マーブルピッチ
第2話【反撃開始】
6回表 上級生チーム対下級生チーム 8対0
++
守備位置につきながらも井ノ口は先ほどの打席のことが頭に離れなかった。彼は今日キャプテンの石田の代わりに試合に出ている控え捕手だ。今日の打順も一番後の9番打者。決して打力に自信があるわけではないが、ストレート3球、それも確実にセンター返しで捉えと思った球がサード正面のゴロになるとは。
――思ったより球が来なかったのか。ダメだ。今は守備に集中しよう。次は油断できない打者だからな――
打席に立つのは先ほど上級生チームを三者凡退に抑えた宮道だ。1球目、赤沢の速球が真ん中低め当たりに放たれる。宮道はボールが放たれた後にバットを下しバントの構えをする。
バットに当たったボールはこつんと音を立て、三塁線近く、ピッチャーとキャッチャーの間を転がる。ややピッチャー寄りか。
「初球セーフティか」
「俺が捕る!」
赤沢が打球を処理し、ファーストに向かって送球する。
「セーフ!」
わずかに宮道が一塁を駆け抜けるのが速くセーフとなる。
「よっしゃー!! 初安打!!」
5回表あたりまではお通夜状態だった1年生ベンチが湧きたっている。
――あいつ、陣がフィールディング苦手なのがわかってたのか。そういえば3回に一度ピッチャーゴロがあったな。陣の球威のある球はバントするのも難しいだろうから今まであんまりリードの上で考えてこなかったけど、宮道はバント上手いな。割とバントしやすい低めにボールがいっちゃったのもアンラッキーだったか。……切り替えろ。連打はそう簡単にはされないはずだ――
++
2番打者の梶尾がバッターボックスに向かう。
――さて宮道が出てくれたし、なんとしても続かねーとな。つってもここまで俺は2三振。さっき宮道が監督からMax144キロって聞いたとか言ってたけど、本当か? 中学時代一度だけ140キロ台を投げるトップクラスの投手と当たったことがあるけど、ここまで速かったか? どの道今の俺じゃクリーンヒットは無理だろうけど、どうもこの先輩の球は球速以上に感じるぜ――
1球目、とてつもないストレートがど真ん中に来る。梶尾はセーフティバントを試みるものの打球は真後に飛んでしまう。キャッチャーの井ノ口がファールゾーンの打球を追ってスライディングするが、済んでのところで打球は落ちる。
――ふぅ。なんとか初球バント失敗は免れたか。ダメだ。セーフティバントなんか成功するとは思えない。しかも今のバントを見てサードとファーストが前に出てきやがった――
2球目、高めに外れたストレート。梶尾は打ちに行くが、豪快に空振りする。本気で打ちにいった結果であるが、2球目にヒッティングを選択したのは必ずしもバントではないと思わせて内野手を後退させることが梶尾の目的であった。
――今の多分ボール球だったな。っていうか全然下がらねえ。どうせ最後はバントだろうと思われてんのか。スリーバントだぞ? それともヒッティングされたところで怖くねえってことか。どの道舐められてるわけだ――
3球目、インハイ、一番バントのしにくいコースに直球が来る。直後梶尾のバントは前進守備のサードとピッチャーの間を抜けていく。サードほどではないが平時より前目の守備位置についていたショートが処理しにいく。
――くそ、サードとピッチャーの間を抜くために速めの打球を転がしたつもりだったが、強すぎて今度はショートに近くなっちまった――
ショート中森は守備の名手。梶尾もなかなかの快速を飛ばす。宮道もよいスタートを切っており、すでに二塁に到達しようというところだった。
「ボール一つ。二塁は間に合わない」
中森が流れるような動きから一塁に鋭い送球を見せる。きわどいタイミングではあったが、結果はアウトであった。
「あー、畜生。あとちょっとだったのに」
ベンチへ帰る梶尾にすれ違う3番打者山本が声をかける。
「ナイスバント。あとは俺らに任せろ」
++
梶尾のバントで二塁まで進んだ宮道は慎重にリードを取る。
――牽制死なんてもってのほかだが。かといって場合によってはワンヒットでホームに帰れるこの場面臆病になりすぎてもよくない――
下級生チームの3番打者は山本銀二。宮道の見た限り、1年生チームで一番の好打者は山本だろう。推薦組4人はピッチャーの徳山も含めていずれもいい打者だが、山本はそのなかでも頭一つか二つ抜けている。スイングスピードも速く、選球眼もいい、総合力の高い打者だ。実際1打席目は四球を獲得している。しかし赤沢のコントロールがまとまってきた2打席目にはなすすべもなく三振していた。しかし宮道は賞賛のあるように思えていた。
――赤沢さんは確かにコントロールがよくなってきたけど、最初の頃みたいに散ってる印象はない。ボール球が減ると同時に、甘いところに球がいくようになってる。まあストライクにさえ投げとけば十分脅威なんだろうけど、山本なら――
2ストライク2ボールまで追い込まれた5球目、低めに決まった縦スラをすくうようにしてライト方向に打球が飛ぶ。しかしライトほぼ定位置。宮道はセオリー通り3塁へのタッチアップを狙うために一旦2塁に帰塁する。
ライト寒河江の返球をセカンド高田が中継し、高田は三塁へと送球するために身体を反転させる。しかし間に合わないと判断したキャッチャー井ノ口が送球を静止させる。その瞬間、一連の流れが終わったと判断した高田はサードランナーから目を切ってピッチャーのほうに目を向ける。次の投球のためにピッチャーに返球しようとしてのことだった。その隙を宮道は見逃さなかった。
「高田、4つ、バックホーム!」
井ノ口が叫ぶ。宮道はすでに三塁ベースを離れ、本塁へと全力疾走を始めていた
「おいおい、それは暴走だろうが、一年」
突然の奇襲に対して高田は比較的よい反応を見せ、慌ててキャッチャーへ送球する。しかしその送球は井ノ口が立った状態で腕を伸ばしても届かないほど上へ逸れた悪送球。井ノ口は何とかジャンプをしてその送球を捕球する。
それを確認した宮道が低いスライディングをする。
「セーフ!」
常木がそう宣告した。
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守備位置につきながらも井ノ口は先ほどの打席のことが頭に離れなかった。彼は今日キャプテンの石田の代わりに試合に出ている控え捕手だ。今日の打順も一番後の9番打者。決して打力に自信があるわけではないが、ストレート3球、それも確実にセンター返しで捉えと思った球がサード正面のゴロになるとは。
――思ったより球が来なかったのか。ダメだ。今は守備に集中しよう。次は油断できない打者だからな――
打席に立つのは先ほど上級生チームを三者凡退に抑えた宮道だ。1球目、赤沢の速球が真ん中低め当たりに放たれる。宮道はボールが放たれた後にバットを下しバントの構えをする。
バットに当たったボールはこつんと音を立て、三塁線近く、ピッチャーとキャッチャーの間を転がる。ややピッチャー寄りか。
「初球セーフティか」
「俺が捕る!」
赤沢が打球を処理し、ファーストに向かって送球する。
「セーフ!」
わずかに宮道が一塁を駆け抜けるのが速くセーフとなる。
「よっしゃー!! 初安打!!」
5回表あたりまではお通夜状態だった1年生ベンチが湧きたっている。
――あいつ、陣がフィールディング苦手なのがわかってたのか。そういえば3回に一度ピッチャーゴロがあったな。陣の球威のある球はバントするのも難しいだろうから今まであんまりリードの上で考えてこなかったけど、宮道はバント上手いな。割とバントしやすい低めにボールがいっちゃったのもアンラッキーだったか。……切り替えろ。連打はそう簡単にはされないはずだ――
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2番打者の梶尾がバッターボックスに向かう。
――さて宮道が出てくれたし、なんとしても続かねーとな。つってもここまで俺は2三振。さっき宮道が監督からMax144キロって聞いたとか言ってたけど、本当か? 中学時代一度だけ140キロ台を投げるトップクラスの投手と当たったことがあるけど、ここまで速かったか? どの道今の俺じゃクリーンヒットは無理だろうけど、どうもこの先輩の球は球速以上に感じるぜ――
1球目、とてつもないストレートがど真ん中に来る。梶尾はセーフティバントを試みるものの打球は真後に飛んでしまう。キャッチャーの井ノ口がファールゾーンの打球を追ってスライディングするが、済んでのところで打球は落ちる。
――ふぅ。なんとか初球バント失敗は免れたか。ダメだ。セーフティバントなんか成功するとは思えない。しかも今のバントを見てサードとファーストが前に出てきやがった――
2球目、高めに外れたストレート。梶尾は打ちに行くが、豪快に空振りする。本気で打ちにいった結果であるが、2球目にヒッティングを選択したのは必ずしもバントではないと思わせて内野手を後退させることが梶尾の目的であった。
――今の多分ボール球だったな。っていうか全然下がらねえ。どうせ最後はバントだろうと思われてんのか。スリーバントだぞ? それともヒッティングされたところで怖くねえってことか。どの道舐められてるわけだ――
3球目、インハイ、一番バントのしにくいコースに直球が来る。直後梶尾のバントは前進守備のサードとピッチャーの間を抜けていく。サードほどではないが平時より前目の守備位置についていたショートが処理しにいく。
――くそ、サードとピッチャーの間を抜くために速めの打球を転がしたつもりだったが、強すぎて今度はショートに近くなっちまった――
ショート中森は守備の名手。梶尾もなかなかの快速を飛ばす。宮道もよいスタートを切っており、すでに二塁に到達しようというところだった。
「ボール一つ。二塁は間に合わない」
中森が流れるような動きから一塁に鋭い送球を見せる。きわどいタイミングではあったが、結果はアウトであった。
「あー、畜生。あとちょっとだったのに」
ベンチへ帰る梶尾にすれ違う3番打者山本が声をかける。
「ナイスバント。あとは俺らに任せろ」
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梶尾のバントで二塁まで進んだ宮道は慎重にリードを取る。
――牽制死なんてもってのほかだが。かといって場合によってはワンヒットでホームに帰れるこの場面臆病になりすぎてもよくない――
下級生チームの3番打者は山本銀二。宮道の見た限り、1年生チームで一番の好打者は山本だろう。推薦組4人はピッチャーの徳山も含めていずれもいい打者だが、山本はそのなかでも頭一つか二つ抜けている。スイングスピードも速く、選球眼もいい、総合力の高い打者だ。実際1打席目は四球を獲得している。しかし赤沢のコントロールがまとまってきた2打席目にはなすすべもなく三振していた。しかし宮道は賞賛のあるように思えていた。
――赤沢さんは確かにコントロールがよくなってきたけど、最初の頃みたいに散ってる印象はない。ボール球が減ると同時に、甘いところに球がいくようになってる。まあストライクにさえ投げとけば十分脅威なんだろうけど、山本なら――
2ストライク2ボールまで追い込まれた5球目、低めに決まった縦スラをすくうようにしてライト方向に打球が飛ぶ。しかしライトほぼ定位置。宮道はセオリー通り3塁へのタッチアップを狙うために一旦2塁に帰塁する。
ライト寒河江の返球をセカンド高田が中継し、高田は三塁へと送球するために身体を反転させる。しかし間に合わないと判断したキャッチャー井ノ口が送球を静止させる。その瞬間、一連の流れが終わったと判断した高田はサードランナーから目を切ってピッチャーのほうに目を向ける。次の投球のためにピッチャーに返球しようとしてのことだった。その隙を宮道は見逃さなかった。
「高田、4つ、バックホーム!」
井ノ口が叫ぶ。宮道はすでに三塁ベースを離れ、本塁へと全力疾走を始めていた
「おいおい、それは暴走だろうが、一年」
突然の奇襲に対して高田は比較的よい反応を見せ、慌ててキャッチャーへ送球する。しかしその送球は井ノ口が立った状態で腕を伸ばしても届かないほど上へ逸れた悪送球。井ノ口は何とかジャンプをしてその送球を捕球する。
それを確認した宮道が低いスライディングをする。
「セーフ!」
常木がそう宣告した。
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