紫陽花の咲く庭で

ラテリ

星祭り-3-

「で、どうしたの?切くん」

店の裏側。誰もいない場所。
星祭りの賑わいも少し遠い。

「あ、ああ」

切くんは緊張してるみたい。
表情がかたい。震えてる気がする。

「実はさ、俺さ」

ひょっとして。
ついにこの時が来たかって思う。
七夕の時は「すき焼き」なんて
言っちゃったけど。
今度こそ、私に好きって言うのかな。

「うん?」

頑張れ!って思いながら、
切くんを見つめる。
・・・でも、何て答えよう。
私は来年・・・。
あ、深呼吸してる。
切くん、少し落ち着いた・・・かな?

「知ってるんだ」
「な、何を?」

切くんから出てきた言葉は
私の予想と違ってた。
「知ってる」って何を?
嫌な予感がする。
だって、心あたりは1つしかないから。

「・・・余命のことを」

・・・・・・・・・・・・!
私はうつむきながら

「・・・いつから」

そう言った。
どうして知ってるの?
橋渡先生以外に話してないはずなのに。
そんな素振り、見せてこなかったのに。
いつの間にか、私、泣いてる。
理由なんてわからない。

「5月から。ごめん。あの日。
教室で話をしてるの聞いちゃったんだ」
「最初から・・・」

ずっと知ってたんだ。盗み聞き。
悲しませたくないから隠してたのに。
全部無駄だったの?
気づけば私は逃げるように走ってた。

「俺はただ!
咲に生きていてほしいんだ!
これからもずっと!」

後ろからそんな声が聞こえた。
何で走ってるのかも、
何で泣いてるのかも、
何がしたいのかもわからないけど。
ただただ、遠くに行きたかった。
誰もいない場所に。

気づけば門を出て、敷地外にいた。
目の前にミカンの木が
たくさん植わってる。

(何で逃げたんだろう)

突然のことで。
泣いて、逃げちゃったけど。
切くんは何もしてない。
別に何も悪くない。
知られたくないことを知ってただけ。
最初から余命のことを
知ってたにも関わらず、
ずっと一緒にいてくれた。

(生きていてほしい)

逃げてる時もそう言ってくれた。
そんな風に言われるのは初めてで。
よくわからない感情が湧いて。

(あ・・・)

知ってたってことは、
夏休みのあの日。
私の質問の本当の意味も
わかってたんだ。
その上で、

「最期まで一緒にいる」

って言ってくれたの?
・・・嬉しい。
ずっとずっと悩んでたことが
ウソみたいに吹き飛んでいく。

「切くんに好きって
言われたらどうする?」

うん。簡単だった。
私も「好き」って答えるだけ。

やっぱり私、死にたくない。
切くんだってそう思ってる。
だから筋肉祭の時、
「来年も応援してほしい」って
言ってくれたんだ。
だからさっきも、
「生きていてほしい」って
言ったんだ。

・・・ふぅ。
ごめん。ごめんなさい。切くん。
動揺して逃げたりして。
私、生きる。生きていたい。
「残りの時間」は5月までじゃない。
もっと、もっと、きっと長い。
諦めちゃダメだよね。
病は気からだもんね。

切くんに謝らなくっちゃ。
逃げてごめんって。

・・・待てよ。
切くんは私の余命のことを知ってた。
私はそれを隠し通せてると思ってた。

・・・じゃあ、切くんの片思いは?
切くん、私に知られてないと思ってる?
今までの彩たちの話なんか聞くと、
知られてないと思ってそう。

よし。
私も「知ってた」って告白しちゃおう。
だって、私も切くんが好きだもん。
もう、切くんの片思いじゃないもんね。

戻ろう。
ひょっとしたら、
大好きな私に逃げられて、
抜け殻みたいになってるかもしれないし。

まだきっと、さっきの場所にいる。
そう信じて、走って戻る。
切くん、大丈夫かな。
好きな女の子に振られたわけだし。
いや、振ってないけど。


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