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陽光の黒鉄

spring snow

第12話 第十九駆逐隊、突撃

「ペンシルバニア被弾!」


 見張り員の声を聞き、アリゾナはぱっと後方を振り返った。


 そこには右舷に水柱が高くそびえ立つペンシルバニアの姿が映っていた。


「姉貴!」


 とっさに瞬間移動して容態を確認しようとするが、ふと今の状況を冷静に見直す。
 それはアリゾナの意識的なものではなく、無意識のうちに行える天賦の才のようなものであった。


(今、姉貴が被弾したと言うことは指揮を執る者が一時的にしろいなくなってしまった状態だ。それは敵に大きな隙を作ることになる。現在、敵の航空機の攻撃と潜水艦による波状攻撃で部隊が混乱している状態で、日本海軍が攻め込んできたら大変なことになる。ならば私のやることは一つしか無い)


 そう決心した瞬間にアリゾナはすぐに旗艦として動くための準備を始めた。












「長官、旗艦を変更なされてはいかがですか?」


 スプルーアンスがキンメルに進言する。現在、ペンシルバニアは浸水の影響で速力が三ノットほど落としており、艦隊を指揮する上で支障を来す恐れがあった。


「ウム、確かにそうだな。では旗艦を変更しよう」


「アリゾナが近くにおり、旗艦の設備も整っております。そちらに移動いたしましょう」


「よし。分かった。ペンシルバニアの艦長に伝えてくれ。艦の保全に努めよとな」


 近くの従兵に言ってキンメルは立ち上がり、艦を降りる準備を始めるよう幕僚に伝えた。


「今、何時だね?」


「今はちょうど二十時ですね」


 スプルーアンスがそういった直後、不意に部屋に何者かが飛び込んできた。


 それは先ほどまで艦橋に詰めていたミッチャーだった。


「大変です! 日本海軍が夜戦を仕掛けてきました! 現在、先鋒の駆逐隊と交戦中とのことです!」


「分かった。すぐに艦橋に上がる」


 そういってキンメル達は艦橋に上がった。












「米艦隊、右舷前方。距離100」


「了解」


 駆逐艦浦波の艦長の萩尾力少佐は見張り員の言葉に端的に答えた。


 彼の座乗する浦波は姉妹艦の磯波、綾波、敷波と共に第十九駆逐隊を編成しており、彼女らと共に米艦隊に一太刀浴びせんと突撃を行っていた。


「いや~、駆逐隊はやっぱこうでなくっちゃねえ!」


 艦魂の浦波が艦橋の上でそう言いながら拳銃を構える。


「艦長、綾波より打電! 『砲撃戦を開始せよ』であります!」


 駆逐隊司令の大江覧治大佐の座乗する旗艦綾波より砲撃の命が下ったのだ。


「よし。砲術長聞こえるか?」


 萩尾は砲術長の中尾彬大尉を伝声管を通じて呼び出す。


「はい。中尾です」


「たった今、司令より砲撃戦開始の命が下った。狙いやすい艦はどの艦だ?」


「右舷一時方向にいる駆逐艦です」


「よし。ではその艦を狙ってくれ」


「了解」


 伝声管から離れ、中尾は望遠鏡を通じて敵艦を見る。
 敵駆逐艦はこちらの存在に気付いているようであったが、かなり混乱しているのか砲撃を開始はしていない。


「艦長、砲撃準備完了しました」


 砲術長から報告が上がる。


「砲撃始め!」


 中尾の鋭い声を放った。


 直後、浦波も拳銃の引き金を引いた。その瞬間、腹に答えるような音と共に二門の五十口径12.7センチ砲が火を噴いた。 


 艦の後方からもいくつかの砲撃音が聞こえてくる。僚艦が砲撃を開始したのであろう。


 浦波の目標にした艦の周囲に水柱が上がり、敵艦が一瞬見えなくなり、轟沈したかのように見える。


 しかし、その水柱が崩れると健在な敵艦が姿を現す。


 浦波は再度、砲撃を行う。


 その時、敵艦の全部甲板と後部甲板に火炎が上がった。見た目は浦波の砲撃が命中したかのように見えるが、命中したにしては時間が早すぎる。ついに敵が砲撃を開始したのだ。


 互いの音速を超えた砲弾が不気味な飛翔音を上げながら、互いの艦を仕留めんと吹っ飛んでいく。


「やっぱ、当たんないな~。夜間の高速での砲撃戦は苦手なんだよな、あたし」


 浦波はぼやきながらも拳銃の引き金を引く。


 そのタイミングで浦波の主砲が猛り、敵艦の砲弾を押し返さんとばかりに砲弾を撃ち出した。


 直後、敵の砲弾が周囲に落下。激しい水柱を上げた。


「うっひゃ~! 怖え!」


 しかし、その目には恐怖の色ではなく不屈の闘志が感じられる。


「アタシも負けてらんないね!」


 再度、主砲が砲弾をたたき出す。


 その直後、敵艦の周囲に先ほどの砲弾が殺到しいくつかの水柱を上げる。その大部分が敵の後方に落下しており、敵の速力が予想以上だと言うことが分かる。


 その水柱が崩れる前に敵の砲弾が浦波の周囲に落下する。


 それも全部空振りに終わり、一瞬安堵すると浦波は後方の僚艦に目を移した。


 どの艦も周囲に激しく水柱を上げてはいるが一隻も被弾した艦はなく、突撃を続けている。


 僚艦の無事を確信するとすぐに目標に目を移した。双方の速力は互いに三十ノット以上出ており、あっという間に距離が狭まっていく。


 敵艦が魚雷を発射する可能性も考えながら、砲撃を続ける。


 互いに有効弾が出ないまま、大分距離が近づき四海里を切ろうかと言うとき、不意に敵駆逐隊が一斉に面舵を切った。


「敵艦、投雷!」


 見張り員から報告が上がり、中尾は砲撃音に負けぬ大音声で叫んだ。


「面舵十度!」


 今まで敵駆逐隊は右舷一時方向から突っ込んできていたため魚雷はその方角から殺到してくる。ゆえに感を魚雷に相対させ、命中率を下げると同時に水圧で魚雷を吹き飛ばそうとしているのだ。


 僚艦も次から次へと面舵を切っており、魚雷の回避を試みる。その間にも砲撃の手は緩めず前部と後部の主砲は力強く猛っている。


「魚雷、本艦12時方向! 距離20!」


 見張り員の絶叫が環境に響く。


「交わしてくれよ!」


 額に汗を浮かべながら、敵の魚雷を見守る浦波。


「魚雷、距離10!」


 艦橋にいる誰もが交わしてくれと願う。


 そして……


「魚雷、本艦右舷を通過!」


 その声に誰もが安堵の息を漏らした。


 全艦が回避に成功し被雷した艦は一隻もいない。


「次はこちらの番だ、米軍!」


 浦波が叫び、舌なめずりをして後部にある自分の最大の武器を見た。


 そこには日本海軍必殺の61センチ酸素魚雷が装填され、その出番を待っていた。

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