紫陽花の咲く庭で

ラテリ

夏合宿!-6-


翌日。

いい目覚めだった。
寝る前、咲におやすみって
メッセージを送ったら

「おやすみなさ〜い!」

って返ってくるし、
夢の中でも咲が出てきた。
幸せな合宿。
・・・周りを見ると
むさい男部屋なわけだが。

朝食のために、仁と一緒に
食堂に行くと、すでに文芸部の
3人が来ていた。というより、
俺と仁が遅かったようで、
他の人もほぼほぼ揃ってた。

にも関わらず、
なぜか咲の近くの席が空いていて、
なぜか2年生たちがその席と俺を見てて、
なぜか仁がその席を指差してるのは、
きっと全部偶然だろう。

・・・そんな訳ないだろ!
ほんとに周知の事実だな。これは。
俺と仁はパンなどを取って、
その席に座った。

「切くん、おはよう!」
「おはよう」

咲の声で朝から耳が幸せ。
ニヤニヤしながら彩や仁に
見られてる気がするけど、
そんなのどうでもいい。
他愛のない話をしながら、
咲と食べる朝食は最高においしい。
・・・皿の隅にのってたパセリ以外は。

「今夜の肝試しはあたしが
いろいろ仕込んでるからよろしく!」

幸せ気分に浸っていると、
彩から今夜の肝試しのお知らせがきた。

「うわ〜、彩が仕込んだってやばそう〜」

咲の言うとおり、彩が仕込んだのは
なんか怖い。こう、予想ができない。
本物と交渉とかしてそう。

「お化けより怖い裏方じゃん」
「どういう意味かな、切?」
「あ、なんでもないです」

蛇に睨まれるカエルみたいな気分。
何を企んでいるのか・・・。

「それで、2人1組で行くことに
なってるから、今のうちに
誰と行くか・・・決める必要ないよね?」

彩は俺と咲を見ながらそう言った。
思わず、咲と顔を合わせる。

「えーと、私でいいの?
仁くんとかじゃなく」
「もちろん」

即答した。
何が悲しくて、仁と2人っきりで
肝試しをしないといけないのか。

「はーい、よろしくね!」

そう言って、手を軽く振る咲。
ああもう、全部可愛い。

「じゃ、余ったもん同士でいくか」
「・・・・・・・・・え?私?」

朝食をパパッと食べた後、
ずっと本を読んでいた真紀。
自分には関係ない話だと思ってたのか、
いきなり仁に誘われて、
目がキョトンとなってる。

「他に誰がいる!」
「いいえ、でも、私なんかで
いいんですか・・・?」
「一緒にババ抜きで死闘した仲だろ!」

・・・どんな仲だ。
しかも、ババ抜きで死闘って。

「ま、あたしは参加できないし、
他に誰もいないなら、一緒にいきなよ」
「そうそう。俺も切にフラレて
困ってるのよ」
「はぁ・・・わかりました」

真紀は仕方なさそうに首を縦に振った。

朝食を終えた後は、
部屋に戻って部活の準備。
外に出ると、他の運動部がバスで
練習場所に移動する中、
陸上部は準備運動してる。
今日は近くの湖を1周する予定だ。
だから、陸上部はバスに乗らない。
橋渡先生いわく、

「練習もできて景色も楽しめる!
これは陸上部にしかできない特権!」

・・・らしい。
とはいえ、夏。暑い。
別に全国を目指してる訳でもない
我ら陸上部は、のんびり各自の
ペースで走ることになってる。

「水分補給も忘れないように!
喉乾いたらすぐに言え!
車に載せてるから。あと、体調が少しでも
悪くなったらすぐ言うこと」

レンタカーに乗った橋渡先生の
注意事項が終わった後、
俺らは宿をスタートした。
・・・というより、先生は車なのか。

走り始めてしばらくすると、
目の前に湖が見えてきた。
白鳥のボートなんかも見える。
風も気持ちよくて、少し疲れてきた
脚もちょっとだけ回復したように
感じる。いい気分になれる・・・が。

「これで隣にいるのが咲だったらなぁ」
「お前最近、全く隠さなくなったな」
「常識なんだろ?2年生の」

残念ながら、隣にいるのは仁だ。
しかも汗だくの。
俺も人のこと言えないが。

「まーな」
「そういえばお前、昨日の夜
なにしてた?どうせ、彩辺りが俺と咲を
2人きりにしたんだろ?」
「お、正解。彩の部屋でババ抜きしてた」

ああ、それで真紀にああ言ったのか。
この感じだと、他の生徒にも
根回ししてそうだな・・・。

「いやー死闘だった。彩が抜けた後、真紀と2人でババを取りあってな」
「俺もある意味、死闘だったよ」

・・・理性とな。

「まーこの合宿中に限らず、2年生は
お前たちを応援してるから!」
「それはどうも」

仁はグッと親指を立てた。
今夜の肝試しも何か仕組まれてそうだ。

湖は思ってたより大きかった。
グルッと一周と言われたが、
やっと半分くらいまできた。
長距離を走るのは別に苦じゃないけど、
俺は短距離の方が好きだ。
とはいえ、先生が言ったように
景色は最高だ。

(今頃、咲は何してるかな。読書中か?)

ハァッと、ため息。
七夕といい、昨日といい、
結局、好きって言えなかった。
・・・いや、そもそも、この想いを
伝えてもいいんだろうか。

咲は余命1年だ。
来年の今頃、咲はいない。
そんな心境で告白されて、
どう思うだろう。
とはいえ、1年間、それに怯えながら
過ごすのも辛いはず。

「どーした?ため息深いし顔が暗いぞ」
「えっ?いや・・・なんでもない」

つい、表に出てた。
何もしないが正解なのか、
伝えるのが正解なのか。
こうも長い距離を走ってると、
それだけがずっと頭の中で回り続ける。

「なぁ、仁」
「なんだよ」
「いつかは咲に伝えないと・・・だよな」

好きだって想いを。
・・・余命を知ってることを。
どっちかといえば後者が先か?

「いつか・・・いつかねぇ。
そう考えてると、いなくなるぞ」
「う・・・」

それはわかってる。
だけど、言おうと思うと、
やっぱり緊張と余命が俺を止める。

「俺さぁ、春先にばあちゃんが死んでさ」
「いきなりなんだよ」

仁は俺を見ながら、
いきなり話題を変えた。

「まぁ、聞いとけ」
「あ、ああ」

よく見ると、悲しそうな目をしてた。

「小さい頃からずっとかわいがって
もらってさ。いろんなもの
買ってもらってさ」
「うん」
「いつか孝行するんだ、って思ってた。
お金稼いで温泉旅行とかさ」

よくありそうな話だ。始めての給料で
何かしてあげる話。

「でも、それをする前に死んじまった。
でさ、そんとき、気づいたんだ。
ああ、俺、いつかやるやる言ってて、
何もするつもりなかったんだって」

・・・今の俺か?

「バカだよなぁ、俺。
何かするつもりあったなら、
肩揉んであげるでもいいはずなのにさ。
今できることをすれば
いいだけだったのにさ」

・・・今の俺だ。

「それに気づいた時にはもう、
何もできなかったんだ。
死んじまったからな」

・・・未来の俺かもしれない。

「だからさ。好きだ!とか伝える
勇気がなかったら、なんつーか、こう。
今のお前に何ができるのか
考えるべきじゃないか?
で、勇気ができたら言えばいい」

たしかにそうだ。
俺は何をしたいのか。
俺に何ができるのか。
・・・簡単だ。
咲には残りの時間、笑ってて欲しいんだ。
別にそのためには好きだ!とか、
余命のことを伝えなくたっていいんだ。
だって今、咲は笑ってるんだから。
・・・ほんとは大好きって言いたいけど。
それで咲に苦しい想いを
させてしまったら、本末転倒だ。

「ありがとう、仁。ため息、減りそうだ」
「お、そうか。
まぁ、俺みたいな後悔はするなよ」

迷いが消えた気がした。
なんとなく、走ってる道が
さっきよりもハッキリ見える気がした。

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