紫陽花の咲く庭で

ラテリ

絶望-1-


初夏を感じ始めた5月中旬

私は学校を休んで病院に来ていた。
生まれつき身体が弱いから
月1ぐらいの定期検診。

「天織咲さん、8番にどうぞ」

いつもの先生に名前を呼ばれる。
さっき採血などをしてるからその結果を聞くだけ。
いつもなら

「今月も異常なし!」

で、終わってる。
今月もそんな感じで終わって、お昼どうしようとか、
そういえば今日の野球の試合は誰が先発だったっけとか。
そんなことを考えながら8番のドアをノックする。
コンコンという音が終わる前に部屋の中から声が返ってきた。

「はい、どうぞ」

昔から私のことを診てくれてる先生。
だから結構な歳のはずなんだけどすごく若く見える。
声も見た目もちょっとカッコいい。

「先生ー、今月も異常なし!ですか?」

部屋に入って先生の顔を
見ながら私はそう言った。
言った後に先生の顔が
いつもと違うことに気づく。
えっ、何かあったの?

「咲ちゃん・・・」

暗い声。不安になる声。
どこか申し訳無さそうな声と顔。
数秒間の沈黙の後、先生が口を開いた。

「咲ちゃんは余命1年ぐらい・・・
しかなさそう」

いきなりの・・・余命宣告。
いろいろなものが
ぐるぐるまわって、倒れた。
こう、闇に落ちていく感覚。
先生が小さな声で

「ごめん」

と言った。何がごめんなのかは
わからないけれど、
私、後1年しか生きられないの?と
思うと胸が苦しくなっていく。
先生の説明も頭に入らず、
ただ頭の中を抜けていく。

定期検診が終わって、病院から出て、
家までの道。私、普通に歩ける。
生きてるし、身体に異変もない。
まるで遠くにある台風に怯えるように
1年後の自分を想像してぞっとした。

・・・とりあえず。とりあえず、
お母さんと橋渡先生には話そう。
話してもきっと何も
変わらないと思うけど。


家に帰ってお母さんに余命の事を話した。
お母さんは一瞬だけ
驚いた顔をした後、笑顔になって

「大丈夫。1年も先のことなんてきっと何かの間違いだから」

と言ってくれた。お母さんの表情と言葉で少し落ち着いた私は静かに頷く。

「病は気から。そういうでしょう?
だから、そんな顔しないで、
1日1日を諦めずに生きていこ?
今は何ともないんでしょ?」
「うん」
「だったら!パーーッと思うように
生きましょ!その方が楽しいでしょ!」

・・・確かに今落ち込んでいても
意味がないかも。生きてるし。
数時間だけでもこんなに辛いんだから、
死ぬまでずっと、この
「やだ、死にたくない」って
思い続けるのは無理だって思う。
ならいっそ残りの時間を楽しく、
そして今まで通りに生きよう。

そう、強く思った。


一夜明けて、朝が来た。
案外、普通の朝だった。
学校に行く準備をして、
いつも通りの朝ご飯を食べて。

「いってきまーす」

初夏を感じる風が髪を通り抜ける。
今日が始まった。

担任の橋渡先生に、昨日告げられた
余命についてなんて言おうと
考えながら電車に乗る。

朝一で言おうかな・・・
でも朝って忙しいかも。
昼休みに言おうかな・・・
他の人に聞かれるかも。
放課後なら教室も空いてそうだし、
放課後になったら言おうかな・・・。

でも、何て言おう。余命1年です?
うーん直球すぎるかも。
余計な心配とかかけそう。
別に今は何かの身体に
異常とか感じてないし。

考えれば考えるほど、
ああでもないこうでもないってなる。
とりあえず放課後!
橋渡先生にちょっと話が!って言おう。
そしたらきっと流れでなんとかなるなる!

気づくと学校に着いてた。
改めて見るとボロい校舎。
プレハブの2階建て。
始めてきたときは校舎じゃなくて
事務所か何かだと思った。

手動の小さなドアを横に引いて中に入る。
入って目の前にある先生たちの
スペースには橋渡先生がいて、
何かプリントみたいなものを作ってた。

「おはようございまーす」
「おはよーう、はやいね」

他の先生は今はいないみたい。
今なら言えるかも?と頭によぎる。

「あの、先生、話したいことが
あるんですが!」

そう私が言うと、
先生は顔の前で手を合わせながら

「ごめん、今は手が
離せないから後でいい?」
「あ、はい!なるべく2人きりが
いいので調整してもらって
いいでしょうか・・・」

それを聞くと先生は少し
神妙な顔になった後、

「おっけー。じゃあ、放課後に
どこか適当な空き教室で話そうか」

私は頷いて教室に向かった。
まだ、誰も来てなかった。

授業中、放課後にどう
話そうかとか考えてたら
授業なんて頭に入るわけもなく・・・。
まぁ、いつも入ってないけど。

結局なにも思いつかないまま
放課後になった。周りは掃除を始めてる。
そして、橋渡先生が
手招きをして私を呼んでる。
もー勢いで言うしかない!
暗い話だけど、これから1年
暗く生きたいわけじゃない!

「今いきまーす」

先生は階段を登って2階に行くと、
3つある教室の一番奥の教室に入った。
私も続いて教室に入った。

「それで、話って?」
「はい、実は昨日病院で・・・」

つづく

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  • TETO

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