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陽光の黒鉄

spring snow

第1話 序章

 さんさんと照りつける陽光の中、数隻の駆逐艦に守られるようにして一隻の艦がトラックに入港してきた。
 その艦は全長が263mの巨大な船であった。


 名は大和。
 大日本帝国海軍がその威信をかけて建造した艦である。


「海軍省は何と巨大な戦艦を生み出したのだろう!」


 その艦を歓喜の目で見つめるのは、連合艦隊司令長官の古賀峯一である。




 彼が今乗っているのは戦艦長門。
 大正十年竣工の戦艦で完成した当初は当時世界に七隻しか存在しない40cm砲搭載艦の一隻であった。世界のビッグセブンと謳われた長門 陸奥 コロラド ウェストバージニア メリーランド ネルソン ロドネーの七隻である。


 この後、ワシントン海軍軍縮条約が結ばれ建造競争に歯止めが掛かる。


 しかし、その条約が失効すると各国はこぞって新鋭艦を作り始めた。


 そんな建造ラッシュに乗って日本が作り上げた戦艦が大和である。
 今までの技術の粋を凝らして作り上げた世界に誇る新鋭艦と言えるであろう。




 世界は今、戦乱の時代へと突き進もうとしていた。


 では、これまでの簡単な歴史を振り返っていこう。


 第一次大戦が終わり、ドイツは敗北を喫する。
 この時、日本は日英同盟を理由としてイギリスへ艦隊と陸軍の師団を派遣した。
艦隊は当時、日本海軍の持つ最強の戦艦であった金剛を旗艦として戦艦朝日、敷島 軽巡洋艦三 駆逐艦二〇を擁する艦隊である。
 これらはドイツの持つ戦艦に対抗するために派遣された物であった。
 しかし、ドイツ上層部はこのままでは勝てないと判断し、予想に反して奇策で対抗してきたのである。
 潜水艦という新兵器を用いた戦い方であった。


 この結果、日本は新鋭艦の金剛を大破させられ、戦艦朝日、軽巡天龍、駆逐艦6が沈没ないしは大破するという恐るべき被害を受ける。
 これに危機感を抱いた日本海軍は、必死に潜水艦の研究を行った。


 これと同様、陸軍においても大きな変革を遂げていた。
 陸軍はヨーロッパ戦線に参戦。五個師団を派遣したが、塹壕戦の戦いを前に突撃を敢行し、多くの死傷者を出すこととなる。故に陸軍内部ではこの塹壕戦や機関銃への対策が喫緊の課題となったのである。
 この時、注目されたのが欧州戦線に登場してきた戦車であった。
 陸軍は戦車を何両かイギリスから輸入し、徹底的な研究を行う。


 このように日本は欧州にて多大な犠牲を払いながらも数多くの教訓を学んだのである。


 第一次大戦終結後、日本とイギリスは互いの利権を考え、日英同盟をさらに発展させた条約を結ぶことになる。
 この時、アメリカは日本やイギリスなどの諸外国に対し多くの金を貸していたことから、莫大な利益を得ていた。経済的な増長をするアメリカに危機感を抱いた日英両政府はアメリカに対抗するために両国間の関税をなくし、他国の関税を高くするというブロック経済に似た貿易の枠組みを決めていた。
 また、両国、どちらかの国に対して攻撃を受けた場合は双方が協力してその国へ攻撃を行うという軍事同盟も同時に結ばれたのである。
 これらを取り決めた条約を日英親和条約と呼ぶ。


 こうした両国の行為に対して、アメリカは強く反発。これに対抗すべくイギリスと並ぶヨーロッパの大国の一つ、フランスと同様の条約を結び日英両政府と対決の姿勢を示したのである。


 一連の動きの中でドイツではヒトラー政権が誕生し、ナチス党が与党として政権を握るようになる。
 ユダヤ人の迫害を開始し、各国に多くのユダヤ人が逃げ出す中、ポーランド併合など国外に対して強硬な外交を行うようになる。
 さらにドイツは同じく独裁政権となっていたイタリアと同盟を結び、世界は三つ巴の乱闘の様相を呈していた。


 こうして時系列は現在へと戻ってくる。
 ドイツは現在、ソ連と険悪な関係になりつつあり、一部の情報筋に寄ればソ連国境付近ではドイツ軍の動きが活発化しており、ソ連は警戒を強めているとのことであった。


 幸いなことに、イギリスや日本に対しては険悪な関係をしているというわけでは無く、特に大きな動きも無い。
 しかし、ドイツはフランスに対して強硬な外交を行っているらしく両国関係は冷え込むばかりであり、有事の際には無関係とは言えなくなってくる可能性もある。


 なお、ソ連は比較的アメリカとの関係が良好であり、両国間では活発に貿易が行われていた。
 有事の際にはアメリカが支援すると見られており、特に日本はソ連と国境を接していることから警戒を強め、イギリスを通じて多くの情報を集めている。




 このように1941年現時点において世界はドイツを中心として戦乱の時を迎えようとしていた。






「もし、戦争となればどのような流れで戦になるであろうな?」


 古賀は隣にいる宇垣参謀長に声を掛けた。


「恐らく、先端がまず開かれるのは独ソ間でしょう。この後、ソ連をアメリカが支援。しかし、これを行おうとするとイギリスの近海を通過しなくてはなりません。イギリスは我が国の同盟国でありますからソ連に対しての支援は、あまりいい顔をしないでしょう。これを面白く思わないアメリカは、我が国に対して戦端を開き戦争となるやもしれません。アメリカとしては、ソ連に恩を売っておけば、良い取引相手にもなりますし、現在アメリカは不況にあえいでいます。これを脱却するには戦争は良い機会です」


「アメリカはそんな単純な理由で我が国と戦端を開くかね?」


「アメリカとしては我が国をあまり良く思っていません。特に中国での権益に関して激しく対立をしておりますし……」


 宇垣の言う中国での権益というのは、盧溝橋事件まで話は遡る。


 一発の銃声から始まった盧溝橋事件は日本政府は拡大を嫌い、直ちに国民党政府と会談の場を設けた。
 この時、双方とも戦争をしても利益が無いことを再確認した。
 しかし、どちらも問題点は確認できなかったために、双方が融通しあってこの問題を解決することを勤める。
 具体的には日本側は武器(旧式)を格安の値段で国民党に売るのに対して国民党は支配地域における日本の企業の優越権を与えると言う物である。


 これは一見日本側のみにしか利益が無いようであるが決してそうでは無い。


 まず国民党は共産党軍と紛争を行っており、少しでも多くの武器が欲しい。
 日本にとっては旧式の兵器でも彼らにとっては強力な武器であったりもするので決して悪くはない話であった。
 さらに日本の企業に対する優越権は、従業員は現地で雇うことを前提としているために結果的にはその地域の活性化にもつながるという「win win」の関係と言える。


 この話がまとまった際に口出しをしてきたのがアメリカであった。
 アメリカは中国での優越権を日本のみが所有するのはおかしいとごねたが、日本政府は裏で手を回しており、これに賛同する国は皆無であった。


 これ以来、日米関係は冷え込んでおり現在互いを潜在的敵国と見なし、海軍を増強していた。
 これの一環としても大和は建造されたのである。




「まあ、そうか。戦争は無いのが一番であるが、避けられない可能性もある。そのために我々は日頃訓練を行っているのだからな」


 まるで自分に言い聞かせるように古賀は呟いた。



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