陽光の黒鉄

spring snow

第47話 空戦

「行くぞ」


 無線に小さくささやき、上空から下の空域にいる敵機目がけて突っ込んでいった三機の機体がいる。
 戦闘にいる戦闘機は下に展開している敵機のうちの一気に狙いを絞り標準機いっぱいになるまで待ち、機銃を放った。
 距離が近いこともあり、敵機はなすすべも無く機体から黒煙を上げて急激に高度を下げていった。
 その三機はそれぞれ違う機体を狙い、全機とも一機ずつ敵機を落とし、急降下していった。敵はすぐに戦闘機の仕業と気づき、急いで急降下した機体をおっていく。追うのは米海軍の主力戦闘機となっているF6Fヘルキャットだ。
 しかし、三機はそんなヘルキャットに挑もうともせずそのまま上昇していき攻撃隊に続く二撃目を仕掛けた。やはり至近距離で撃つため先ほどと同じように三機が落ちていった。ここに来て敵攻撃隊も危険と感じたのか、それぞれ隊ごとに分かれ逃げ始めた。


「佐藤、大久保付いてきているか?」


「大丈夫ですよ」


「私も」


 隊長と思わしき人物が無線機に声をかけると元気な返事が返ってきた。


「良いか。敵は攻撃機をやられ怒り狂っている。どこから来るとも分からん。だから常に周囲への警戒を怠るなよ」


「「了解」」


 その直後、後方から迫る一機のヘルキャットが見えた。


「そら、きなすった」


 すぐに各機体はばらばらに散り始めるが、ヘルキャットは狙いを付けたのは隊長機であった。


「ちょうど良い。お前ら、こいつを仕留めろ」


 そう言うと彼は上手くヘルキャットを付かせながら機体を右へ左へと傾け、射線に取られないよう敵を翻弄する。完全に敵は頭に血が上っているのか後ろを気にせずに闇雲に撃ちまくってくる。


「あいにくその程度の攻撃に当たるような腕では無くてな」


 その直後、風防が赤く染まった。後方の爆発が風防のガラスに反射したのだ。


「よくやった」


「ありがとうございます!」


 先ほど佐藤と呼ばれた兵士の声だ。


「敵機二機、接近してきます。隊長機の後方下よりです」


「分かった」


 すぐに機体を増速させ、急降下を仕掛ける。
 今度はそれぞれ佐藤機と隊長機に張り付いた。


「大久保、佐藤にくっついた奴をやれ。俺は自分でなんとかする」


「了解」


 彼は後方の敵機を見ながら急降下を始めた。敵機はその動きに合わせて急降下を始める。
 敵機の機速が速まり、着々と彼の機体との距離を詰め始めた。その瞬間、彼は一気に操縦桿を引いた。


 彼の操る一式艦上戦闘機は諸外国の戦闘機と比べても見劣りするモノではなく、堅実な設計でできてる。そもそも日本海軍の航空隊は、陸上基地から敵艦隊に攻撃を行う陸上攻撃機、敵艦隊発見に尽力する偵察機、および飛行艇。弾着観測を行う観測機。そして彼らが所属する艦隊防空を担う戦闘機部隊がいる。
 これらに絞り開発されているため、米海軍のような空母から攻撃機が発進して敵艦隊を叩くという発想は無い。
 そのため、戦闘機には力を入れており、原則として航続距離などは余り重視されておらず、従来の物より攻撃力や防御力、格闘能力といった点が重視された機体となっている。


 ヘルキャットはその動きについて行けずそのまま急降下を続けていく。目の前に置かれた水平儀の針がせわしなく動き回り、機体が旋回していることが分かる。
 宙返りを終えた後、少し先にヘルキャットの急降下している姿が見える。これでヘルキャットを追う形だ。その後ろ姿を完全に標準機の中心に捕らえる。


「悪いな」


 胸の中で手を合わせてから機関銃の引き金を引いた。
 両翼から発射炎と共に重々しい連射音が響き、空中に空薬莢が飛び出していく。目の前にいた機体は垂直尾翼が吹き飛ばされ、そのままバランスを失って落ちていった。


「佐藤、そちらはどうだ?」


「ちっと待ってください!」


 見れば先ほどの機体に追い回されている。なかなか優秀なパイロットが操っているようだ。


「今行く」


 それから無線に一言二言告げた。


「了解」


 彼はその返事を聞いて一気に機体を上昇させ始める。
 敵機はそれに気づかず、佐藤機を追い続けている。そしてある程度の高さを確保したところで反転、急降下を始め、その距離を詰めていく。
 ここに来て敵も気づいたようで大急ぎで機体を傾け、急降下に移り、待避に移り始める。しかし、その待避は長くは続かなかった。
 横合いから太い曳光弾の槍が刺さり機体をばらばらに解体したのだ。


「よくやった、大久保」


「ありがとうございます」


 とどめを刺したのは大久保であった。あらかじめこの場所に展開するよう大久保に指示していたのだ。
 やがて三機は集結し、周囲の状況を確認した。日米両戦闘機が入り交じって激戦を行っているが、戦況はどちらが有利とも言えない。日本機の機銃を食らってエンジンから火を噴く機体もいれば、コックピットを狙い撃ちされ、機体に大きなダメージがないまま落ちていく機体もいる。逆に米機を落として安心したところに奇襲を食らって落ちていく日本機もいれば、速力差を利用され後方から追いすがれて機銃を撃ち込まれる機体もいる。


「さて、時間を少しかけすぎた。防空任務に戻るぞ」


「「了解。岩本分隊士」」


 そう言うと彼ら三機は再び空戦の空へと向かっていった。

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