紫陽花の咲く庭で

ラテリ

咲の誕生日-2-

公園は思ってたより小さかった。
ブランコと公衆トイレと小さなベンチ。
あと、街灯。少し遠くからは、
お祭りの音が聞こえてくる。

真紀の言ってたとおり、人は少ない・・・
というより、俺たち以外いなかった。
そんな公園で咲と2人きり・・・
緊張するなというほうが無理だ。

「彩たち、いないね」
「う、うん」

声が震える。これから俺はしおりを渡して、それから大好きって伝えて・・・
頭の中も心臓も破裂しそう。

「どうしたの?なんか、声が変だよ?」
「だ、だ、大丈夫。何でもない」

咲が心配してくれる。ありがたいけど、
今はむしろ逆効果。
ドキドキがどんどん加速する。

「少し人に酔った?
お祭り、すごい人だったもんね。
少しやすも?」

咲が俺の手を握って、もう片方の手で
ベンチを指差す。
柔らかいあったかい・・・!

「あ、いや、そのさ」
「なに?」
「えーと、さ。ほら、
誕生日プレゼント。渡そうと思って」

握ってた手を離してカバンをあさる。
えーと、あった。
手の匂いを嗅ぎたくなるのを我慢しつつ、
しおりをカバンから取り出す。

「これ、気に入って
もらえるといいんだけど」
「わぁ、ありがとう!
たぶん・・・しおりだよね。
形からして。開けてもいい?」

ペラペラの袋だからすぐバレる。
軽く頷いた後、俺はひとつ深呼吸した。
落ち着け・・・!

「紫陽花のしおり・・・きれい・・・。
大事に使うね!」

・・・心落ち着かせられません!
咲の笑顔は眩しすぎて
可愛すぎてどーにもこーにも。
もう勢いだ勢い!

「あ、あのさ!」
「は、はい!?」

向きあって、咲の両肩を掴む。
もう後戻りはできないとこまできた。
急に肩を掴まれて驚く咲。
覚悟を決めて、一気に・・・!

「俺・・・俺は咲がす、す」

咲は俺の顔をじっと見てる!

「すき焼き食べたい!」

・・・
・・・
・・・

あまりの緊張のあまり、
意味不明なことを言ってしまう。
咲は笑いながら

「なにそれ〜、ぷ、あはははは」

って、言ってる。
いや、その、そんな腹抱えながら
笑わなくてもいいじゃん。
たしかに意味不明なこと言ったけど。

・・・まぁ、やらかしましたな。
とても、今から好き!なんて、
言える空気ではなく、
俺は溜め息を吐きながら空を見上げた。
・・・天の川みたいな
星たちが綺麗だった。




「で?言い訳聞こうじゃない」

月曜日。朝から彩に呼び出される。
当然、彩はあれを
覗き見していたわけだが、
俺のすき焼き発言に
とてもご不満のようだ。

「いや、その、あれは、はい。
ごめんなさい・・・」
「いいムードだったのに、
あれは・・・ねぇ」
「もう一度!もう一度だけ
チャンスをください!」

まるで悪の親玉と
その子分みたいな会話になっている。
が、実際にヘボやらかしたのは俺だ。
なんとかリベンジを・・・。

「しょーがないなぁ。
また、何か考えておくから」
「ありがとう!彩大せんせー」

手を合わせて拝む。彩もノリノリだ。

「はぁ、でも、咲はどう思ってるんだろ。
正直ないよね、俺」
「ああ、さりげなーく聞いてみたけど、
咲は別にどうとも思ってないみたい。
しおりも使ってたし」

それを聞いてめちゃくちゃ安心した。
こう・・・幻滅されてたら
どうしようとか心の中で思ってたから。

ともかく、気持ちを切り替えよう。
つぎ、つぎ!きっとチャンスはあるって。
そう長くはないけど。
そう言い聞かせながら顔をバン!と叩く。

「ま、思いついたら
知らせるよ。待ってて」
「はい!」

我ながらいい返事だと思う。

彩と話し終わった俺は、とりあえず、
自分のカバンが置いてある席に戻る。
そして、仁のカバンがどこにあるか確認。
カバンからブーブークッションを
取り出し、仁がいない間に
仕込むことにした。
・・・読書に夢中の咲を見ながら。

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