転生者よ、契約せよ。(仮)

ソリィ

転生者よ、契約せよ。(仮)

魔術専門学院。
魔術だけを学ぶ学校。
一定以上の素質があれば、スラムに住む子供でも入学出来る場所。
そこの、戦闘用にと建てられた特殊な建物。
その1つの部屋に、4m程距離を離し、杖を構えて対峙する2人の女性が居た。
1人は、学院の最上級生用の制服を身に纏い、炎のような紅の髪を靡かせる美しい女。
1人は、様々な色が揺らめくオーロラのような不思議な色の髪を結わえ、学院へ招かれた者の証であるブローチを付けている、この世のものではないと思えるほどの美貌を持つ可愛らしい少女。
紅髪の女は、腕の良い魔術師を輩出し続ける名門の家の出身で、飛び級を繰り返して最上級生となった才媛。本人の希望で未だ卒業して居ないが、実力はもう卒業に足りるものを保持していると噂だ。
※学院を卒業できるのは一握りで、入学できただけでもかなりの箔が付くような場所。卒業に足りると認められる実力=《イコール》魔術師の中ではエリート中のエリート。
美貌の少女は、数日前に突然学院に現れ、類稀な技術で教師たちの度肝を抜いたのだが、名前も名乗る事が無く、注目の的となっている人物であった。
「うふふ、貴女にわたくしの本気の魔術を引き出せるかしら?」
「本気でも何でも効かないに決まってる。それは、世界の理と同レベルの事実よ」
「な・・・」
「先手は譲る。早くしなよ」
「っ、バカにして・・・! これは、どうかしら? 【冥界の火よ、弾と化して穿て】」
オレンジ色の火が複数生み出され、火そのものが弾丸のような姿に変わる。
そして、美貌の少女目掛け、真っ直ぐに、愚直な程に真正面から向かってくる。
「は! 【神に在りし風よ、私に護りを】」
言霊に反応し、緑と金が混じり合った膜が美貌の少女を中心にドーム状に張り巡らされる。


――リィィン


膜に炎の弾丸が当たるのと同時、澄んだ鈴の音のような音が鳴り響き、紅髪の女は不可解そうな表情を浮かべる。
弾丸は膜――風の結界に小さな波紋も浮かばせずに掻き消えた。
「はあ?」
ぽかん、と口を開いたまま固まってしまう紅髪の女。
「ふむ。消耗無し、子鼠が小石を数個転がして来た程度ね。これなら200発でも500発でも余裕ね」
「ふざけてんの?」
「え? ああ、ごめんなさい。本音が漏れてたわ。」
白々しく、棒読みで謝る美貌の少女。
その様は紅髪の女を苛立たせるのに充分な効果を持っていた。
「ふざけてんのね、わざとらしい演技すんじゃないわよ!」
紅髪の女は激昂し、美貌の少女を怒鳴りつける。
彼女を見て美貌の少女は怯えたように俯く。
それを見てニヤニヤと笑う彼女は、気付いただろうか。
美貌の少女が唇を釣り上げ、『かかった』とでも言いそうにニヤリと笑った事に。
「…いいわ、本気出してあげる。【冥界にて燃え盛る業火よ!クーアティア=フレアの名の下、爆発と化して彼の敵を滅ぼし給え!】」
ごうっ、と燃える炎は爆発へと変換され、風の膜へ波紋を発生させる。
魔術の威力を高さを信用している紅髪の女は勝利を確信し、笑みを浮かべるが…。
「うーん。度肝を抜いてやりましょうか。【空間よ、鋏を】」
美貌の少女は、膜が波紋を発生させ、魔力を消耗しているのにも関わらず、眉1つ動かさず、動揺した素振りを見せない。
略式で呪文を唱え、発動させた魔術で鋏を取り出し、髪を1房、ざっくりと切る。
「うん、これで大丈夫かな。【冥界にて轟々と流れし水よ、彼の攻撃を相殺せよ】」
言霊に反応し、魔術が発動する。
ザアアアア!と大量の水が結界の周りに降り注ぎ、炎の爆発を断ち切り、消火する。
「な、ああ…」
その威力に反し、極々平然としている美貌の少女に、怯える紅髪の女。
※紅髪は色々と小技を使って威力をかなり増幅させて撃っているが、そんな小細工もなく、自分の魔術と同等以上のものを撃った美貌の少女が平然としている事が恐ろしいと思っている。
尻餅をついて体を震わせるその姿をどう思ったのか、美貌の少女はニコリ、と笑った。
無邪気な子供のように、可愛らしく。
しかし、紅髪の女にはその表情が怖気を感じる程恐ろしく見えた。
紅髪の女はへたりこみ、顔を青褪めさせた。




「名の式を知ってるのね」
「なの、しき…?」
「名前とかで威力を底上げするテクニックよ。フレアは炎という意味を持つ。そして、フレア家は火魔術の名門。無駄もあるけど結構増幅出来てたわね」
「…あ。」
原理も何も一切不明の現象で、一部の名前、苗字を持つ者だけが使用出来る威力上昇の技。
紅髪の女は、あの現象についてそう認識している。
「また文明が発展したって聴いて試しに来たのに、レベルが低すぎてがっかりしてたのよ。まあ、あなたみたいなのも居るって判ったし、滅ぼすのは止めてあげましょう。」
「……あなた、は」
「わたし?」
こくり、と頷きを返し、
「なに、ですか?」
続きを問う。
「文明の発展を望み、絶つ者。世界を観測する者。これでも2000年は存在し続けてるわよ?」
「に、二千年?そんなに生きているのですか?どうやって? 文明の発展を望み、絶つとはどういう意味ですか?世界を観測するとはどういう事ですか?」
興味が恐怖を上回ったのか、瞳をキラキラと輝かせて矢継ぎ早に問いかける。
「あら、興味津々ね。」
「す、すみません」
「年齢については、歴史を遡ればわたし――オーロラ色の髪を持つ絶世の美貌の女は必ず出てくる。それを調べて貰えば信じてくれるかしら。一番判り易いのは280年前のミレニア帝国に付いてた時かしら。国の守護神として祀られて、ローラと呼ばれていた時期ね。この世界に来たのは400年ぐらい前で、あちこちを回りながら探し者をしているの。少なくとも見た目を変えずに長い間存在する人外だと言う事は証明出来ると思うわ。」
「呼ばれていた…?明確な名前が無いという事ですか? 探しものって?」
「文明の発展…技術や娯楽の向上を期待し、基準以下で停滞を続ける世を破壊しているの。まあ、これは趣味に近いわ。
世界の観測については趣味も兼ねた仕事。まあ、詳しくは企業秘密ね。企業や組織では無いけれど。
まあ、貴女が探し者だと言うのなら、教えるのも吝かではないわ。」
「……すみません、問い詰めてしまって。…あの、お友達になってくれませんか?」
「あら。ふふふっ、もちろん良いわよ。貴女、名前は?改めて聞かせてくれるかしら?」
「…あ。クーアティア=フレア、です。貴女の事はなんと呼べば?」
「特に名前は決めてないから、好きに付けて。その時代で最初に会ったヒトにその時代の名前を付けて貰う事にしてるの。今回は貴女にお願いするわ」
「えーと、そうですね……。では、アンリーア…、アンリーア=ローヴァーで。」
「アンリーア、ね。どうしてその名に?」
「瞳が綺麗な琥珀色なので、そこから名前を付けたいな、と。琥珀色は私の故郷の異国の言語でアンバーというんです。でも、アンバーじゃ名前らしくないので、弄いじってアンリーア、です。ダメ、でしょうか…?」
「うふふ、とても、良い名前ね。この時代では私はアンリーア=ローヴァーと名乗る事にするわ。
アンリーアと呼び捨てにしても宜しくってよ?」
美貌の少女――アンリーアはウインクしながら、悪戯っぽく微笑む。
「ふ、ふふっ。ええ、そうさせて貰うわ、アンリーア。わたくしはなんと呼んでくれるの?」
「クー、とかどうかしら。アティやアリアもありね。」
「クー、か。」
ふっ、と、唐突にクーアティアの雰囲気が変わる。
それは、まだ少女と言って良い年齢であるクーアティアにはそぐわない…達観した老女のようで。
「…?」
アンリーアはその雰囲気に表面上は首を傾げ、内心で『ああ、彼女もそうなのかしら』と納得する。
「あ、御免なさい。そんな風に呼ばれた事が、無かったから。是非、それでお願い」
「判ったわ、クー。ふふふ…」
「? どうしたの?アンリーア」
「あ、そうそう。わたくしの探し者の事なのだけれど。
家族よ。でも、唯の人では駄目。とある場所の知識があるヒトでないと。
まだ推測に近いけれど、貴女はなれる資格がありそうね」
「え…?」
「まだ、仮に近いし、引き返す事は出来る。
もっと懐に入り込めば、独占欲でヤンデレに変貌するけれど。その覚悟は、あるかしら。」
ま、ヤンデレはヤンデレでも、無理心中なんて愚かな事はする気無いけどね。独占欲が異常なだけだし。そう、明るく言い放ち、コロコロと笑うアンリーア。
彼女を、呆然と見返す事しか、クーアティアは出来なかった。


***********
あれから数日。
クーアティアはアンリーアの発案で魔物の出る森にレベル上げに来ていた。


「ヤンデレ、企業秘密、か。」
クーアティアは、自身の前を歩く女――アンリーアの使っていた言葉を呟く。


(この世界にはそんな単語無かったはずなんだけど・・・。)


考え込み、周囲に対する注意が疎かになり始めたクーアティア。
「…どうしたの?」
アンリーアは首を後ろにぐるんと回し、心配そうに問いかける。
「…ううん、なんでもない。」
「そう?」
「うん。大丈夫だから、首だけ真後ろに回すのは止めてくれない?ホラー小説みたいでビックリしちゃう」
「判ったわ、次からは気を付ける。」
「うん、そうして?」
クーアティアは微かに頬を引き攣らせて頷く。


ガサッ、ガサガサッ


「クー。森鼠の軍団が来た。敵意バッチリだし、奇襲する気っぽいね。」
「森鼠が奇襲?というか、あんなに音立ってたら警戒して奇襲なんて出来ないんじゃ?」
「統率体持ちだから多少能力上がってるよ、注意したほうが良い。まあ、統率体の知能も低めだから作戦が雑すぎて、あんまり恩恵生かせてないけどね。」
言いながら、指先へ光を灯しそれを空中に走らせ、クーアティアにはよく判らない紋様を描いていく。
「! りょ、了解。森だから火系は控えた方が」
いいよね? と、問いかけようとした、その時。
口元に指を当てるジェスチャーと共に手で口を塞がれ、きょとんとする。
「ん。護り入れるね。【風よ、我等を心身共に護る結界を】。…いきなりゴメンね、もう大丈夫。
ここの木は頑丈だからね、クーの火ぐらいなら、30分ぐらいで再生する軽い傷を付けるぐらいじゃないかな?」
「え、本当?」
「うん。この樹海――もとい、森は、周りの植物の火への耐性は凄いのに、魔物たちは火が弱点なんだよ。不思議だよねー」
話しながら、完成したらしい紋様にふっ、と息を吹きかけ、アンリーアは満足げに微笑む。
「ねえ、今樹海って言った?」
「うん。そのレベルでデッカイ森だからね」
「え、迷わない?」
「色々と変な魔術が掛かってる森だから、私から離れたらあっという間に迷うね。逆に言えば、私と一緒に居れば迷ったりする心配は無いよ」
「よ、良かったー。嘘言ったりはしてないよね?」
「うん、もちろん。(…まあ、嘘は言ってないしね。全部言った訳でも無いけど)」
肯定してくれた安堵で彼女は、小さく呟かれた後半の言葉を聞き逃してしまった。
[アンリーアが保持するチカラを宿した物を持っているか、アンリーアの直ぐ近くに居れば魔術が勝手に避ける。迷ったり生命力吸われたりの心配は無い。風の護りの魔術でも迷子対策には充分。]
[そもそも、樹海に掛かる魔術がアンリーア製。術者や条件付けでチカラを持つ者は魔術の範囲から除外される]




「あ、そうだ。森鼠は?」
「あ、忘れてたね。【紋様に従い、我の忠実な手足となりし大地よ。我が敵たる森鼠を我等の元まで運び届け給え】」
アンリーアの詠唱に応じ、大地が蠢き、瀕死の状態の森鼠を彼女らの元へ運んでくる。
「はい、トドメ刺してやって」
「う、うん。」
(こんな寄生プレイ、良いのかなぁ・・?)
「【燃え盛る炎よ、その身を槍と化し、我が敵を貫け】」
槍の形を取った炎が何百と出現し、森鼠たちを貫いていく。
ピロン、ピロン、とレベルアップの音が連続で鳴り響く。


「うんうん。よく出来ました」
アンリーアはクーアティアの頭を子供にするように撫で、柔らかい微笑みを浮かべた。
「え、え? ちょっ、髪が乱れ…」
「あら、ご免なさい。さて、次は……」
アンリーアはニッコリと笑って乱れた髪をあっという間に整え、辺りを見回し…。
一点を見詰めて固まる。
「っ! なんでここにアレが…!」
「アンリーア?」
驚愕の表情を浮かべて固まったアンリーアを心配し、クーアティアは呼びかけた。
「クー、逃げるわよ。アレはクーを護りながらはキツい。」
クーアティアのお陰で硬直が解けたアンリーアは真剣な表情で囁き、空中に指を走らせ始めた。




「よし、転移するわよ。近くに寄って。【彼方への風を、此処に――】」
「転移!?っていうか、何故に風?空間ではないのですか?」
「今はそれどころじゃないから、後でね。」
「あ、はい。ごめんなさい。」
「後でなら答えるから、そんなに落ち込まないで。【――善き風よ、吹け】」
キラン、と光を発し、2人は消えた。




******
移動した先は、黒かった。
真っ暗闇の中で、自分とアンリーアだけは明瞭に見える。
「ここ、どこですか?」
「私のセーフハウスね。アレでも絶対に見つけられない、全世界で一番安全な場所。」
「せっ!? わ、わたしがここに居てもよろしいので!?」
動揺のあまり口調がおかしくなったクーアティアにアンリーアはクスクスと笑う。
「もちろん。あ、ちょっとご免なさいね。」
アンリーアは指先でクーアティアの額を突いた。
「うう、くらくらしますー」
軽く触られた瞬間、クーアティアに猛烈な眩暈が襲い、思わず目を閉じて蹲る。
「うん、これでよし。大丈夫になったら目を開けてみて」




しばらくして、クーアティアは眩暈が治まってきたため、そうっと瞼を開いてみると…
「これって…」
クーアティア=フレイの生きる世界にはあるはずの無い、クーアティアがもう目にする事は叶わないと諦めていた物が、乱雑に、大量に置かれていた。
「わぁ、懐かしい…」
「やっぱり、日本人なのね。転生者かしら。」
「いま、日本って言った!?」
「ええ。しばらく…500年ぐらいだったかしら。気に入って地球に滞在していた時期があるから、ここにあるのはその時に収集したものなのよ」
「よんひゃく…」
「まあ、あっちの暦で言う西暦2000年から2050年ぐらいまでをぶらついてたんだけどね。」
「? 400年じゃ?」
「あれ、言ってなかったっけ。未来から過去へ、過去から未来へ、時間の行き来も出来るのよ?もちろん、世界間の移動もね」
「っ、本当!?」
クーアティアは目を見開き、アンリーアに詰め寄る。
「え、ええ。」
アンリーアはクーアティアの予想以上の反応に戸惑う。
「わたしが地球に帰る事は?」
「嫌。」
アンリーアが即答した。
「えー!」
クーアティアは不満そうな声をあげる。
「お願い!」
「嫌よ。なんでせっかく出来そうな家族を手放し他人とならないといけないの。」
「なら、一緒に日本に住めば良いんじゃないの?」
「クー…私の眷属の血を宿すフレア家の令嬢ならともかく、唯の日本人は私に近付けない。一緒に居るにはクーのまま転移する必要があるの。それでも行きたいと言うのなら、姉妹になりましょう」
「アンリーアの事は嫌いじゃないし、クーアティアとして日本に住んでアンリーアと一緒に居る。」
「ふふ…。」
即答したクーアティアに、アンリーアは嬉しそうに微笑んだ。
「あ、そうだ」
アンリーアは雰囲気を一変させ、怪訝そうにするクーアティアに問いかける。
「汝は、力が欲しいか?故郷へ帰る力が。」
「ああ!憧れだよね、こういうのって。」
クーアティアは突然の問いかけにしばらく怪訝そうな顔をしていたが、唐突に思い当たり、嬉しそうな表情を浮かべる。
「欲しいか?」
念を押すようにアンリーアが重ねて問いかける。
「はい、とても。」
クーアティアもキリッと表情も引き締め、答える。
「そうか。ならば、転生者よ、契約せよ。我と、姉妹となる契約を。さすれば、我は汝へ力を貸し与えよう。」
「是非、喜んで。」


「「あははっ」」
そこで雰囲気を崩し、アンリーアはクーアティアと共に声を上げて笑う。
「私、アンリーアはクーアティアの姉に」
「わたし、クーアティアはアンリーアの妹に」
「「私達は、姉妹の契約を結びます」」
小指を絡め合い、2人は宣言する。
「「ゆーびきーりせーんまーん、はりせんぼーん、のーます。指切った!」」


「ふふ、これで姉妹ね。」
「そうだね」
「あ、そろそろ行きましょうか」
「あ、ちょっと待って。わたしは貴女をなんて呼べば良いの?」
「リア姉様でお願いするわ。貴女はクーでいいかしらね?」
「うん。リア姉様。…な、なんか恥ずかしい。リア姉さんじゃダメ?」
「良いわよ。…さ、日本に行きましょう。」
「はい、リア姉さん」
「ふふ、妹に愛称を呼ばれるって、良いものね」
笑い合う2人は光に包まれ、転移していった。


END



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