紫陽花の咲く庭で

ラテリ

アナタイロニソマッテク-4-

「初めて会った日って覚えてる?」

覚えてない。いつだろう。
一番可能性が高いのは・・・

「入学式の日?
そこぐらいしか思いつかない・・・」
「うん、そう。入学式の日」

そうだよね。
私、体験入学で切くんにあった記憶も
見かけた記憶もないし。

「でも、ごめん!どこにいたのか
全然覚えてない・・・」

彩と今日からよろしく!って言ったのは
覚えてるんだけど。
それ以外はあまり記憶がない。
かなり前だし。

う~ん。あ。
仁くんがみんなと仲良くなろうと
積極的に話してて、
目立ってたぐらいかな。
切くんは覚えてない・・・なんて
言わないでおこう。

「後ろにいたし・・・」
「え?私の?」

席は自由だったから、彩と一緒に
座ったのは覚えてる。

「うん。
たまたま後ろに座ったんだ。
目の前に咲がいた」

そうだったんだ。
全く気付いてなかった。
いや、あの時はまだ顔も名前も
覚えてなかったから当然だけど。

「それで・・・どうなったの?」
「・・・だったんだ」
「え?」

切くんはすごく小声で何か言った。
よく聞こえなかった。

「ごめん。もう一度」
「目の前にいた咲がいい匂い
・・・だったんだ」

たしかにちゃんとしなきゃと思って
そういうものつけてたけど。

「それで・・・その・・・ずっと
すごい失礼だけど、かわいいのかなとか
後ろ姿を見ながら想像してて・・・」

うん。

「入学式はやく終わらないかなとか
終わって退場するとき顔見えるかなとか
そんなことばかり考えてて」

うん。

「で、入学式が終わって振り向いた瞬間に
その・・・落ちたんだ」

あ、はい。
一目惚れしたと。

「その時から好きだった・・・」

最初からでした。
1年以上私は気づいてなかったけど。
この感じだと、彩も仁くんも
ほぼ同じくらいに気づいてそう。

「もっとはやく
声かけてくれればよかったのに」

仁くんぐらい積極的に。

「いやー、それができてたら苦労
しないというか何というか・・・」

星祭りのときは
かっこよかったんだけどなぁ。
「生きててほしい!」なんて。
まぁ、そこが切くんの
面白いとこなんだけど。

「でもさ、まさか、同級生たちに
バレバレなんて思わなかった」
「でも、そのおかげでこうして
ラブラブになれたでしょ?」

みんながいつも気を利かせてくれたし。
まぁ、でも、
鈍感な私がいうのもアレだけど、
切くんはバレやすいと思うな・・・。
彩から教えてもらった後、
切くんの視線をよく感じてたし・・・。
顔にもよく出るし。
隠し事、下手だよね。

・・・その割には。
余命のこと、よくバレてないなぁ。
・・・バレてないよね?
いや、バレてたら彩に
問い詰められてるか。

「そうだな。本当に。
みんなには感謝しかない」

特に夏合宿のときの連携はすごかった。

バスも食事も必ず切くんの隣が
空いてたし、そこに座らないと
いけないようになってたし。
肝試しも切くんとだったし。

ああ、本気で
くっつけようとしてるんだなぁって。
別に切くんは嫌いじゃなかったから
嫌じゃなかったけど。

「寒くなってきたね」

公園のベンチで話し込んでたら、
時間も遅くなってきて、
気温も下がってきた。
北風がさらに冷たく感じる。

「建物に入って温まろうか」

切くんがベンチから立とうとする。
寒いけど、なんかヤダ。ここにいたい。

「ん?」

無意識に切くんの服の裾を
引っ張ってた。

「もう少しだけ・・・」

そう言って、私は切くんに寄り掛かる。
大丈夫。ここならたぶん大丈夫。
人目もあまりないし、暗くなってきてる。

「さ、咲・・・?」

切くんの心臓の音が聞こえる気がする。
ドキドキ・・・ドキドキ・・・
自分のか切くんのかわからない。

寒いからかな。
切くんにピッタリくっついてるのが
すごく心地いい。
もう少しって言ったけど、
ずっとこうしてたい。

「どこか、具合悪い・・・?」
「え?別に・・・」

切くんが私のおでこを触る。
冷たい。

「ただ、こうしていたいだけ・・・」

何でかはわからないけど。
ただただ、幸せな時間。

「し、心臓破裂しそう」
「私も」

ドキドキが止まらない。
でも、やめたくない。
来年もこうしていたい。
でも、もしかしたらクリスマスは
もう2度とこないかもしれない。

「私ね、言おうと思う」
「何を・・・?」

みんなが後悔しないように。
私が後悔しないように。

「余命のこと。みんなに」
「・・・そうか」

意外にも切くんは驚かなかった。

「俺さ、不思議と怖くないんだ。
いや、信じられないのかもしれない。
咲がいなくなるなんて」
「うん、私も」

全然、死ぬ自覚なんてなくて。
でもやっぱり、怖くて。

最後の最後まで
いつも通りに生きていたい。

「死」がいつになるかわからないけど。
でも、それはきっと誰だって同じだ。
私の場合、それが来年かもと
言われただけ。

だからこそ、精一杯生きたい。
「死」が横にいることに
気づけたんだから。

「どうせ、俺もいつかは死ぬだろ。
だからさ、「死」に怯えてたら
「生」を楽しめないかなって」

切くんも同じだ。
私と同じ考え。
余命が教えてくれた。
歳の割に考えすぎとか、
彩に言われそうだけど。

「きっとみんなも
同じだって俺は思う」
「・・・そうだね」

切くんに好きって言った時と違って、
答えがわからないけど。
告白することに怖さはない。
だって、切くんがそばにいてくれるから。

「・・・ありがとう。
私を好きになってくれたのが
切くんでよかった」

切くんは返事をしなかった。
すごく悶えてる。
そういうとこが切くんらしい。

寒い冬空の下、
私たちの距離は
どんどん近くなっていった。

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