紫陽花の咲く庭で

ラテリ

あの日あったこと-2-

コホン!

知っての通り、
私はスポーツ観戦が好き。
好きになったきかっけは病院。

病院って、よく混むんだよね。
で、待合室にテレビが置いてあって、
そこでよくスポーツ中継が行われてた。

特に好きだったのは高校野球。
今も夏休みに病院へ行ったときは
知ってるおばさんやおじさんなんかと
待合室で一緒に高校野球を見るのが好き。

まぁ、それはそれで。
スポーツ観戦好きになった私は
家でもよく見るようになった。

昔からあまり運動できなかった私だけど、
野球とか陸上とかそういうのを見てたら
私も行ける気になって。
そんな気分で迎えた体験入学の日。


「まもなく、二宮、二宮」

体験入学する学校の最寄り駅に到着。
電車内は空いていて、私以外いなかった。

電車のドアが開く。
降りた瞬間、
ムワーっと熱気が襲ってくる。
今日は季節外れの暑さ。
服装、間違えたかな。

(あつ~い)

二宮に来るのは初めて。
だから道がわからない!
地図には北口を出るって
書いてあるけど、どう行くんだろう。

・・・と思ったら、
二宮駅はとても小さくて、すぐわかった。
改札、ここしかないみたい。
改札の上に左側が北口って書いてある。

そのまま進み、階段を降りると
バス停やコンビニがあった。
地図とにらめっこしながら
目的地の紫陽花学園に向かう。

(こっち・・・?)

階段の左側には目的地とは
違う学校がある。
右側にはお店が並ぶ。
商店街を突っ切るみたいだから
右側かなぁ。

右側に進み、商店街へ。
まっすぐ・・・はお店があって
無理だから左に曲がって
駅のホームを背に進む。
たぶんあってるよね!

長い直線。そこを歩いてると
昨日の夜を思い出す。

世界陸上!
100メートルの決勝!
0.01秒差でメダルの色が変わる戦い!

スタート前は
構えてからピストルの音が響くまで
すごく長く感じた。
フライングしないかなとか、
誰が勝つかなとか、
自分が走るわけでもないのに
すごく緊張したり。

いざスタートすると一瞬だった。
10秒くらいの戦い。
最後までもつれて
ゴールした直後は順位がわからなかった。
映像で振り返って、最終的には
1位と2位は0.01秒差だった。

自分の国の国旗を纏って喜ぶ選手。
倒れて悔しそうにする選手。
お互いの健闘を称える選手。

いいなぁ。やっぱり。
私もあんな風に走れたらなぁ。
・・・今日は調子いいし行けるかな?
ちょうどいい直線も目の前にあるし。


・・・当然。
気温が高い、暑い日中に。
普段、体育の授業にも出てない
運動できない女子が。
全力で走れば倒れるわけで。

目を覚ますと病院。
横にはお母さんと彩。
あの時は彩のこと知らなかったけど。

「・・・笑っていい?」
「だから話したくなかったのに!」

笑いを必死に堪えてる彩。
もう!絶対こうなると思った!

「でもさ、あたしが通らなかったら
危なかったかもね」
「う・・・そうかも。
人通りありそうでないもんね、商店街」

二宮駅が小さな駅だから。
意外と商店街でも人通りは少ない。

「・・・命の恩人だよね。彩は。
そう考えると・・・ありがとう」
「お礼ならあの時聞いた」

たしかにそうかも。
起きたてだったから
何言ったか覚えてない。

でも。
それ以外でも。
彩はいつも私のことを心配してくれる。
・・・お礼1回じゃ足りないかも。

「それでも、その。いつもありがとう」

改めて言うと恥ずかしい。
普段、何気なく接してる親友に
お礼を言うのは。

でもやっぱり。
私が学校に馴染めたのも。
文芸部でうまくやれてるのも。
切くんと仲良くなれたのも。
全部、彩のおかげだから。

「そう?じゃ、チョコ
期待しちゃおうかな」

去年はどんなのあげたっけ?
う~ん、覚えてない。
いっか。今年はどれがいいか
聞きながら買えば。
・・・彩の分も作った方がいいのかな。

「切くんの作るついでだから・・・
同じハート形でもいい?」

半分冗談で彩に聞いてみる。

「なるほど。切のはハート形なんだ」
「え!?いや、そりゃ~・・・ね」

さらにホワイトチョコで
「切くんへ」って書くつもりでした。
手紙も付けようかと思ってました。

「ま、いつか恩返しがくることを
期待しないで待ってるから」

彩はそう言いながら私の肩を
ポンっと叩く。
いつか・・・か。
そうだね。
そうなることが一番の恩返しだよね。

「うん!
期待しないで待ってて」
「よーし。その意気」

はっきりとは言わないけど。
余命なんてないんだって。
お互い、そう信じてる。

絶対、「いつか」恩返ししなきゃ。

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