があった場所からすさまじい光が出た。
次の瞬間、そこから信じられない大きさの火柱が上がり、地面を大きく揺さぶった。
周りに大きな爆発音が響き渡り、土煙が上がった。
しばし、視界が見えなくなる。
視界が開けてくると、坑道が通っていたであろう場所は全て地面が陥没して時たま、開いた穴から多くの黒煙が上がり続けている。
その黒煙は、まるで魔王に味方の全滅を見せつけるように高いところまで上がっていた。
やがて、敵の野営地まで残り1kmを切ったとき不意に無線機から連絡が入った。
「熊の足を撃った。繰り返す熊の足を撃った」
暗号で敵の馬をなくし終えたと言うことだ。
つまり、敵はグデーリアン隊に対抗する手段はほぼ無くなったに等しい上、逃げる手段も失ったわけだ。
グデーリアンはここで、敵に降伏を申し入れてはどうかと一瞬考えたが、すぐに頭から消した。
敵は魔法を使える可能性が高い。
魔法を使えなくする方法を知らないグデーリアン達は、降伏した敵を受け入れた瞬間、後ろからやられるなんて状態になりかねない。
それを防ぐためには敵を降伏させるのではなく、敵を殲滅するしかない。
そう決意を固め、敵がいるであろう方向をにらみつけた。
そして、大音声で無線機に怒鳴った。
「重砲はこの位置にて砲撃準備をせよ!護衛として200名の兵士をつける。残りの部隊は私に続け!」
そして、グデーリアン隊は後方から榴弾砲による遠距離射撃をする部隊と前線に出て突撃を敢行する部隊とに分かれた。
さらに700m進み、敵との距離が300mのところまで来た。
グデーリアンは司馬懿と連絡を取る。
「グデーリアンより司馬懿へ。敵の陣まであと、300mだ。できることなら、突撃
前に援護射撃をして敵を混乱させていただきたい」
「了解。これより援護射撃を開始する。どの位の時間の間だい?」
「敵の陣地に突入するまでだから1分ほどで頼む」
「了解」
そう言って、無線が切れた。
グデーリアンはそこで一旦、部隊を停止させる。
平原には、車両のエンジン音だけが鳴り響く。
しばらくすると、トーチカ陣地から複数の射撃音が聞こえてきた。
元々、敵に狙いをつけていたようだ
かなり、正確な砲撃であり、重砲の弾も撃っているのか時折、敵の陣地に大きな火柱が上がる。
「Panzer vor!」
グデーリアンはそう叫んで、全車両が突撃を始める。
すぐに、ハッチを閉め車長の席から前方を見ると前方では数人の敵兵が天幕から飛び出してきて馬を止めている場所に走って行くのが見える。
しかし、そこを味方の機関銃がなぎ払い敵兵は血しぶきを上げて倒れていく。
1分を過ぎたのであろう。
唐突に砲撃がやんだ。
敵との距離まで残り、100mを切る。
敵はこちらの存在に気付いたのかこちらに向けて剣を抜き構える者、逃げ出す者、馬を取りに走る者などいろいろな兵士がいる。
だが、どの兵士にも等しく鉛玉の洗礼が降り注ぎ、自らが作り出した赤い水の中に体を沈めていった。
グデーリアンが味方の戦車隊に目を向けると先鋒の戦車隊がろくに隊形も組まないで、敵陣に入っていくのが見えた。
敵がどんな魔法を使うか分からない以上、かなり危険な行為だ。
実際、先ほどの戦場においてその無防備な後部のエンジンを狙われ破壊された戦車が何両か存在しているのをグデーリアンは見ている。
確かに戦車はこの世界においてかなり強力な兵器ではあるが決して、撃破されないわけではないのだ。
グデーリアンが急いで止めようと指示を出そうとするが、時既に遅く、そのうちの一両がエンジンに魔法を喰らい、炎上するのが見えた。
すぐに、他の車両は後退を始め、横に隊列を組みつつ砲撃をする。
敵も反撃をしようと前進したところを砲弾に吹き飛ばされていく。
だが、今回の敵はかなり訓練されているらしく、混乱も立ち直り、隊列を組み始めている。
騎馬隊で騎馬を使えていないうえ、奇襲を受けているにも関わらず、これほどの練度を誇ることにグデーリアンは内心、舌を巻いていた。
(予想より厳しい戦いになるぞ)
彼は心の中で呟いた。
彼の車両の前にいた敵兵がまた一人、吹き飛ばされた。
司馬懿は作戦が全て成功したとき、勝ったと思った。
しかし、今はどうであろうか。
敵の予想外の奮闘により、戦車隊は攻めきれずにいる。犠牲は少ないのだが、決定打が出せないのだ。
この時、グデーリアンは真横に一列に並んだ戦車隊を突撃させる方法をとったのだが、敵はそれを闘牛を避ける闘牛士のように躱して、すれ違いざまに魔法を浴びせるために戦車隊にも無視のできない被害が出ている。戦車隊に後続している歩兵隊は敵が完全に守りを固めてしまっているため、攻めあぐねていた。
この事態を打開すべく、一旦後退して砲兵と戦車による砲撃を行っているのだが、敵が多いために戦況は硬直していた。
しかも、今回は敵の本隊が到着する前に全てを終わらせねばならず、タイムリミットは刻々と迫っていた。
このままでは、作戦目標を達成することができない。
焦燥に駆られる司馬懿。しかし、何も案は出てこない。
時間だけがただ過ぎていった。
誰もが今回は負けたかもしれない、そんな不吉な考えが頭をよぎったとき、森から数量の戦車が飛び出してきて敵に突っ込んで行った。
予想外のところからの攻撃に誰もが目を見開いた。
敵は完全に不意を突かれ、大混乱に陥る。
この戦車隊は敵の騎馬隊を発見した段階で司馬懿が森に移らせた戦車隊である。
今まで、ずっと待機していたが、戦況が硬直したのを見て無断で動いたのだ。
砲をぶっ放しつつ、突撃していった戦車はその勢いを殺さずに敵を引き倒していく。
この好機を逃すグデーリアンではない。
全軍突撃を命令して、一気に攻め込んだ。
戦車のエンジンは猛々しく吠え、その何トンもある車体を動かす。
この突撃を前にして敵は総崩れを起こし、その銃火に次々と倒れる。
時折、敵にも手練れがいて混乱の中、物陰に隠れてはこちらの兵を魔法で倒す兵士はいるが、最早敵は軍として成り立っていない。
この戦いは誰が見ても、ジーマンの勝利が決まったことを見せていた。
そろそろ頃合いかと判断した司馬懿は退却を命じた。
すると、今まで敵陣の中を荒れ狂っていた戦車や兵士が一気に退却していく。
この時、敵は体勢を立て直すのに必死でこちらのことなど構っていられなかった。
そして、トーチカ陣地から撤退しようと坑道の入り口にまでグデーリアン達が後退すると先ほどまで攻めていた敵の先鋒隊が体勢を立て直してきたらしく、攻め込んでくるのが見えた。
しかも、騎馬隊の方もこちらに向かってくる。
大急ぎで、後退していき坑道に逃げ込んだ。
しかし、敵は逃がさぬとばかりに坑道の中にまで入り込んできて、魔法を放ってきた。
司馬懿はこのことを予測し、戦車隊に殿を任せていた。
こちらも負けじと主砲をぶっ放す。
敵の兵士が吹き飛ぶが、後ろにいる兵が今度は前に出てきて魔法を放つ。
魔法は運良く前面装甲に跳ね返される。
こんな、生死をかけた鬼ごっこは、坑道を出るまで続いた。
やがて、坑道の出口が見えてグデーリアン隊は無事脱出したが、敵は何が何でも逃がしたくないらしい。坑道の中から敵の雄叫びが徐々に近づいているのが分かった。
そこで、司馬懿は近くの坑道監視所に連絡。
坑道を発破させることにした。
敵の声が大きくなっていき、一人目が飛び出そうとした瞬間、坑道の出口があった場所からすさまじい光が出た。
次の瞬間、そこから信じられない大きさの火柱が上がり、地面を大きく揺さぶった。
周りに大きな爆発音が響き渡り、土煙が上がった。
しばし、視界が見えなくなる。
視界が開けてくると、坑道が通っていたであろう場所は全て地面が陥没して時たま、開いた穴から多くの黒煙が上がり続けている。
その黒煙は、まるで魔王に味方の全滅を見せつけるように高いところまで上がっていた。
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