紫陽花の咲く庭で

ラテリ

絶望-2-

「今いきまーす」

聞き慣れた可愛い声が1階に響く。
掃除の時間。
正直、掃除が嫌いな俺は
やってる振りをしながらサボってた。
好きな女性、天織さんを見つめながら。

(どこいくんだろう)

2階に行く天織さんを見ながら
こっそりついていこうとすると、

「切!サボんなよー」

と、後ろから仁の声が聞こえた。
俺は適当に

「ああ!」

と、答えながらも階段を登った。

登りきると1番奥の教室に
入っていく姿をぎりぎり確認できた。
俺は周辺を見渡して誰もいないことを
確認すると、持ってたホウキを
適当に掃いて、
掃除をしている振りをしながら
1番奥の教室に近づく。

別に盗み聞き・・・
というわけではなく、大好きな天織さんの
ことを知りたいだけだ。

やめなよ!といってくる天使切を
必死に説得しながら聞き耳をたてる。
好奇心には勝てなかった。

「・・・って?」

(よく聞こえないな)

教室の外で完全にドアに耳をつける。
今、誰か来たら完全に変態扱い
されるんだろうなとか思いつつ
中の声に集中する。

「はい、実は昨日病院で私は・・・」

天織さんの声が詰まる。
何か言いにくいことを
言おうとしているのがわかった。

「実は・・・?」

先生が聞き返す。少し間が空いて、
再び天織さんの声が聞こえた。

「私、余命1年って言われたんです」

・・・え?
俺は衝撃で思考が停止する。
先生も同じなのか、
教室内は沈黙した。
永遠と思われた沈黙の後、

「・・・本当に?」

先生がやっと聞き返した。
俺もそう思った。
聞き間違いであってほしいと。
だって、大好きな天織さんが
あと1年で亡くなるなんて、そんなこと
思いたくないし考えたくもない。
だけどそんな淡い期待を裏切るように

「はい」

天織さんはそう答えた。
その言葉を聞いた俺は
ショックを受けたまま、
その場を後にした。

・・・信じられるか?
大好きな女性が余命1年って。
俺に何ができる?
ホウキを片付けながら考える。

「切。おーい、切!」
「え?ああ、仁か・・・」

名前を呼ばれ、ハッとなる。
仁が大丈夫か?と言いながら
俺の顔の前で手を振ってる。
俺はその手を払いながら

「何だよ」
「何だよって部活の時間だよ。行こうぜ」

そういえば忘れてた。陸上部。
たしかにそろそろ出ないと間に合わない。
だけど・・・

「ごめん、今日サボるわ」

そう言うと、意外と仁は驚かずに

「そうか。じゃ、
先に行ってるから、気が向いたら来いよ」

と、言いながら俺の肩を
軽く叩いて、理由も聞かずに
外に出ていった。
ありがと、仁。
この事は絶対、胸に秘めとかないと
いけないんだ。

・・・で、俺に何ができる?
どうすればいい?
俺は医師でもないし
成績もいいわけじゃない。
むしろ悪いほうだ。
それでも知ってしまった以上、
何かしたい。どうにかしたい。
大好きな天織さんを助けたい。
そうだ、まずは調べよう。
調べるには・・・
図書室に行こう。どんな本を
読めばいいかなんてわからないけど、
こんな掃除用具入れの前で
考えるよりはましだ。
そうと決まれば行動だ!

ホウキを片付けて、
さっき降りた階段を登る。
行ったことないけど、たしか
図書室は2階にあったはず。

階段横にある小部屋。
閉まっているドアに手をかける。
さっーと横に開いて中に入るとそこには。

「あれ?どしたの、切」

いきなりの訪問者に驚く同級生2人。
彩と・・・天織さん。

「え?いや、その。
・・・なんでいるの?」
「なんでって・・・文芸部だから」

さっきの話が衝撃だった
せいで完全に忘れてた。
この時間の図書室には
文芸部がいて活動中。
そして、天織さんは文芸部。
つまり、なんでいるのは俺の方。

それに気づいた俺はとりあえず
誤魔化してさっさとどこか・・・

(ああ、陸上部にでもいけばいいか!)

とか考えた。
当然、本人に君を助けたい!
なんて言える訳ない!
盗み聞きだし。俺は知らないはずだし。
かといって、図書室以外に
何かを調べる場所なんて、
俺の頭じゃ思いつかない!

「あー・・・ごめん、間違えた!
それじゃ!」

そういってドアを丁寧に閉めた後、
急いで階段を降りて、先に行った
仁を追いかけた。

・・・天織さん、別に今日明日
死ぬわけじゃないだろうし、
さっきもいたって普通にしてたから、
大丈夫だろう!・・・たぶん。

そんな風に、
心の何処かで少しでもごまかさないと、
何かよくわからないモノに
押し潰されそうだった。

・・・本当に俺に何ができるのだろうか。
せめてもう少し天織さんと
親しかったらなぁ・・・。




「・・・彦川くん、どうしたんだろう?」
「さぁ?」

普段なら陸上部に出てる
時間のはずなのに。
それにちょっと失礼だけど、
あまり読書してるイメージがない。
こう・・・仁くんとかと
ゲームで遊んでる気がする。

「・・・さっきの人、
2年生の人ですか?」
「うん。彦川切くん。
・・・たまーに話したりするかなぁ」

そういえば、真紀ちゃんは
初めて会うんだったっけ。
・・・それもそっか。
切くんがこの時間に図書室に来るのは
初めてだろうし、真紀ちゃんは
入学してまだ1ヶ月ちょいだし。

「ま、切のことはおいといてさ。
気になってることがあるんだけど」
「なにかあった?彩?」

彩は読んでた難しそうな本に
しおりを挟むと、
机に置いて私をじっと見た。
そんなに見つめられると
思わず笑い出しそう。

「咲、今日なんか様子が変じゃない?
具合でも悪いの?」

ぎくっ!彩は感が鋭いからなぁ・・・。
って今の、顔に出てないよね?
あまり悲しい思いさせたくないし、
なるべくなら余命のことは
隠しておきたい。
えーと・・・

「気のせい気のせい!
いつも通りだよ!ねぇ?真紀ちゃん」
「私に振られても・・・
今いいとこなので」

真紀ちゃんはいつも通り読書に夢中。
彩はまだ私を見つめてる。
・・・なんとかごまかさないと。

「彦川くんのほうがおかしいんじゃない?
珍しく図書室に来たし。
私は彦川くんが気になるなぁ」
「それ、本人に言ったら喜ぶと思うよ」

なんで喜ぶのかよくわからないけど、
とりあえず彩の視線は私から外れた。

「そうだ、彩、今度聞いてきてよ。
図書室に来た理由!
よく話してるでしょ?」

とにかくそらす!話題を!

「咲が直接聞いた方がいいと
思うけど・・・まぁ、いっか。
聞いてきてあげる」

なんとかごまかせた・・・かな?
彩は机に置いた本を手に取って
しおりの挟んであるページを開いた。

・・・横で真紀ちゃんが
小声でなるほどって
言ったけど何がなるほどなんだろう。
ま、いっか。話題をそらせたし。

その後、彩が話を戻すことは無かった。

家に帰って、ご飯食べて、
シャワー浴びて、テレビ見て、スマホ見て。
いつもの1日が終わった。

本当に1年後、私は死んでるのかな。
とっても信じられないくらい
いつも通りの1日だった。
お母さんの言った通り、
来年のことなんてわからない。
死んでるかも生きてるかも。
・・・だったら。
余命のことを知る前と
同じように生きていたい。
死ぬ直前になって思い出す
でもいいと思った。

・・・だって、1年も死に怯えながら
生きるなんて辛すぎるから。

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