紫陽花の咲く庭で

ラテリ

悩みと想い-3-

「切ってさ、意外と勉強できるよね」
「それはどうも」

彩からそう言われるが、
まぁ、自分でもそう思う。
咲の質問攻めにあったが、
ちゃんと教えることができたから。

「バ、バカでごめんね。結局、切くんは
宿題全然進まなかったね」

ウィンクと舌ペロしながら、
顔の前で手をあわせる咲。
可愛すぎて直視できない・・・!

「い、いや。全然大丈夫。
楽しかったから・・・」

幸せな時間だった。
時々、咲の肩とか二の腕とかが触れる。
半袖だから、直接、素肌が触れて
すごく柔らかかった。

「ほんとに?
私、ずっと教えてもらってたし・・・」
「切も大丈夫って
言ってるから大丈夫でしょ」

頷く。全力で頷く。
咲が笑ってて、
可愛ければもうどうとでも。

「そっか。ありがとう、切くん」
「さ、そろそろ帰る時間じゃない?
咲は特に」
「あ。そうだね!」

時間はまだ5時前。
何か予定でもあるんだろうか。
聞こうと思ったけど、そんな勇気はない。

「切くん、一緒に帰ろう」
「う、うん」

咲に引っ張られる形で、
彩の家を後にする。
家を出てすぐの長い直線の道路。
咲と2人きり。ドキドキするな
という方が無理な話。
ああ、手つなぎたいな。寒ければなぁ。
くそ、夏め!

「ゆ、夕方だけど暑いね」
「え?うん。たしかに」

茹だるような暑さではないけれど。
空を見ると、まだまだ日は高い。

「ほんとに、今日は、その、ありがとう」
「いいって!咲の役にたてたなら」

そう言いながら、咲を見ると、
下を向きながら指をモジモジさせてた。
・・・何か言いたそうだった。

「あのさ、この間、
読んだ本の話なんだけどさ」
「うん」

とても言いづらそうにしてる咲。
俺の顔を見ながら、深呼吸してる。

「どんな話?」
「えーっとね。親友がね、死んじゃう話」

・・・すごく重たい話な気がする。

「すぐ死ぬ訳じゃなくて、えっと、
占い師にね、しばらくしたら、
お前は死ぬって言われるの」
「・・・うん。で?」
「それを聞いて、
親友と距離を取るの。
そうすれば、その時がきても、
親友が寂しくないだろうって」

咲自身のことを言ってるように聞こえた。

「読書してるとね、
自分と重ねる時があるの。
私だったら・・・って」
「・・・それで?」
「私もそうかなって。
も、もしだよ?私がもうすぐ
死ぬ運命だったら、切くんたちを
悲しませたくない・・・から」

今の咲自身のことだ。
つまり、それって・・・

「あまり、俺や彩たちと一緒に
いたくない?」

こういうことだ。自分が死んだとき、
周りに誰もいなくて、誰も悲しまない。
咲が言いたいことはそういうことだ。

「も、もしも私がそうだったらって
話・・・だって」

「だって」はすごい小声だった。
余命のことを知ってるから、
嘘、下手だなって思った。

「ねぇ、切くんは?
もしも、距離を取られた親友
だったら、どう思う?」

俺は・・・咲の望む通りの
世界にしてあげたい。あげたいけど・・・

「追いかける。どんなに遠くに
いこうが、走って、走って、追いつく」
「私がそれを望んでなくても?」

そうだ。だって・・・

「悲しむかどうか決めるのは、
咲じゃなくて、俺たちだ。
俺は・・・最期まで一緒にいたい。
お互いに笑って、泣いて、
終わりにしたい」
「・・・そっか。距離を取ったら、
逆に悲しいんだね」

そうだ。で、追いかけなかったら、
死んだあとに、
仁みたいな後悔をするんだろう。
なんで、何もしなかったんだろうって。

「だから、こう、
上手く言えないけど、
辛くなるのは最期だけで
いいんだと思う」

咲が今、どんな気持ちかはわからない。
余命を背負うのがどれだけ辛いかも
わからない。でも、これが俺の望みだ。
・・・無責任かもしれないけど。

「・・・うん。そうかも。
そうだった」

そうだったってことは、咲も最初は
そう考えてたのかな。
・・・時間が経つにつれ、
不安になったのかな。

「あ!べ、別に私がもうすぐ
死ぬってことじゃないから!本の話だよ!
なんか、途中から私が
死ぬみたいになってた!」
「・・・知ってる」

「知ってる」だけに、
隠そうとする咲を見るのは辛い。
いつか、打ち明けた方がいいのだろうか。
それとも、知らないままで、
最期までいた方がいいのだろうか。

・・・咲の笑顔を
守れるのはどっちだろう。
長い直線の道路を歩きながら、
心の中で考えてた。
隣にいる咲にドキドキしながら。

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