紫陽花の咲く庭で

ラテリ

筋肉祭!-2-


仁と勝負の約束をしてから数週間。
筋肉祭当日を迎えた。
お互い、真剣に部活に取り組んだからか、
少し痩せた気がする。

仁が彩に話したから、
勝負の話は
いつの間にか大きくなっていて、

「仁vs切!陸上部エース対決!」

なんて文字が筋肉祭の
しおりに書いてある。
エースだったのか、俺ら。
咲からは

「応援するから頑張ってね!」

と、言われてる。これは勝たなければ。

開会式1時間ぐらい前に会場入り。
校舎から1キロぐらい離れた場所にある、
運動場。普通はバスで校舎から来るが、
駅から走ってきた。
誰も居ないと思ってたが、仁がいた。

「お、切。おはよう」
「なんでもういんだよ!」
「勝つためだ」

・・・目がマジだ。

「夏は悔しい思いをしたからな」
「やっぱりお前が手加減して、俺が
咲にいいとこ見せるための出来レース
じゃなさそうだな」

仁は大きく頷いた。

「そりゃあ、真剣勝負だ。
手加減はしない」

勝負が決まってからの仁を見ればわかる。
全国大会にでも行くのかってぐらい
練習してた。俺も負けじと練習した。

「俺だって、咲に
かっこいいとこ見せたいから
負けるわけにはいかない!」
「俺だってそうだ」

え?どういう意味だ?

「お前も咲が?」
「なんでそうなる!そうじゃなくて、
女の子にかっこいいとこ見せて、
モテたいだろ!?」

あ、ああ。そういう意味か。
仁も咲を狙ってるのかと思った。
ビビった。

「じゃ、俺はスタートの練習するから」
「お、おう」

直線100メートルの勝負。
スタートは大事だ。
あんな真剣な仁に勝てるだろうか。
実力的にはあっちの方が上だ。
不安と戦いながら、俺も練習を始めた。


しばらくするとバスが到着し、
咲たちがやってきた。

「あ、切くんが練習してる」
「おはよう」

手を振ってくれる咲。今日も可愛い。

「おはよう〜、早いね。
走ってここまできたの?」
「ああ。仁が本気だからな・・・」

チラッと仁の方を見ると、
まだスタートの練習をしてる。
スタート、苦手なのか?

「私、切くんを応援してるから!
頑張ってね」

そう言って、グッと親指を立てる咲。
もうこれだけで勝った気がした。

「もちろん!」
「じゃあ、私は座るとこ
探してくるから。またね!」

そう言うと、咲はまたまた
手を振ってくれた。可愛い。
観戦するときは隅の芝生エリアに
適当に座って見るのが筋肉祭。
キョロキョロしてた咲だったが、
彩がすでに陣取っていたようで、
それを見つけるとそこに向かって小走り。
その姿が可愛い。

咲に見られながら、俺は練習を続けた。
時々、チラッと咲の方を見ると、
手を振ったり、
コブシを突き上げたりしてくれる。
俺のやる気がどんどん上がる。
横にいる彩はそんな咲を見ながら、
なんか言ってる。真紀もいたが、
相変わらず本に夢中だった。

ゆるーい開会式や競技が始まっても、
俺と仁は練習を続けた。
別に整列とかしないから
その辺は自由。

咲みたいに、
観戦しかしない生徒も結構いる。
・・・始まっても、
ずっと本読んでるのもいる。

開始します、終了します、
次の競技はこれです。
そんなアナウンスが繰り返される。
当然、その度に俺と仁の
出番が近づいてくる。
徐々に緊張が高まってきた。
仁に勝つ!体を動かすことをやめて、
頭の中でそうイメージしていく。

そして、ついに出番が来た。

「次は陸上部の2人による
100メートル走です!」

さっきまでアナウンスしてた
生徒ではなく、彩の声が聞こえる。
いつの間に・・・。

「じゃあ、早速、入場しちゃって!」

入場門と書かれた門の前に
いた俺と仁は門をくぐり、
スタートラインまで移動する。

「まずは、仁。
夏合宿では切との勝負に惜しくも破れ、
リベンジ! と気合充分!」

そう紹介されると、仁は両手を上げる。
ああ、よくテレビで見るやつだ。
カメラ向けられた時のパフォーマンス。
・・・俺もやるのか?

「もう1人は切!かっこいいとこを
見せてほしい!」

チラッと咲を見る。気づいたのか、
手を振ってくれた。小さくガッツポーズ。
彩の紹介が端折られてた気がするけど、
誰にかっこいいとこ見せたいかなんて、
言わなくてもわかるってことか。
・・・あ、両手上げるの忘れてた。
まぁ、いっか。
タイミング逃しちゃったし。

「それじゃあ、2人とも、
スタートの準備をお願い!」

100メートルのラインが
石灰で引かれてる。
俺と仁はスタートの構え。

「ぜってー負けねぇ」
「俺だって!」

仁の気合が伝わってくる。
深呼吸をひとつ。ピストルの音を待つ。

・・・・・・・・・・・・バンッ!

乾いた音が響くと同時にスタートをきる。
スタートは完全に決まった!
どんどん加速していく。いける!
半分が過ぎ、ゴールが近づいてくる。
その時だった。俺の前に仁が出た。
速い。追いつけそうにない・・・。
足はこれ以上の速さで動かない。
ゴール手前で俺は勝負を諦めた。

「勝ったのは仁!」

彩の声を荒い息を吐きながら聞く。
大の字に寝そべって、空を見る。
負けた。咲の前で。悔しいよりも
恥ずかしい?虚しい?よくわからない。
呆然としてると、仁が空を遮った。

「ほら、立てよ」

差し伸べられた手に掴まる。

「勝ったと思ったのにな」
「なんで俺は勝てたと思う?」

なんでって言われても、
実力以外なにがあるのか。
俺がそう言おうとすると、

「諦めなかったからさ」

俺とは違う答えだった。

「俺はスタートで遅れた。
でも、諦めなかった。
お前は後半失速して、
しかも並んだ辺りで諦めただろ」

図星だ。負けたと思ったから。
でも、もし諦めてなかったら?

「俺が勝ってた可能性もあるってか?」
「どんなことでも、
諦めないってそういうことだろ。
奇跡の逆転を生むんだ」

そういうと、
仁は観戦エリアに向かった。

俺は勝負が終わって、
初めて咲の方を見た。
それに気付いたのか、
手を振ってくれた。
なんて言い訳しようと思いながら、
俺は咲に向かって歩く。
さっきまで一緒にいた
真紀はどこかに
行ってるようでいなかった。

「おかえり〜、負けちゃったね」
「ああ・・・」

悔しい。せっかく応援してくれてたのに。
あそこで諦めたからか・・・。
そう思いながら、咲を見た。
可愛い顔を見てたらハッとした。

俺、仁との勝負だけじゃなくて、
咲のことも諦めてるんじゃないか。
最初は「死なせない」って思ってたのに
いろいろ理由をつけて
諦めて、いつの間にか
「最期までいる」に変わってた。

・・・お前それでいいのか?

どこかで聞いたそんな言葉が頭に浮かぶ。
良いわけない!死なせたくない!
ずっと一緒にいたい!

「・・・うん。そうかも。
そうだった」

夏休み。あの日、咲が言った言葉。
あの日の咲が忘れてた
初心を思い出したように。
俺も初心を忘れてた。

「来年は勝つから!
絶対、またここで応援してほしい」

俺は力強くそう言った。
咲は少し複雑そうな顔をしながら頷いた。
理由は知ってる。
いままでなら、言えなかった言葉。
「来年のこと」
でも、今なら言える。
俺は諦めない。この約束を守ってみせる。

・・・咲を死なせない。

そのために俺ができること。
いや、俺にしかできないこと。
それを考えよう。
咲を見つめながら、強くそう思った。

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