紫陽花の咲く庭で

ラテリ

逆告白

涙は枯れるんだって初めて知った。
咲に逃げられて、ずっと泣いてたけど、
いつの間にか、涙は止まってた。

やっぱり、まずかったかな・・・。
今まで築いてきたものが全部無くなった。
次からどんな顔して咲に会おう。
いや、「咲」って呼んだら怒られるか?
でも、それはそれで
彩とかに疑われそうだし・・・。
とにかく、余命のことだけは
彩たちにバレないようしないと。

体育座りで俯きながら
「これから」を考えていると、
手に柔らかい感触がきた。

「え?」

顔を上げるとそこには
想像してなかった人がいた。

「咲?」

え。どうして?
なんで戻ってきた?
あ、やばい。涙の痕とか見える・・・。

「な〜に?」

いつもの笑顔。
いつもの声。
可愛いくて、ドキドキする。
ずっと、いつまでも一緒にいたい。
いたいけど・・・

「どうして戻ってきた?
だって俺のことなんて・・・」
「俺のことなんて?」

「どうでもいい」
そう言いかけてやめた。
咲の笑顔を見てたら、
そんなこと言えなかった。

だって、
「どうでもいい」奴に見せるような
笑顔ではなかったから。

「ちょっとね、びっくりしちゃった」

咲は軽く深呼吸して話し始める。

「この学校では橋渡先生以外、
知らないと思ってたから」
「・・・そう思う」

余命のこと。
知ってるのは
やっぱり橋渡先生だけだった。

知っていてはいけないことを
知ってしまった俺。
それはあの日・・・。

「・・・ごめん。
聞いちゃったって言ったけど、
本当は盗み聞きしてたんだ」
「そんな気がしてた」

咲はそう言った。
知る機会なんてそれぐらいしか
無かったからか。
今さら、後悔がすごくきてる。

「怒らないのか?」
「怒ってほしい?」

咲が手をあげる。
右手をグーにして。
目を逸らさずに見る俺。
殴られても言い訳できない。

覚悟はしてたが、
咲は殴る振りをしただけだった。

「怒らないよ。大丈夫」

優しい声だった。
本当に怒ってないってわかる声。
俺を見つめる瞳も微かに笑ってる。

「そっか」

嫌われてなんかない。
いつもの咲だ。
すごく・・・ホッとした。
頭の中がすごく軽くなった。

「私ね、諦めてたんだ」

咲は俺から視線を逸した。
何でかはわからない。

「何を?」
「生きること」

あの夏休みの話を思い出す。
ああ、たしかに・・・って。
あの時は俺も諦めてた。

「死ぬって言われた後。
じゃあせめて、その時までは楽しく
生きようって思ったの」

咲は話を続ける。
俺は黙ってそれを聞いてる。

「さっきまでずっとそう思ってた。
覚えてる?夏休みに変な質問したの」
「よく覚えてる」

いきなりだったから。

「わかってると思うけど・・・私のこと。
本当にそうしようって思ってた」

ああ、これは咲自身ことだなって。
すぐわかった。
余命のこと、知ってたから。

「切くんが最期まで一緒にいたいって
言ってくれて、嬉しかった。
知ってた上でそう言ってくれたって
思うとなおさら」

咲と離れるなんて嫌だ。
ましてや、生きてるのに。
だから、ああ言ったのは
当たり前だと思う。

「まぁ、その時は切くんに
バレてるなんて知らなかったけど。
でも、ああ言われたから、
距離を取るのもやめようって思ったの」

そう言われて、言ってよかったと思う。

「でも、今は違うの」
「違うって・・・?」

違うってどういう意味だろうか。
咲が考えてる事がわからなくなって、
途端に不安になる。

「私、生きたい。ううん、生きる。
病は気からって言うし、
今のとこ身体に変な感じもないし」

出てきた言葉は俺と同じ考えだった。
一瞬でも不安になったのが馬鹿らしい。

「さっき言ってくれたでしょ?
私に「生きていてほしい」って。
あの言葉、本当に嬉しかったんだから!」

咄嗟に出た言葉だった。
でも、あれが俺の本音だ。
なんの迷いもない気持ち。

「あれがなかったら、
今ここにいないかも」

ああ言ってなかったら、
ゲームオーバーだったのかもしれない。
そう思うと、怖くなった。

「ねぇ、切くん。
私、来年も生きてるかな?」
「・・・ああ。
きっと、生きてる。
絶対余命を乗り越えられる!」

俺は医者なんかじゃないけど。
昔と違って胸張ってそう言える。
だってそれが「諦めない」って事だろ。

「俺、調べたんだ。
余命ってなんだろうって」

仁に諦めるなって言われた後。
俺はネットで調べてた。
病名とか症状とかわからないから
治し方とかじゃないけど。

「そしたら、
時間が過ぎても、
意外と生きてる人が多かったんだ。
だからさ、きっと咲も大丈夫」

もう時間過ぎたけど
生きてますって人が意外といて。
ああ、あくまでもその時点の話なんだ。
運命は変えられるんだ。
だからこそ、諦めちゃいけないんだ。
1日1日を大切にしようって思った。

「ありがとう、そう言ってくれて」

咲に見つめられながらそう言われた。
ああ、やっぱり、可愛いな。
咲のためなら何でもできる!

「あのね、
私も切くんに
言っておきたいことがあるの」
「え?なにを?」

なんだろうか。
俺に言っておきたいこと・・・うーん。
思い当たる節がない。

「私、切くんが好き」
「え。
え!?」

ど、ど、どどういうこと!?
好き?俺を?え!?
何でそうなった!?

「その・・・ね。
私もね。気付いてた。
切くんの想い」
「いつから!?」

俺もバレてたのか!?
え?いつ?どこで聞かれた・・・?

「すき焼きって言われた時から」
「う・・・あれは・・・」
「好きって言おうとしてたんでしょ」

あれ、ちゃんと伝わってんじゃん!
じゃあ、あれからずっと、
自分のことが好きな男って知って
接してくれてたのか!?

「あの雰囲気でああ言われて、
気付かないほど、私鈍感じゃないもん!」

俺なんてそれ以上に鈍感じゃん・・・。
全く気づかれてないって思ってたわけで。

「で、でも何で今?」
「私の秘密知ってた仕返し!」

同じだった。
俺は咲の秘密を知ってて、
咲は俺の秘密を知ってた。

「それに今までは、
余命のことがあったから・・・。
切くんを好きかもって思い始めたのは
かなり前からだったけど」

咲もいつ言おうか考えてたのか・・・?
いや、夏休みのあの質問を考えると、
苦しかったのかもしれない。

自分を好きって
思ってくれる人がいるけど余命がある。
俺を悲しませるかもしれない。
・・・恐れてたこと、
既に起こってたじゃん。

俺のバカ!
中途半端に告白なんてするから・・・!

「でも今は違うの。
生きたいって思えるようになったから」
「咲・・・」

咲は言葉を続ける。

「だから、切くんの
気持ちに応えられた。
これからは、2人で余命を
乗り越えたいの!」
「もちろん」

俺は全力で頷いた。

本当によかった。
余命のこと話して。
そう言ってもらえて。

「ありがとう。
あ、あの。「これから」もよろしくね。
切くん」

咲が俺の手を握りながら
寄りかかってくる。
・・・心臓の音、聞こえてないよな。
さっきから破裂しそうなほど、
ドキドキしてる。

「こ、こちらこそ、よろしく」

俺はそう言いながら、
無意識に咲の頭を撫でた。
柔らかい、いい香り。
・・・あ!

「ご、ごめん!嬉しくてつい」
「え?別にいいよ。
カップルになったんだもん」

・・・カップル。
やばい、そんなこと言われたら
鼻血出そう。
いやいや、今出したらやばいって!

ああ、でも幸せ。それしか出てこない。
ただ触れ合ってるだけなのに。
この幸せを手放さないようにしないと。
余命なんて乗り越えて見せる。
病は気からって言うなら、
それができるのはきっと俺だけだ。

やってやろう、俺。
咲のために。

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