紫陽花の咲く庭で

ラテリ

夏合宿!-5-


風呂は大きな浴槽が1個だけドーンと
置かれてるだけの質素な場所だった。
・・・当然、風呂で咲とは
会わなかった。男女別れてるし。
仁と裸の付き合いがあっただけだ。
いいお湯だったくらいしか覚えてない。
風呂上がりの咲が見れるかも!と
期待するも、それも無く。

そして、夕飯。悲しいことに隣は仁だ。
咲は遠くに座ってる。髪も完全に乾いてて
風呂上がり感は全くない。
彩と真紀と話しながら、
おいしそうに食べてる。

「そんな顔するなよ。
咲の隣が良かったのは分かるが」
「・・・なら咲と代われ」
「そいつは無理だ」

そういいながら、さり気なく俺の皿から
おかずのステーキ1切れを奪う仁。

「あ!てめー!」
「いただき!」

くそぅ、楽しみに取っておいたのに。
俺もなにか・・・
ちっ、仁の皿には
ほとんど何も残ってない。

「はぁぁぁ。咲は遠くだし
仁に肉奪われるし、
テンション落ちるわー」
「その内、いいことあんだろ」

仁はニヤリとしながらそう言った。
・・・なんか企んでるのか?

その後、咲が隣にくるとか、
こっち向いて笑ってくれるとか、
俺の肉が返ってくることもなく、
夕飯は終わった。

バスの時間、カムバーック。

「部屋に戻るか」

夕飯後は特に予定がない。
各自、自由行動になってる。
悲しいことに誰かと約束もないので、
部屋で咲から借りた本
でも読もうと思った。

「あ、俺ちょっと寄るとこあるから」
「へーい」

トイレかなにかか?
まぁ、別にどうでもいいか。
仁がどこいこうと。

部屋に戻るとだれも戻ってきてなかった。
カバンをガザゴソして、中の小ポケットに
入ってる本を取り出す。
どうも小説を読むのは苦手で、
あまりページは進んでいない。

とはいえ、咲から借りた本。
頑張って完走したい。
・・・咲に感想とか
聞かれるかもしれないし。

しおりを挟んで置いたページを開く。
あの後の展開は、
幼なじみのマネージャーの
活躍でスランプを脱した
主人公が覚醒。地方の大会で
投打にわたって大活躍中。
これなら夢の甲子園も!?
・・・っていう展開になってる。
うーん、王道。

(少しづつ読んでるけど、なんだかんだ
面白いなぁ。読むのに時間かかるけど)

今まで文字だけの本は避けてたけど、
食わず嫌いだったかもしれない。
こう、読み始めるまでは気が重いけど、
読み始めると夢中になるタイプ。

・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・

「もしもーし」
「!?」
「やっと気づいた!」

・・・

「さーて、どうなるかな」
「上手く行くといいな」

現在、彩の提案で
「切と咲を部屋に2人っきりにする作戦」
が遂行中だ。とはいっても、
切と同部屋の俺らがしばらく部屋に
戻らないようにするだけだが。

「はい、揃った」
「まじか、はえーな」

俺は今、彩たちの部屋で
真紀と彩の3人でババ抜きしてる。
まず彩が抜けた。真紀と一騎討ちだ。

「咲もなんだかんだで切のことを
気にしてるみたい」
「ついにあいつに春がくるのか?
・・・げ、ババだ」

気づけばあいつの片思いも1年以上。
つまり、俺らが暖かく見守ってきて
1年以上。

「切先輩、わかりやすいです。
私、すぐ気づきました・・・!
あ、ババ・・・」

真紀にもすぐ気づかれたのか、あいつ。

「ま、咲も切の片思い知ってるわけだし。
・・・でも、あの様子じゃ
あまり進展しなさそうだなぁ
連絡先は交換しておきなよとは
言っておいたけど」
「切も切で鈍いというかなんというか。
な!ババだと!?」

真紀はニヤリとしていた。
長い勝負になりそうだ。

・・・

読書に夢中になってると、
いきなり声をかけられた。
後ろを見ると咲がいる。・・・咲!?

「え?え!?なんでいるの!?」
「え、えーと。その、ほら!
こういう旅行の定番じゃん!
違う部屋に遊びに行くの」

たしかによく聞く話だ。
が、今は部屋に俺ら以外誰もいない。
咲と2人きり・・・。

「そ、そうだけど、なんでここに?」
「え!?えーと、他に親しい人が
いる部屋がなかったから?」

・・・なぜか疑問系で答える咲。
というより、今親しいって言ってくれた。
感動で泣きそう・・・!

「ほら、この合宿って私たち以外、
運動部だから。切くんたちの
部屋ぐらいしかないかなーって」
「あー、そっか。たしかに」

別に俺に会いに来たわけでもないらしい。
・・・別に期待なんてしてない。
と、必死に自分に言い聞かせる。

「そ、そういえば、
仁くんとか他の人は?」
「さぁ?まだ戻ってきてない」

正直、今戻ってこられても困る。
偶然とはいえ、
せっかく2人きりになれたのに。
・・・とはいえ、どうしよう。
この間のやり直しをするか?
いや、だめだ。また変なこという
未来しか見えない。何か話題を・・・。

咲も2人きりなのは予想して
なかったのか、
微妙な沈黙が部屋を包む。
ちょっと後ろ向いたり
キョロキョロしてる。
えーと、こういうときは・・・
あ、そうだ。この本についてでも話そう。

「ええと。そうこれ!長く借りてるけど、
少しづつ読んでるよ」
「ほんとに!切くん、読書とか
しなさそうなイメージが
あったからちょっと意外!」

まぁ、そのイメージは間違っていない。
実際、咲に勧められるまでは読んだこと
なかったし。

「たしかに、文字ばかりの本は
読んだことなかったなぁ。
マンガならよく読むけど」
「そうそう。そんなイメージ。
あとエッチな本も」
「ぶっ!」

・・・仁。あとで絶対しばく。
何があっても・・・だ。

「バスの中でも言ったけど、
読まないって!」
「ふふ。ほんとかなー?」

咲はニヤリと笑った。
可愛い。
可愛すぎる。
咲が大好きだから読まないって
言いたいけどそんな勇気はなかった。

「ほんとほんと。と、いうより、
年齢的にまだ読めないじゃん!」
「あ、たしかに!」

・・・まぁ、年頃の男子ならみんな読んで
そうって思うのは自然かもしれないけど。
・・・仁はほんとに読んでそうだが。

「で、この本、まだ読み終わるのに
時間かかりそうだから、
しばらく借りていい?」
「いいよ!私はもう読み終わったし、
続き読んでるから」

咲が嬉しそうにしてる。
可愛い。
ほんとに可愛い。
思わずじーーっと見つめてしまう。

「あ、あのさ。切くん」
「え?」

あ。やばい!見惚れてた!
それに気づいたのか、
咲が言いづらそうに
俺の名前を呼んだ。

「な、なに?」
「私の・・・れ、連絡先。
お、お、教えるね。
ほ、ほら、夏休みだし」

・・・!!!!!!
そう言って咲はスマホを
顔の前で横に軽く揺らす。
もうだめ可愛いくて直視できない。

「そ、そういえば、
交換してな、なかった」

冷静に。冷静になれ。
落ち着け。落ち着くんだ・・・!
俺はズボンのポケットからスマホを
取り出して、咲のスマホに向けた・・・!

「あ、ありがとう・・・」
「こ、これからもよろしくね、切くん」

内心、ガッツポーズ!
これで夏休みでも
咲と連絡が取れる・・・!

「こ、こちらこそ」
「あーもうほら私眠いから
部屋に戻るね!」

咲はそういうと、軽く手を振って
部屋を出ていった。
咲のいい匂いだけが部屋に残ってた。

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