紫陽花の咲く庭で

ラテリ

咲の悩み


「切くん、一緒に帰ろう」
「う、うん」

彩の家の前にある長い直線。
話しながら、ゆっくり
歩くのに丁度いい場所。
切くんを見ると、少し緊張してそう。
・・・それは私もか。

「ゆ、夕方だけど暑いね」
「え?うん。たしかに」

時間的にはもう夕方。
まだまだ日は高いけど。暑い。
昨日のあれ、
聞くなら今しかない・・・よね。

「ほんとに、今日は、その、ありがとう」
「いいって!咲の役にたてたなら」

言いづらい。
なんて切り出す?
まさか、私が余命1年なんて
切くん知らないわけだし・・・。
切くんを傷つけないように。
余命のことがバレないように。
・・・本で読んだことに
すれば言えるかも。

「あのさ、この間、
読んだ本の話なんだけどさ」
「うん」

切くんが私を見てる。
少し顔が赤い気がする。
余命のこと、
知ったら悲しむだろうなぁ・・・。
ふぅぅぅっと深呼吸して、
気持ちを落ち着かせる。
えーと、私と切くんの関係は
親友・・・でいいよね?

「どんな話?」
「えーっとね。親友がね、死んじゃう話」

切くんの表情が変わる。
思ってたのと違うみたい。
・・・予想通りだったらすごいけど。

「すぐ死ぬ訳じゃなくて、えっと、
占い師にね、しばらくしたら、
お前は死ぬって言われるの」
「・・・うん。で?」
「それを聞いて、
親友と距離を取るの。
そうすれば、その時がきても、
親友が寂しくないだろうって」

今の私の状況とやろうとしてること。
来年の春頃、切くんや彩たちが
悲しまないように。ああ、そういえば、
咲ってやついたねって、他人事みたいに
なってくれたら。そうしたら、私が
死んでも、大丈夫・・・かな。

「読書してるとね、
自分と重ねる時があるの。
私だったら・・・って」
「・・・それで?」
「私もそうかなって。
も、もしだよ?私がもうすぐ
死ぬ運命だったら、切くんたちを
悲しませたくない・・・から」

大丈夫だよね?バレてないよね?
自分で話を切り出しておいて、
不安になってきた。

「あまり、俺や彩たちと一緒に
いたくない?」

少し怖い感じの声・・・お、怒ってる?
私がそうしたいってバレてるのかな。
でも、これは、
切くんたちのため・・・なのに。

「も、もしも私がそうだったらって
話・・・だって」

思わず、どんどん声が小さくなる。
「だって」なんて
聞こえたかわからないぐらい。
ああ!私、嘘が下手かも。

「ねぇ、切くんは?
もしも、距離を取られた親友
だったら、どう思う?」

咄嗟に切くんに質問する。
1番聞きたかったこと。
もしも、切くんが余命のことを知ったら。
私のこと、好きでいられる?
それとも、
先が見えてるならさよならする?
・・・怖い。何がだろう?わからない。
でも、切くんの返事、聞きたくない。

「追いかける。どんなに遠くに
いこうが、走って、走って、追いつく」
「私がそれを望んでなくても?」

力強く、切くんはそう言った。
でも、それは私にとって、辛い答え。
切くんと別れるとき、泣いてる切くんを
・・・見たくない。

「悲しむかどうか決めるのは、
咲じゃなくて、俺たちだ。
俺は・・・最期まで一緒にいたい。
お互いに笑って、泣いて、
終わりにしたい」
「・・・そっか。距離を取ったら、
逆に悲しいんだね」

そう考えたことなかった。
たとえ、死ぬのがわかってても。
切くんは最期まで一緒いたいらしい。
今までわざと逸してた顔を切くんの方に
向けると、眩しいくらい、
迷いのない目でそう
言ってることがわかった。

「だから、こう、
上手く言えないけど、
辛くなるのは最期だけで
いいんだと思う」

辛いのは最期だけでいい。
ああ、そっか。今から距離をとっても
もう遅いんだ。だって、記憶なんて
なくせないんだから。
私に距離をとられる悲しさと、
私が死ぬ悲しさ。
2回も悲しみたくないよね。
それに・・・

「・・・うん。そうかも。
そうだった」

忘れてた。私、死ぬまで、一生懸命、
楽しもうって決めてたんだ。
だって、ずっと辛いままなのは嫌だから。
死ぬときも笑っていたいから。
切くんのおかげで、それを思い出せた。
だから、心の中でそっと、切くんに
「ありがとう」って言った。
顔に出てないよね?
・・・そういえば。

「あ!べ、別に私がもうすぐ
死ぬってことじゃないから!本の話だよ!
なんか、途中から私が
死ぬみたいになってた!」
「・・・知ってる」

切くんは冷静だった。
慌ててるのは私だけ。
なんか、もう、自分でバラしてるみたい。
・・・きっとバレてないと思うけど。

このまま、バレずに最期まで行けたら。
それがきっとお互いに
とって幸せなのかな。

切くんが少しでも長く、
夢と幸せを見れますように。
長い直線の道路を歩きながら、
そう心の中で考えてた。
隣で何かを考えてる切くんを見ながら。

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