紫陽花の咲く庭で

ラテリ

星祭り-4-

切くんはそこにいた。
地面に体育座りして、
顔が下に向いてる。
・・・泣いてるのかな。
私が戻ってきたことには
気付いてなさそう。

私はそっと横に座る。
ジィィっと切くんを見つめる。
まだ気付かない。
切くんの手をそっと握る。

「え?」

顔を上げる切くん。
泣いてないけど、
目の周辺には痕が残ってる。

「咲?」

名前を呼ばれた。
なんでここに?って顔してる。

「な〜に?」

にっこり笑いながら、
私はいつもと同じ感じで返事した。

「どうして戻ってきた?
だって俺のことなんて・・・」
「俺のことなんて?」

切くんはそこで止めた。
多分、「どうでもいい」とか
そんなことを言おうとしたけど、
言いたくなかったんだと思う。

「ちょっとね、びっくりしちゃった」

黙る切くんに代わって、私が話を始める。

「この学校では橋渡先生以外、
知らないと思ってたから」
「・・・そう思う」

切くんの声が重い。
なんかもう、世界が滅ぶ寸前の人みたい。
そんな人見たことないけど。

「・・・ごめん。
聞いちゃったって言ったけど、
本当は盗み聞きしてたんだ」
「そんな気がしてた」

好きな女の子が先生と2人で
教室でなんか話してる。
それに気付いて、気になって。
それで聞いてたんだよね。きっと。

「怒らないのか?」
「怒ってほしい?」

右手をグーにして。
切くんにパンチする振りをしてみる。

「怒らないよ。大丈夫」

それを聞いて、切くんの表情が少し緩む。

「そっか」

声も少し、明るくなった気がする。

「私ね、諦めてたんだ」

切くんから視線を逸らす。
なんか恥ずかしいから。

「何を?」
「生きること」

自分語りみたいになるけど、
知ってるならちゃんと伝えなきゃ。

「死ぬって言われた後。
じゃあせめて、その時までは楽しく
生きようって思ったの」

切くんは黙って聞いてる。

「さっきまでずっとそう思ってた。
覚えてる?夏休みに変な質問したの」
「よく覚えてる」
「わかってると思うけど・・・私のこと。
本当にそうしようって思ってた」

真紀ちゃん、仁くん、彩・・・切くん。
みんなと少しづつ距離取ろうって。
でも。

「切くんが最期まで一緒にいたいって
言ってくれて、嬉しかった。
知ってた上でそう言ってくれたって
思うとなおさら」

切くんは頷いた。

「まぁ、その時は切くんに
バレてるなんて知らなかったけど。
でも、ああ言われたから、
距離を取るのはやめようって思ったの」

せめて、最期までみんなの近くで
笑ってようって。

「でも、今は違うの」
「違うって・・・?」

切くんが不安そうな声で返事する。
・・・鈍いなぁ。
さっき言ってくれたのに。

「私、生きたい。ううん、生きる。
病は気からって言うし、
今のとこ身体に変な感じもないし」

きっと、まだまだ間に合う。
余命なんて無かった事にできる。

「さっき言ってくれたでしょ?
私に「生きていてほしい」って。
あの言葉、本当に嬉しかったんだから!」

バレてたことに気が動転してて、
そのまま逃げちゃったけど。

「あれがなかったら、
今ここにいないかも」

落ち着いてから、ずっとあの言葉が
頭の中に響いてる。

「ねぇ、切くん。
私、来年も生きてるかな?」
「・・・ああ。
きっと、生きてる。
絶対余命を乗り越えられる!」

切くんは力強くそう言ってくれた。

「俺、調べたんだ。
余命ってなんだろうって」

・・・実は私もよくわかってない。
来年、どうなるのか。どこが悪いのか。
そう宣告されただけだから。

「そしたら、
時間が過ぎても、
意外と生きてる人が多かったんだ。
だからさ、きっと咲も大丈夫」

今日は切くんの言葉を聞くたびに
なんか希望が持てる。
生きたい、生きられるって気がしてくる。
根拠なんてどこにもないけど。

「ありがとう、そう言ってくれて」

切くんは頭をかきながら照れてる。
あ、そうだ。そろそろ仕返ししないと。

・・・緊張するなぁ。
そりゃあするよね。愛の告白だもん。
でも、切くんは勇気を出して、
余命のことを言ってくれた。

私も頑張ろう。
すき焼きとか言わないようにしなちゃ。

「あのね、私も切くんに
言っておきたいことがあるの」
「え?なにを?」

切くんの頭の上にハテナが見える。
思ってた以上にドキドキする。
当然、愛の告白なんて初めてだし・・・。

「私、切くんが好き」

切くんを見ながらそう言った。
し、心臓が破裂しそう。
体が熱い。絶対、顔紅い!

「え。
え!?」

切くんは混乱してる。

「その・・・ね。
私もね。気付いてた。
切くんの想い」
「いつから!?」

あ。やっぱりバレてないと思ってたんだ。

「すき焼きって言われた時から」
「う・・・あれは・・・」
「好きって言おうとしてたんでしょ」

切くんは恥ずかしそうに頷いた。
顔、紅い。私もこんな感じ・・・かな。

「あの雰囲気でああ言われて、
気付かないほど、私鈍感じゃないもん!」

誕生日で、七夕で、人気の少ない公園で。

「で、でも何で今?」
「私の秘密知ってた仕返し!」

言ってみれば思いのほか楽で。
恥ずかしさは一瞬だった。
・・・答えが
わかってたからかもしれないけど。

「それに今までは、
余命のことがあったから・・・。
切くんを好きかもって思い始めたのは
かなり前からだったけど」

七夕後?夏合宿中?
はっきりとは覚えてない。
でも、すき焼きって言われてから
意識し始めたのは覚えてる。

「でも今は違うの。
生きたいって思えるようになったから」
「咲・・・」

私は言葉を続ける。

「だから、切くんの
気持ちに応えられた。
これからは、2人で余命を
乗り越えたいの!」
「もちろん」

切くんは力強く頷く。
そう言ってもらえてホッとした。

「ありがとう。
あ、あの。「これから」もよろしくね。
切くん」

切くんの手を握りながら、
体に寄りかかる。
切くんの心臓の音が聞こえる気がする。

「こ、こちらこそ、よろしく」

そう言いながら、
切くんは私の頭を撫でた。
おお、なんかすごくカップルっぽい!

「ご、ごめん!嬉しくてつい」
「え?別にいいよ。
カップルになったんだもん」

幸せって、
こういうことなのかなぁって思う。
豪華な物とか何もないけど。
ただただ、好きな人と一緒にいる。
ああ、そう考えれば考えるほど、
もっと「生きなきゃ」って思う。

頑張ろう。私。
未来のために。

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