紫陽花の咲く庭で

ラテリ

アナタイロニソマッテク-2-


駅を出ると、北風が吹いて寒い。
カップルだからとかそんなんじゃなく、
暖まりたくて切くんの腕にギュとする。

「なっ!?」
「寒いんだもん」

ちょっとだけ暖かくなった。
切くん、すごい照れてる。

・・・いや、まって。
これ周りからみたらイチャついてる
カップルにしか見えないよね。
クリスマスだからなおさら。
そう考えると、
自然と身体があつくなる・・・!
私はパッと手を離した。

「あ・・・」

切くんはすごく残念そうな顔してる。
いやでも無理無理!やっぱ無理!
周囲の視線に耐えられない・・・!

「え〜と、
世間体が気になりまして・・・。
切くんが嫌いなわけではなく・・・」
「そ、そうか」

ここ地元なんだって!
私を知ってる人も多いって!
しかも駅前大通り!
せ、せめてこう、
人目の少ないとこで・・・。

とはいえ、切くんの残念そうな顔も
見ていられず、私はそっと手を握る。
あ、男の子の手ってこんな感触なんだ。
なんかドキドキ。
・・・順序すっ飛ばした気もするけど。

「柔らかい・・・」
「そうなの?嫌じゃない?」

切くんは全力で顔を横に振った。
首取れるんじゃないかってぐらい。

「ぜ、ぜぜん」
「緊張しすぎ!」

もう反応全部が面白い。
もっとからかいたくなっちゃう。
なっちゃうけど
ここでは自重しよう。うん。

切くんと手を繋ぎながら、
寒い茅ヶ崎を歩く。
この場所をこんな風に歩くなんて、
想像したことなかった。

「どこ行くんだっけ?」
「私いきつけの古書店。もうすぐだよ」

駅を出て真っ直ぐ。
パチスロ屋のとこを曲がって路地裏に。
看板はあるけど汚れと風化で読めない。
すごく小さいけど、
いろんな本が置いてある。
古い本から少し前に発売された本まで。

「ここ!」
「小さい店だな。
こう、昔からやってます!って感じの」

実際、そう。
私が生まれる前からあったって
お母さんが言ってた。

「いろんな本が置いてあるんだ。
難しそうな本とか最近の本とか」

埃被ってるのも多い。
いつからここにあるんだろうって。

「いつもここで本買ってるのか?」
「う〜ん、こことたまに駅ビルの本屋。
あ、あの野球本と出会ったのはここだよ」

1巻目。それ以降は
駅ビルの本屋で買ったけど。

「へぇー」
「たまたまね、見つけたの。
面白そうだなぁって」

そんな偶然の出会いがあるから
本屋が好き。匂いも好き。
・・・ちょっと変かな?

「野球とかスポーツ
好きだよな。いつから?」
「う〜ん。いつからだろう。
昔からよく観てたんだ。病院で」

待合室とかにあるテレビって大抵、
春や夏に甲子園やってたから自然と。
たまに大相撲なんかもやってた。

「待合室か。混んでそう」
「そう!いつ混んでて。
呼ばれるタイミングも悪かったり」

こう、いいとこで呼ばれたりする。
あ〜見たいのにって。

「賑やかだと思ったら・・・
咲ちゃん、いらっしゃい」
「あ!ごめんなさい、騒いで。
こんにちは!」

この古書店のヌシが店の中から出てきた。
いつもと変わらず優しそう。
昔から変わらないなぁ。

「あ、彼氏の切くんです。
切くん、この人がここのヌシ!」
「ヌシって・・・。
あ、初めてまして」

お互い、軽く頭を下げて挨拶する。

「咲ちゃん、彼氏できたのかい」
「はい!」

ちょっと涙ぐんでる。
私のことを自分の
娘みたい思ってるからかなぁ。
私もお父さんみたいに思ってる。

「それじゃあ、邪魔しちゃ悪いね。
小さいけど、ゆっくり見ていきなさい」

そう言ってすぐに店の奥に戻っていった。
最近、腰が痛いのかずっと手を当ててる。
ちょっと心配。

「優しそうな人だな」
「うん。昔から色々教えてもらってるの」

特に国語とか。漢字とか。
おじさんがいなかったら元々多い
私の赤点はさらに増えてた・・・はず。

「それで切くん。気になる本とかある?」
「探してみる」

ちょっと憧れてた古書店デート。
切くんと本について話し合う時間。
余命のことなんてどうでもよくて、
只々、この時間が
ずっと続いてほしかった。

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