紫陽花の咲く庭で

ラテリ

星祭り-2-

星祭り当日。
俺を始め、
最初に店番する人が準備してる。
当然、咲もいる。今日も可愛い。
今日、余命のことを言う。
嫌われたらどうしようって震える。

焼き☆そばって書かれた屋台。
麺やらキャベツやらモヤシとか
入ったダンボールが置かれてる。
「足りなくなったら裏の小屋へ」
って書かれたメモも置かれてる。
たぶん書いたのは彩だろう。

あ、なるほど。
そっちは人が来る可能性があるのか。
小屋とは反対側なら
何もないから大丈夫かな・・・。
俺の「咲が好き」って
告白なら盗み聞きされても
別に構わないが、まずは余命の話だ。
極力、誰も来ない場所のがいい。

じゃあこんな日に
言おうとするなよって話になるが、
こんな日でもないと勇気が出てこない。
イベント補正ってやつ。

他に使えそうな場所がないか見渡す。
が、どこも人が来そうだ。
交代になったら、
咲を誘って、裏に行って・・・。
ちゃんと言えるだろうか。
いや、言わないとダメだ。
来年もそれ以降も。
ずっと咲といたいから。
言ったからどうこうなる保障なんて
どこにもないけど・・・。

「切く〜ん、もうすぐ始まるよ」
「え。もうそんな時間!?」

時計を見ると、あとちょっとで10時。
店に人がボチボチ来そうな時間だ。

「じゃ、作り始める」
「お願い!」

俺の担当はひたすら焼きそばを作って、
接客担当・・・もとい咲に渡すこと。
作る役と接客役を分けて2人1組で
やることになってる。

・・・当然、この方式が決まった瞬間、
俺は咲と組むことになった。
彩がそう決めた。
周りも当然って空気だった。
ありがたい、ありがたいけど!
咲に俺の想いがバレるじゃんか!
・・・バレてないよな?

適当にキャベツとモヤシを入れつつ、
ジューって音を聞きながら、
焼きそばを炒める。
ソースを入れて混ぜると
麺が茶色に染まってく。
自分で言うのもあれだけど、美味そう。
トングで容器に入れて、
割り箸を輪ゴムで止めて完成。
まだ昼前ということもあって、
そんなに忙しくない。

「切くん、1個」
「ほい」

作り置きしてたのを咲に渡す。
手があたる。柔らかい。

咲に嫌われたくない。
ずっと今みたいな、
いや、それ以上の関係になりたい。
・・・怖い。余命のことを言ったら、
今まで築いてきたものが崩れそうで。
そう思うと勇気がなくなる。

昼に近づくにつれ、忙しくなってくる。
作り置きの数も少なくなっていく。
それが咲の余命みたいに見えてきて、
嫌になっていく。

・・・何て言おう。
時間はどんどん、休憩時間に近づく。
すでに鼓動は高まっていて、
心臓が破裂しそう。
不安に押し潰されそう。
怖くて逃げ出したい。

咲に焼きそばを渡すとき、
咲の手が透けて見えた。
もう長くないぞって声が
聞こえた気がする。
幻聴なのはわかってるけど。
それでもそのまま信じてしまいそう。

映画のワンシーンみたいに、
俺が必死に手を伸ばすけど、
咲には触れることができなくて、
崖下に落ちて行く。
後を追おうと飛び込もうとするけど、
何故か俺は落ちない。
そんな幻覚すら見えた。

・・・死って怖い。
怖すぎて、それ以外の言葉が浮かばない。
考えたくもない。

でも、咲はそれを背負って今、生きてる。
俺もそれを背負いたい。

「切くん!切くん!」
「え?」

咲の声でハっとする。
肩をポンポン叩かれる。

「な、何?」
「交代の時間だよ。いろいろ見に行こ」

時計を見るとそんな時間。
途中から忙しくて無意識でやってた。
怖いものを見てた気がする。
あ、誘おうと思ったら誘われてた。

「ああ・・・行こうか」

ついにこの時がきた。
言わなきゃきっと、何も変わらない。

「その前にちょっといい?」
「ん?な〜に?」

俺は店舗の後ろを指差す。

「あっち何かあったっけ?」
「えーと、その。
話したいことがあってさ」

もう引き返せない。
覚悟を決めながら、咲と裏に行く。

そこは静かだった。
星祭りの賑わいもあまり聞こえてこない。
七夕の日の公園みたいだ。

「で、どうしたの?切くん」

可愛い声で俺の名前を呼ぶ。
可愛い笑顔で俺を見つめる。

「あ、ああ」

あと何回、呼んでくれるだろう。
あと何回、見つめてくれるだろう。
ひょっとしたらこれが最後かもしれない。

「実はさ、俺さ」

怖い。
怖い怖い。
怖い怖い怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

身体中が震えてる。
何に?
嫌われるかもしれないから?
死ぬかしれないから?
どっちも同じ。
失うことを怖れてる。

「うん?」

咲はジッと俺を見つめてる。
またすき焼きとか
バカなことは言いたくない。
深呼吸を1つ。よし。
長引かせずに一気に決める!

「知ってるんだ」
「な、何を?」

咲の顔が不安そうな顔になる。
たぶん、考えてることは一緒だと思う。
ずっと、俺は
「知らない」って思ってたはず。

「・・・余命のことを」

ついに言った。
咲は顔を背けながら震える声で

「・・・いつから」

そう言った。顔見えないけど、
泣いてるように思えた。
・・・そんな声だった。

「5月から。ごめん。あの日。
教室で話をしてるの聞いちゃったんだ」
「最初から・・・」

咲はそう言うと、
逃げるように走りだした。
俺は追おうとはせず、
咲に聞こえるように

「俺はただ!
咲に生きていてほしいんだ!
これからもずっと!」

咲は止まることも
振り返ることもなく
走って行った。
・・・終わった。何もかも。
俺はその場に倒れて泣いていた。

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