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マーブルピッチ

大葺道生

第21話【三者凡退】

水戸がレフト方向に打った打球はやや詰まりながらもレフト定位置ぐらいのところまで飛んでいく。しかしそれにセンターを守っていた織田が猛然と追いすがると滑り込むようにして打球の真下にダイブし、それをがっちりと掴んだ。


水戸は塁上で織田がグラブを掲げるのを見送ると苦々しい顔を作って引き上げる。あっさりとスリーアウトだった。





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梶尾は思わずため息をついた。水戸の打球が惜しくもセンターフライ?となったことについてではない。同じ1年生の外野手である織田が見せたプレイに思わず感心する意味でため息がこぼれたのだ。


すさまじい俊足なのは横浜学舎の外野手である以上予想していたが、それでもその部分では梶尾も負けているとは思えない。


しかし打球が飛んでからの判断の速さ、ダイブの正確性、身体から離れた打球を腕を精一杯伸ばしグラブの先でしっかりキャッチするグラブさばき。


いずれもつい先々月まで中学生だった選手のプレイとは思えなかった。


――これが県下トップクラスの一年生ってわけか。見せつけてくれるぜ。





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水戸は投球練習の最後のボールを受け、宮道に返球すると目の前の打者を一瞥する。


横浜学舎の最初の打者はサード、ショート付近を守っていた深沼が務めるようだ。


――高坂や山本がこいつのことは知らないって言ってたから多分県外のやつだろうな。身長は170ぐらいでホームランバッターって感じの体格じゃない。さっきうちの先輩たちをナンパしてきたことや守備時にやたら動き回ることからおそらくイケイケ系。初球から打ちに来る。


それを踏まえて水戸は1球目、胸元に速いクイックのストレートを要求する。


宮道がわずか1秒にも満たない電光石火の投球動作で投げ込んだストレートは逆玉も逆玉。


外角低めに突き刺さる。


――ちっ、やっぱり。今日もストレートのコントロールは最悪だ。


深沼はやはり初球から打ちに行こうとしたのかぴくりと反応する様を見せたが、実際にはスイングはせず面食らったような表情。





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深沼は一旦バッターボックスを外すと、今の残像を打ち消すように一度スイングをした。


――なんだ今のは。投球練習の時と全然フォーム違うじゃねえか。


宮道は2球目を投じる。


――なっ、今度は投球練習の時よりおせえ。


内角に切れ込んでくるスライダーをゆったりとしたフォームに泳いだ深沼のバットは捉えることができなかった。これで2ストライク。


――なるほどね。まあ手口はわかったよ。要するにフォームの小細工で打ち取る打者だ。手のうちさえわかれば120キロそこそこの投手。打てないはずないぜ。


3球目。先ほどよりも少し腕を下げたフォームで宮道は投じた。


――サイドスロー。なんのつもりだよ。左打者の俺に右のサイドじゃあフォームの有利性だってない。って考えてる暇ねえだろ


真ん中低めの絶好球。フルスイングされた深沼のバットは、豪快に空を切った。手元でボールが逃げるように落ちていったのだ。


――シンカーか。こんなボールもかくしてやがったのか。


その後宮道は2番の織田、3番の宇田川も打ち取り、ミニゲームは初回両者三者凡退で幕を開けることになった。





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2回表。先頭打者の山本がカーブをすくい上げるとそれは左中間を深々と破っていく。織田のフォローは比較的早かったが、それでも山本は余裕のスタンディングスリーベース。


5番打者、つまりラストバッターはピッチャーの宮道。宮道は打撃がからっきしというわけではないが、同学年の推薦組と比べれば一段落ちる。そのぐらいの打撃力だった。





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宮道はゲーム前に決めた即席のサインを送った。山本が強張ったような表情を見せる。


――おいおい。もう少しポーカーフェイスの練習しとけよ。


送ったサインはスクイズのサインだった。もっともアウトの取りにくい、あるいは取られにくい5人野球で得点できるとはいえわざわざ1つアウトを献上するのはデメリットが大きい。


狙うはセーフティスクイズである。予定通りの3球目。低めのストレートをサード方向に転がす。


少し威力を殺し過ぎたかもしれないという打球を宇田川がおそろしく俊敏な動きで拾い上げると滑り込んでくる山本の背中に勢いよくグラブを押し当て、自らセルフジャッジでアウトを宣告する。


文句の付けようもないタイミングであった。


――リードも単調だし打撃重視のキャッチャーなのかと思ったけど、そんなわけないってことか。


その後高坂がサードフライを打ち上げ、この回も三者凡退で攻撃は終わる。


そして2回裏の横浜学舎の攻撃は4番辻本の二塁打で幕を開けた。

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