陽光の黒鉄
第31話 今後の展開
「今後の連合艦隊の作戦目標について考えていきたい」
連合艦隊司令部は旗艦、大和にある連合艦隊司令部室で会議を始めた。
米海軍を撃退した今、日本は大騒ぎであり戦勝気分に浮かれている。
しかし、連合艦隊司令部はそんな気にはなれなかった。理由は簡単。連合艦隊の戦艦郡が大きく傷つき、長い間、戦闘態勢に入れないことが分かっていたからである。
このことを考えると大規模な侵攻作戦は取りえない。
「敵方に大きな被害は与えました。おそらくは半年以上は攻勢には出れないでしょう。故に優勢である今だからこそ我が軍は敵を一気に太平洋から駆逐すべきです!」
そう断固たる口調で言うのは先任参謀の草鹿龍之介だ。
「しかし、そうは言っても我が方の戦艦も大きな被害を受けております。大規模な攻勢が出来ないのはこちらとて同じであります」
強い口調の草鹿を止めるように言い放ったのは砲術参謀の森下信衛だ。
「ですが、このような貴重な機会はそうそうありません。今こそ敵を叩く絶好の機会であることには違いありませんな」
大規模な攻勢には出れないが、攻撃は加えるべきと言う森下の言葉に幕僚は誰もが頷く。
「確かに、いずれ米軍は力を盛り返し、確実に反撃を加えてくる。そのような事態になる前に、こちらはできる限り、奴等を劣勢に立たせなくてはならない」
 ただ、と古賀が付け足す。
「その攻撃地点に着くまでに我が軍は多大な犠牲を強いることになることは言うまでもないだろう」
そう、ここが問題なのだ。
米軍の主力がいるのはハワイだ。ここを攻略するにはその手前にある島、ミッドウェー島及び、その北部のアリューシャン列島を攻略し、周囲の安全を図った後にハワイ島を目指さなくてはならない。
幸いなことに南部のオーストラリア周辺はイギリスとの関係が強いため、米軍の基地になっているとの情報は無く、安心できるとされている。
とはいえ、これらの島々を攻略するのは指南の技だ。いずれも日本から離れており、攻略にはかなりの手間が掛かる。
軍事の観点から考えれば戦力は戦場までの距離の二乗に反比例するという。
元来、漸減作戦を執ってきた日本海軍の戦法とは大きく異なり、古賀はその点を心配しているのだ。
「しかし、長官。このまま米軍を放っておけば、いずれ我が軍の禍根となるでしょう。今のうちに殲滅すべきです!」
森下が熱心に説いた。
「他の島々は別の時にでも攻略すれば良いのです。今はハワイ島を奇襲して敵を殲滅するだけでも構わないのではないですか?」
草鹿が提案をした。
「それでは危険すぎるのではないかね?」
いままで黙り込んでいた宇垣が初めて口を開いた。
「確かに諸君等の意見はいずれの言い分も分かる。だが、これを実行するための費用、人員などのその他諸々の状況を鑑みて、果して有効な攻撃が敵に与えられるかと聞かれれば疑問が残る」
「何故です、参謀長?」
草鹿が同意できないとばかりに聞いた。
「敵は弱っているとは言え、まだその力は健在だ。それらが完全に要塞化されたハワイ島に籠もり、こちらの攻撃を待ち構えている状態。そのようなところに無防備にも我が軍の艦艇が突っ込んでいったらどうなるか、諸君なら分かりそうだが……」
「もちろん、どれほど危険なことか分かっております。しかし、今ならば敵は士気も低く、戦力的にもこちらが優勢です。ですから今しか攻撃のチャンスは無いのです!」
「お言葉ですが、参謀長のご意見が正しいと思われます」
幕僚の中でただ一人、そう答えた人物がいた。
それは航空参謀であった源田実だ。
「米軍はその程度で士気がくじかれるほど柔な軍隊ではありません。ここは慎重に動くべきです」
「では、貴殿は如何にせよと?」
草鹿は源田に尋ねた。
「ここは真っ正面から行かずに搦手で敵を弱らせることを考えたいと思います」
「潜水艦だな」
すぐに宇垣が答えた。
どうやら彼らは同じ事を考えていたらしい。
「ええ。潜水艦で敵のハワイとアメリカ本土の間に楔を打ち込み、敵を戦わずして干からびさせるのです」
「なるほど。第一次大戦でドイツがやった戦法ですか」
そこで水雷参謀の岡田が言った。
「そうは言えど我が軍の潜水艦はいづれも小型艦ばかり。余り長期の作戦に就くことは向いていないぞ」
森下が懸念していることを口にした。
これは日本海軍の作戦の根幹が漸減作戦にあるがゆえの大きな欠点であった。
潜水艦は量産性と静寂性を重視した結果、小型の潜水艦となり航続距離が思ったような長さに達しなかったのだ。
日本海軍では現在、航続距離を伸ばした次型の潜水艦を研究中であるが、その大きさと航続距離が思ったように釣り合わず、かなり苦労しているという話を聞いている。
「そこで、この問題を解決するためにどのような手があるかを皆様にお聞きしたいのです」
源田は皆に問いかけた。
この案は確かに魅力的だが、どうやって航続距離の問題を解決すべきかが考えられていない。しかし、もう一方のハワイ本当奇襲作戦は余りにも博打打ちすぎる。
どちらの案をとるべきか、古賀はしばし瞑想した。
連合艦隊司令部は旗艦、大和にある連合艦隊司令部室で会議を始めた。
米海軍を撃退した今、日本は大騒ぎであり戦勝気分に浮かれている。
しかし、連合艦隊司令部はそんな気にはなれなかった。理由は簡単。連合艦隊の戦艦郡が大きく傷つき、長い間、戦闘態勢に入れないことが分かっていたからである。
このことを考えると大規模な侵攻作戦は取りえない。
「敵方に大きな被害は与えました。おそらくは半年以上は攻勢には出れないでしょう。故に優勢である今だからこそ我が軍は敵を一気に太平洋から駆逐すべきです!」
そう断固たる口調で言うのは先任参謀の草鹿龍之介だ。
「しかし、そうは言っても我が方の戦艦も大きな被害を受けております。大規模な攻勢が出来ないのはこちらとて同じであります」
強い口調の草鹿を止めるように言い放ったのは砲術参謀の森下信衛だ。
「ですが、このような貴重な機会はそうそうありません。今こそ敵を叩く絶好の機会であることには違いありませんな」
大規模な攻勢には出れないが、攻撃は加えるべきと言う森下の言葉に幕僚は誰もが頷く。
「確かに、いずれ米軍は力を盛り返し、確実に反撃を加えてくる。そのような事態になる前に、こちらはできる限り、奴等を劣勢に立たせなくてはならない」
 ただ、と古賀が付け足す。
「その攻撃地点に着くまでに我が軍は多大な犠牲を強いることになることは言うまでもないだろう」
そう、ここが問題なのだ。
米軍の主力がいるのはハワイだ。ここを攻略するにはその手前にある島、ミッドウェー島及び、その北部のアリューシャン列島を攻略し、周囲の安全を図った後にハワイ島を目指さなくてはならない。
幸いなことに南部のオーストラリア周辺はイギリスとの関係が強いため、米軍の基地になっているとの情報は無く、安心できるとされている。
とはいえ、これらの島々を攻略するのは指南の技だ。いずれも日本から離れており、攻略にはかなりの手間が掛かる。
軍事の観点から考えれば戦力は戦場までの距離の二乗に反比例するという。
元来、漸減作戦を執ってきた日本海軍の戦法とは大きく異なり、古賀はその点を心配しているのだ。
「しかし、長官。このまま米軍を放っておけば、いずれ我が軍の禍根となるでしょう。今のうちに殲滅すべきです!」
森下が熱心に説いた。
「他の島々は別の時にでも攻略すれば良いのです。今はハワイ島を奇襲して敵を殲滅するだけでも構わないのではないですか?」
草鹿が提案をした。
「それでは危険すぎるのではないかね?」
いままで黙り込んでいた宇垣が初めて口を開いた。
「確かに諸君等の意見はいずれの言い分も分かる。だが、これを実行するための費用、人員などのその他諸々の状況を鑑みて、果して有効な攻撃が敵に与えられるかと聞かれれば疑問が残る」
「何故です、参謀長?」
草鹿が同意できないとばかりに聞いた。
「敵は弱っているとは言え、まだその力は健在だ。それらが完全に要塞化されたハワイ島に籠もり、こちらの攻撃を待ち構えている状態。そのようなところに無防備にも我が軍の艦艇が突っ込んでいったらどうなるか、諸君なら分かりそうだが……」
「もちろん、どれほど危険なことか分かっております。しかし、今ならば敵は士気も低く、戦力的にもこちらが優勢です。ですから今しか攻撃のチャンスは無いのです!」
「お言葉ですが、参謀長のご意見が正しいと思われます」
幕僚の中でただ一人、そう答えた人物がいた。
それは航空参謀であった源田実だ。
「米軍はその程度で士気がくじかれるほど柔な軍隊ではありません。ここは慎重に動くべきです」
「では、貴殿は如何にせよと?」
草鹿は源田に尋ねた。
「ここは真っ正面から行かずに搦手で敵を弱らせることを考えたいと思います」
「潜水艦だな」
すぐに宇垣が答えた。
どうやら彼らは同じ事を考えていたらしい。
「ええ。潜水艦で敵のハワイとアメリカ本土の間に楔を打ち込み、敵を戦わずして干からびさせるのです」
「なるほど。第一次大戦でドイツがやった戦法ですか」
そこで水雷参謀の岡田が言った。
「そうは言えど我が軍の潜水艦はいづれも小型艦ばかり。余り長期の作戦に就くことは向いていないぞ」
森下が懸念していることを口にした。
これは日本海軍の作戦の根幹が漸減作戦にあるがゆえの大きな欠点であった。
潜水艦は量産性と静寂性を重視した結果、小型の潜水艦となり航続距離が思ったような長さに達しなかったのだ。
日本海軍では現在、航続距離を伸ばした次型の潜水艦を研究中であるが、その大きさと航続距離が思ったように釣り合わず、かなり苦労しているという話を聞いている。
「そこで、この問題を解決するためにどのような手があるかを皆様にお聞きしたいのです」
源田は皆に問いかけた。
この案は確かに魅力的だが、どうやって航続距離の問題を解決すべきかが考えられていない。しかし、もう一方のハワイ本当奇襲作戦は余りにも博打打ちすぎる。
どちらの案をとるべきか、古賀はしばし瞑想した。
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