紫陽花の咲く庭で
夏合宿!-4-
「切くんたちのおかげで楽できたね」
「あたしは楽できてないけどね・・・」
荷物、運んで貰った。階段もあったから
助かっちゃった。・・・彩は自力だけど。
「・・・お風呂って
もう入れるんでしょうか」
「たぶん。晩ごはんまで自由行動だし」
「お風呂、早くない?私はもうちょい
したらいこうかなって思ってた」
真紀ちゃんは少しだけ顔を赤くした。
うつむきながら小声で
「恥ずかしいので・・・!」
と。ちょっとかわいい。
「いってらっしゃい。
今なら誰もいないでしょ」
「女子そんなに多くないもんね」
「・・・いってきます」
そう言うと、真紀ちゃんはタオルとかを
持って部屋を出ていった。
「らしいなぁ」
「あたしたちも、
真紀が帰ってきたらいこ」
「そうだね」
それまで、読書してよう。文芸部らしく。
野球部の話。そういえば、切くんは
どこまで読んだのかな。
・・・バスの中で、ああは言ってたけど、
やっぱり切くんも仁くんみたいな
本をこっそり読んでるのかな。
「ちょうどいいや。2人きりだし
ちょっといい?咲」
「ん?何?改まって」
真面目な声で彩が言う。
真剣な顔で私を見てる。ちょっと怖い。
「正直に答えて欲しいんだけど」
「う、うん。なに?」
彩は一瞬だけ間を空けた後、
「正直、切のことどう思ってる?」
「え?切くん?」
全く予想してない質問だった。
もしかして、余命ことがバレた?
とか思ってた・・・。
「切くん・・・切くんかぁ。
私のことが好きなのは最近わかった」
「あ、それは知ってたんだ」
七夕祭りの日。たぶん切くんは私に
告白しようとしたんだと思う。
結果は・・・失敗だけど。
「えっ、彩、知ってたの!?」
「うん。というより、
先生含めて2年生の常識。
あ、あと真紀も」
「え?えええええええええっ!?」
常識なの!?私はぜんっぜんっ
知らなかったのに!
しかも、先生や真紀ちゃんまで!?
「え?え!?いつから!?」
「切が片思いし始めたのも、
あたしたちの間で常識になったのも、
1年生の時から」
そうなんだ・・・。てっきり、最近、
私のことを好きになったのかと思ってた。
「切、わかりやすいから。じーーっと
咲を見つめたり、近くに座ったりしてさ」
・・・全く気づかなかった。
真紀ちゃんも気づいてるのに・・・。
ひょっとして私、鈍感?
「で、どうなの?」
「どうなの?って言われても・・・
そういう風に想われるのは
たぶん・・・初めてだから、
正しいかわからないけど・・・
好きかなぁ」
「お!好感触!」
七夕祭り以来、私も結構ノリ気で、
ちょっとだけ意識して接してる。
仕草とか声とか。
・・・切くん、喜んでるよね?
「実はさ、この合宿も、切と咲を
いい感じにしようと思ってさ。
参加することにしたんだ」
「へぇ〜、そうなの・・・」
「その様子じゃ、全然進展なんて
してないでしょ?」
私は全力で頷く。学校で話すくらい。
切くんもあれ以来、
特にこう、告白!とか雰囲気はない。
「連絡先は?交換とかしたの?」
「してない・・・
ほんとに学校で会うだけ・・・」
彩はニヤリとした。何か企んでそうな顔。
「じゃあさ、今夜、ご飯の後に
切の部屋に突撃!」
「ええ!?私から!?」
彩は頷きながら私の右肩を叩く。
「そ。それで、連絡先交換して、
咲の方から告白して・・・」
「むむむ無理だって!
連絡先はともかく告白なんて!」
「じゃ、それで」
・・・ハメられた気がする。
こう、高い値段出したあとに
一気に値下げする手法に。
「ま、まぁ、合宿が終わったらしばらく
会えなくなるし、いっか。やってみる!」
「そうそう。いきなり告白が無理でも、
1歩ずつ・・・せっかくの
夏の旅行なんだし!」
・・・でも、意識すると
急に恥ずかしくなる。
切くんは私のことが好きだ。
私も別に嫌いじゃない。むしろ好き。
でもそれは友達としてで・・・
うー、こんなの初めてだから変な気持ち。
「あのさ、1つ疑問なんだけど」
「うん?」
彩の作戦への疑問。それは、
「どうやって2人きりになるの?」
切くんの部屋といっても、
仁くんとか他の人も一緒なはず。
入ったとき誰も居なくても、
途中で誰か戻ってくるかもしれない。
「そりゃ、切と同じ部屋の2年生に
作戦のことを言えばなれるよ。
みんな応援してるから」
「あ、私たちそんな風に
見られてたんだ・・・」
「どちらかと言うと、
切の片思いを暖かーく見守る会だね」
・・・切くん、いい同級生を持ったね。
私はさっきまで全く知らなかったけど。
その後、
彩と今夜の作戦会議。まとめると、
彩は仁くんをこの部屋に
呼んで適当に遊ぶ。
合宿中、仁くんは切くんの
近くにいるだろうから、
打ち合わせしたいらしい。
なにを?って思ったけど、まぁいいか。
仁くん以外の男子は・・・
仁くんに任せる。
で、私は切くんの部屋に突撃。
・・・って感じ。
会議が終わるとほぼ同時に、
真紀ちゃんが戻ってきたので、
今夜の作戦を軽く説明。
真紀ちゃんはこの部屋で
遊ぶことになった。
一段落ついたから、
私と彩はお風呂に向かった。
・・・切くんとはすれ違わなかった。
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