紫陽花の咲く庭で

ラテリ

告白-1-

年が明けた。
初夢には咲が・・・
というわけにはいかず、
よく覚えてない。

まだ、クリスマスデートが
頭に残っている。
幸せな時間。

昔だったら、「柔らかい」とか
「可愛い」とか、そんなことばかり
考えていたが、あの時は違った。

ああ、ただただ、
永遠にこの時間が続いてほしい。
そんな気分だった。

別れ際には

「次は初詣行こう、みんなで」

って約束した。

「みんなで」ってことはそこで・・・
つまり、今日、言うつもりだろうか。
・・・余命のことを。

(仁が来れないのが残念だな)

年末に誘ってみたが、あいにく
予定があるって言われた。
彼女ができたかといじってみたが、
親の田舎に帰るらしい。

(俺と咲と彩と・・・真紀か)

4人で行くことになった。
最寄り駅は辻堂。
地元だから俺は歩いて駅に向かってる。

(もし、今日言うとして)

彩たちはどう受け取るだろうか。
このままいけば、あと3か月ぐらいで
いつその日になってもおかしくない。

病は気からって言葉を
信じるしかなかった。
俺にできるのはそこまでだ。

辻堂駅に着くと、すでに咲が来てた。

「あけおめ!切くん!」

振袖・・・ではなく、
まぁ、いわゆる普通の私服。
クリスマスと違って露出が少ない。
たぶん、相当寒かったんだろう。
見てるこっちも寒そうだったし。
何を着ても咲は可愛いけど!!

「あけおめー。はやいな」
「切くんに会いたくて・・・
じゃなく、言っておきたいことがあって」

・・・かなり悲しい。
いや、冗談なのはわかってるけど。
俺の反応が面白かったのか、
咲はニヤニヤ笑ってる。

「あ、うそうそ!言っておきたいことは
あるけど、切くんにも会いたかった!」

単純なのはわかってるけど超嬉しい。
もう可愛くて尊い。
・・・で、だ。

「言っておきたいことって?」
「今日ね、言おうと思う」

やっぱりだった。

「それで・・・ね?もし、私が上手く
言えそうになかったら・・・」
「うん。俺がフォローする」

悲しい話になる。
いや、そんな話にはしたくない。
今は「余命」が付いてるけど
絶対そうさせない。
そのために言うんだから。

「・・・ありがと。あ!
すき焼きなんて言わないでね」

・・・これ、一生ネタに
されるんだろうな。俺。

「そういえば、仁くんは
来れないんだっけ」
「ああ。田舎に帰ってるらしい。
正月だしな」

今頃はコタツで
ゴロゴロしてるんじゃないだろうか。
みかんとか食べたりして。

「そっか。じゃあ、今日のことは
切くんがその、伝えてくれる?」
「咲がそういうなら」

電話でいいか。
出るかわからないけど。

「ありがとう。仁くんにも
言いたかったんだ。特に夏合宿では
いろいろしてくれたんだろうし」

たしかに仁も彩と協力して
裏でいろいろ手を回したんだろう。
それにあいつがいなかったら、
きっと今の俺はない。
その辺の感謝も伝えないとな。

「ふぅ。緊張するなぁ」
「大丈夫だって。俺もいるから」

そう言って、咲の手を握る。
温かい。そして柔らかい。
・・・結局、
昔とあまり変わってないじゃん。俺。

周りからみたらただのイチャついてる
カップルにしか見えなかったのか。
ふと視線を横に逸らすと、そこには
彩と真紀がいた。

・・・いつからいた!?
き、聞かれてないよな・・・?

「あ、お構いなく・・・」
「やっぱ2人で行く?」

そう言われて頷いた真紀は
彩と一緒に南口に向かって歩き出す。

「え!?待ってよ!2人とも!」

咲と俺は彩たちを追いかけた。
あの様子だと大丈夫そうだが・・・。

初詣する神社まではバスだ。
まだバスは来ておらず、
バス停で待ってた彩たちに追いつく。

「追いついた~」
「あ。もういいの?」

彩は涼しい顔でそう言った。
咲は少し顔が紅い。

「もう!来てるなら
来てるって言ってよ!」
「あれだけイチャついてたら・・・ねぇ」

そう振られて、本を読んでいた真紀が
コクリと頷く。

「イチャついてないって~」
「はいはい。ごちそうさま」

手、握ってたしな・・・。
俺絶対、鼻の下伸びてただろうし。

「幸せそうでなによりです」
「真紀ちゃんまで!」

咲はプクーっと頬を膨らます。
可愛い。可愛すぎる。

「ほら、そんな顔してたら、
また切が喜ぶよ」
「え?別にそんなつもりじゃ・・・」

この天然なとこがもう可愛い。
咲がキョトンとした目で俺を見る。
ああ、そんな目で見られたら鼻血でそう。

「あ!ほら、バス。バス来た!」

このままだとどうにかなりそうなので
何とか話題をそらす。

「う~ん、切くん単純」
「咲は天然だけどね・・・」

そう言いながらバスに乗る彩。
納得いかない表情でバスに乗る咲。
パタンと本を閉じてバスに乗る真紀。
なんかいつもと変わらないな。
いや、それでいいのか。
そう思いながら、俺もバスに乗り込んだ。

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