紫陽花の咲く庭で

ラテリ

告白-3-

「ふぅ」

咲たちとの初詣が終わり家に帰ってきた。
正月に咲と過ごせる幸せ。
必ず来年も同じような年始を過ごそう。

そう思いながら、
あの後買った御守りを見てみる。
健康祈願と書かれた御守り。
咲も同じ御守りを買った。

きっと。いや、絶対。
願いは叶うはず。

(そういえば)

仁に電話しないと。
咲が余命のことを
伝えてほしいって 言ってたし。
どうせコタツでゴロゴロしながら
特番見つつ、みかんでも食べてんだろう。
そう思いながら、電話をかける。

「なんだよ」

出て一番最初の言葉がそれだった。
タイミング悪かったか?

「あけおめ。今大丈夫か?」
「ああ。暇すぎて暇すぎて」

問題なさそうだ。

「話したいことがあってさ。
まぁ、無かったら正月からお前に電話
なんてかけないけど」
「そうだよなぁ。俺の声が聞きたかった。
なんて言われたらゾッとするわ」

ああ、それはたしかにゾッとする。
咲ならともかく、仁相手に。

「で?なんだよ」

どっちから話すか。
今までのお礼か。
余命の話か。
・・・余命からにするか。

「咲がさ。今日、彩たちに話したんだ。
お前にも知っておいてほしいって」
「なにを」

俺は一呼吸おく。
ああ、咲もこんな気持ちだったのかな。
少し怖い。

「咲さ。実は余命があるんだ」
「・・・は?」

間の抜けた声が聞こえてきた。

「どういう意味だよ・・・?」

去年の5月から俺も知ってたこと。
今年の5月ごろがその日だということ。
でも、きっと奇跡は起こること。
不思議と暗くならなかった。
「奇跡は起きる」って
心から信じられてるかな。

「そうか。
奇跡は起きる・・・か」
「ああ。絶対」
「当たり前だろ。やっと2人は
幸せになれたんだから。死だろうが
余命だろが、引き離せないだろ」

・・・こいつよくそんなこと
サラッと言えるな。
恥ずかしくないのか。

「でも、なんで俺にその話を?」
「咲がさ。今まで俺とくっつけるために
協力してくれたからって。特に夏合宿」

咲が部屋にきたあの時、
仁はババ抜きを やっていたらしい。
真紀と死闘してたとか言ってたな。

「ああ。あったなそんなことも」
「まぁ、もう1つの話に
繋がるんだけどさ。いつもありがとな」
「はぁ?なんだよ。気持ち悪い」

どんな顔してるか目に浮かぶ。
俺もたしかに気持ち悪いと思うが、
仁がいなかったら咲を
諦めてたのも事実だ。

「おばあちゃんの話とか
最後まで諦めるなとか」
「そんな話もしたな。
で、それがどうした?」

おばあちゃんの話で
今できることをすればいいと思えた。
諦めるなって話で
咲に余命のことを話す勇気ができた。

「そのおかげなんだよ。
咲と今こうしていられるのも、
奇跡を信じられるのも」
「ほう」

どこか照れてる感じがする声が
返ってきた。
まぁ実際、照れてるんだろうけど。

「まぁ、なんだ。
役に立ったならよかったさ。
誰かを助けるのは好きだからな」
「そうか」

俺もなんか恥ずかしい。
こう、改めてって感じだからか。
だが、仁のおかげなのは変わらない。

「じゃ、ちゃんと伝えたからな」
「切」

そろそろ電話を切ろうとしたら、
真面目な声で仁に名前を呼ばれる。

「なんだよ」
「まぁ、なんだ、その。
俺も奇跡を信じる。
だから、お前は絶対、咲の手を離すなよ」

・・・こいつほんとに何で
そんな セリフをサラッと言えるんだ。
でも、その通りだ。

「当たり前だろ」
「そうだったな」

離すわけがない。
例え、どんな状況になろうとも。
俺にできることを最期までするだけだ。
そう思いながら、俺は電話を切った。

あと数か月。
奇跡を信じて、信じぬいてみせる。
俺はもう、諦めない。

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