紫陽花の咲く庭で

ラテリ

誕生日の裏側で

それは七夕祭りで切が
咲に見とれてた時のこと。

「・・・ほんとに好きなんですね。
切先輩は。咲先輩のこと」
「まぁーいつもあんな感じ」

周囲からみれば驚くほど分かりやすい、
切の片思い。実際、1年生の真紀だって、
あたしが教える前に気づいた。

「そういえば、いつぐらいから
気づいてたの?あれ」

2人は今、射的に夢中。
その間に真紀と2人で距離をとる。
・・・咲はともかく、
切も全く気づいてない。

「あの、この間、
図書室に入ってきたときに」
「ああ・・・もうあの
タイミングで気づいてたと」

少し意外。あの時、真紀は
本に夢中だったように見えたから。
それに、切は別に咲のこと
何も言ってなかったし。

「だって、ずっと咲先輩を見つめながら、
顔を赤くしてましたから・・・!」

・・・たしかに。そりゃ気づくよね。
ほんとに分かりやすいやつ。

「でも、咲先輩は
気づいてないんですよね」
「うん。たぶんね。
咲、鈍感というか天然というか」

そこが咲のいいところなんだけど。
たまに切を見てると不憫になる。

「前にさりげなく聞いてみたこと
あるんだけどね。好きな人いるのって?」
「・・・答えは?」
「そんな人いるわけないじゃんって。
自分を好きな人も
いないと思うし・・・って」
「切先輩・・・」

とはいえ、最近の2人は
いい感じだと思う。話す機会も増えたし。
もともと、咲は男子と関わることが
少なかったし。仁ぐらい?
まぁー仁は誰とでもつるむしなぁ。


「さて、この辺なら大丈夫かな?」
「よく見えると思います・・・!」

合流場所の公園についた。草影に隠れる。
あとは2人が来るのを待つだけ。
人影はないし、お祭りの音も
そんなに聞こえてこないから
話声には注意しないと。

待機してから10分ほどすると、
2人が姿を現した!たぶん切は、
あたし達が覗いてることに
気づいてるんだろうなぁ。

「来ました・・・!」
「しーっ!声気をつけて」

2人はあたしたちの近くまできた。
ギリギリ声が聞こえてくる。

「彩たち、いないね」
「う、うん」

・・・切、声が震えすぎ。
あ、切がチラッとこっちを
見たような気がした。
・・・気のせいかな。

「どうしたの?なんか、声が変だよ?」
「だ、だ、大丈夫。何でもない」

とても大丈夫そうには見えない・・・。

「少し人に酔った?
お祭り、すごい人だったもんね。
少しやすも?」
「あ、いや、あのさ」

お、咲から手を握った。
・・・切のやつ、
咲に手を握られたからか、
鼻の下伸びすぎ。

「なに?」
「えーと、さ。ほら、誕生日プレゼント。
渡そうと思って」

がさこそとカバンをあさる切。
出てきたのはあたしが渡した
紫陽花のしおり。

「これ、気に入って
もらえるといいんだけど」
「わぁ、ありがとう!たぶん・・・
しおりだよね。形からして。
開けてもいい?」

切の顔はすでに真っ赤だった。
例えるならゆでた蟹みたいに。
自覚があるのか、深呼吸してる。
・・・見てる方が恥ずかしい。

「紫陽花のしおりだ・・・
きれい・・・。大事に使うね!」

天然な咲のことだから、
あたしが用意したものとは
気づかないでしょ・・・たぶん。

「あ、あのさ!」
「は、はい!?」

おお。ついに両肩つかんだ!
いけ!切!そこだ!
ふと横を見ると、真紀もじーっと見てる。

「俺・・・俺は咲がす、す」

ざわざわ・・・って効果音が
脳内で流れる。

「すき焼き食べたい!」

あたしは盛大にこけた。
ギャグマンガも驚くぐらい。
いや、違うでしょ。咲が好きだ!でしょ。
なんですき焼きが出てくるのさ!

「なにそれー、ぷ、あはははは」

咲はのんきに笑ってる。
・・・まさか、気づいてないの!?
いやいや、いくら鈍感な
咲でも気づくでしょ!?
切も切で夜空を見ながら黄昏てる。
・・・これは月曜日に反省会しないと。

「切先輩、失敗しましたね」
「うん・・・そうだね・・・」

妙な脱力感に襲われながら、
あたしと真紀は草陰から出て
2人と合流した。


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