紫陽花の咲く庭で

ラテリ

秀才だとわからない問題-3-

帰り道。
その「何故か」がずっと気になっていた。
正直、受験に行かず、
これからどうしようなんて問題が
どうでもよくなるほど。
考えれば考えるほど、よくわからない。

帰宅すると、姉が駆け寄ってきた。

「彩!よかった・・・無事で」

何故か心配されてる私。

「どうしたの?急に」
「どうしたの?じゃなくて!」

姉は腰に両手を置いて、

「時間になっても来ないって
学校から連絡があって!
電話しても繋がらなくて!
事件か何かに巻き込まれたんじゃ
ないか心配してたの!」

と、すごい勢いで言ってきた。
ああ、そっか。連絡してないし、
病院行くからスマホの
電源切ってたのも忘れてた。

「ごめんなさい。人助けしてて」
「それで学校に行けなかったの?」
「そう。病院にいたから
スマホの電源も切ってた」

姉は額に手を当てながら、座り込んだ。
オーバーなリアクション。

「で?これからどうするの?
父さんたちにも言わないと」
「ちょっと考えさせて」

あの「何故か」を突き止めたい。
今まで解けなかった問題なんてないし。
・・・この気持ちは何なんだろう。

「月曜日、ちゃんと先生に理由
言えるようにしておきなよ」
「はい」

私は返事をしながら、
2階にある自分の部屋に向かった。
姉はそれ以上、追求してこなかった。

部屋に入ってまず、
パソコンの電源をつけた。
着替えてから、イスに座る。

「なんて検索しよう」

心が揺らいでた。
私は今日、受験に行かなかった。
本当なら大変な事なのに。
でも、正直そんなことより、
咲さんが無事だったことが大事だった。
咲さんと少しだけ話して、
芽生えた違和感。

「何故か」

考えていくと、1つ、思い当たった。

私、歳が同じくらいの人と普通に
接したことないかもしれない。

昔から、勉強しかしてこなかった。
誰とも話さなかった訳じゃない。
でも、放課後に誰かと
遊ぶんだとか記憶にない。
話すとしても、勉強教えたり、
委員会の話だったり。

今日みたいに楽な気分で接したのは
初めてだったかも。
そういうの何て言うの?
気づけば私の指は文字をうって、
エンターキーを押して検索していた。

「友達 学校」

ああ。そう。友達。
私に足りないもの。
「何故か」の正体。
・・・そして、今、1番欲しいもの。
今までは興味なかったけど。
あんな気分で毎日いたい。

またねって言われて、
またねって言いたい。
出てきた検索結果を調べていく。
そして、1つ気になるページを見つけた。

「1人じゃない。友達と一緒に!」

そう、ホームページに書いてあった。
友達と楽しそうに勉強してる写真付き。
しかも高校だ。どこだろう。
アクセスのページを開く。

「最寄り駅:二宮」

・・・近所だった。
あまり行ったことないけど。
私は興味を持った。
この学校をもっと知りたくなった。
各ページを見ていくにつれ、
私はこの高校に行きたくなっていった。

だって、楽しそうにみんなで笑いながら
写ってる写真ばかりだったから。

翌日。
結局、あの高校のホームページを
見てたらそのまま寝てしまって、
父さんたちと話さずに
学校に来てしまった。
2人ともいつも帰りが遅いから
すれ違いも多い。仕方ない。

登校すると、すぐ先生に呼ばれた。
昨日のことは伝わってると思う。

「星月さん。昨日のことで
お話があるのでお昼に職員室まで」
「はい」

予想通りだった。
こうなると思ってたから
昨日、ちゃんと調べておいた。
私は特に慌てる事なく返事をした。
いつも通りに授業を受け、昼休み。

「失礼します」

そう言いながら、職員室に入る。
家で印刷した資料が入ってるから
カバンも持ってきた。

席に座っていた先生が立ち上がる。
そして、部屋の隅にある
応接室のような場所を指さした。

「あそこで」
「はい」

ソファーに座る。先生は反対側に座る。

「理由があったことはわかります。
でも、これからどうするつもり?」

先生は単刀直入に聞いてきた。

「学校って、勉強するために
行くものですよね」
「ええ」

先生は頷いた。

「昨日、気付いたんです。
私は何のために高校に行くのか」

先生が私をジッと見つめる中、
話を続ける。

「足りないものを補うために行こうって。
じゃあ、それは何か」

私はカバンから昨日見つけた
高校の資料を取り出す。

「私はここで「友達」を
学ぼうと思います」

先生が資料を見る。表情が曇る。

「星月さん。ここはどういう
高校か、わかってる?」
「はい」

迷わずに返事した。
先生がそういうのもわかってた。
・・・不登校とか障害とか。
いままでの私には
無縁だったものを持つ人が通う高校。

「だからこそ。
色々な事を学べると思っています」
「あなた程の学力なら」

私は先生の言葉を遮った。

「わかってます。
でも、それよりも私は
今まで経験してこなかった事を
経験しに行きたいです」

私はまっすぐ先生を見ながらそう言った。

「・・・わかりました。
でも、1度ここに
行ってから決めなさい。
本当にその経験ができるか、
確かめてからでも遅くはないでしょう?」
「・・・はい」

私は返事をしてから席を立って、
お辞儀をし、職員室を後にした。

昨日見たホームページには、
体験入学があるって書かれてた。
先生の言うこともわかる。
百聞は一見にしかず。
体験入学、行ってみよう。

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