死神さんは隣にいる。

歯車

74.海外勢の恐ろしさ

 海外勢。


 ただし、このゲームの場合は、海外でプレイしている人間ではなく、海外のβテスター・・・・・がこっちにやってくることを指す。それはなぜかと言われれば、初心者海外組は、そこまで脅威足り得ないからだ。


 ぶっちゃけた話、僕たちのしているこのゲームにおいて、まず念頭に置くべきは自身の安全である。だって周りのPK共がクソ野郎しかいないから。


 そして、それを基準にすれば、どれだけキャラ育成が進んでいるのか、どれだけ攻略したのか、という情報は絶対に逃してはいけない情報だ。


 しかし、海外勢は非常にわかりにくい。海という壁があるからだ。その海の向こうへは、僕らは船でしか言ったことがない。


 翻訳は、ハイテク翻訳技術があの有名なこんにゃくを使わずとも問題はない。船を使うこと自体、多少金がかかるとしても終盤ともなれば、そう難しい金額ではない。船酔いなど理由にならないし、船を襲撃するイベントが毎回起こるわけでもない。船旅は平和だ。


 しかし、その先へは、僕らは行こうとしない。


 当然だ。
 だって、海外の人たちって怖いんだもん。


「姉さん、マジで会わないとだめ?」
「だって、流石にあんなのの相手をさせられちゃあね?」
「そ、そう? 本当にダメ?」
「むしろ何をそんなに怯えているのよ。何が言いたいわけ?」
「だ、だって、あの海外勢だよ!?」
「どの海外勢よ!」


 あのだよ、あの!!


「あ、あの、お姉さん。一応、話を聞いてもらえませんか?」
「何よ話って」
「いい、僕から話す……」
「そ、そうですか……」
「?」


……ふぅ。よし。


「……ことの顛末は、鎖国開放っていう事件が関わっていてね」


 鎖国開放とは、簡単に言えば船のシステムが初めて解放された時のことだ。また、その時に起こったある事件・・・・のことを指す。鎖国していたわけではない。


 ある日、僕が港町を開放しついに念願の船を手に入れた時、その船に乗った先には確かに外国、つまるところ日本以外の国・・・・・・のサーバーとつながっていることを知った。どうやらこのゲームはそれぞれの国で大陸の形が違うらしい。そのマップは日本とは完全に違っていた。


 そして、そこまで行った時、僕らは海外の恐ろしさを知ったのだ。


「ほ、本当に大丈夫ですか? 私がやはり……」
「いい、大丈夫だから……」


 僕は顔を青くさせつつも、言葉をつづけた。


「海外の港町についたとき、待っていたのは恐ろしい歓迎だったんだ……」


……………………………………………………


 さかのぼること、ベータテスト時代。


 僕はクランメンバーを率い、豪華客船を贅沢に使いながら海外の港町に到着した。


 そして、それを発見した海外の連中は過剰なまでの反応を見せた。


 それは、……正しく「歓迎」だった。


「いいか、突入するぞ……」


 クランメンバーに合図を送り、自身もその場から動き出す。基本作戦はシオンが立てるのだが、合図や実行は僕をもとに練られている。指揮官としての威厳を持てと言われた。


 おっと脱線。


 とにもかくにも、シオンの作戦通りいくと、この先は恐らく港町の広場、要するにリスポーン地点に辿り着く。しかし、万が一にもバレれば、非常に厄介なことになる。


 すでに我らが日本には船を渡りやってきた人間が少なからずいる。それ故に船を使って他国へ入った、というよりほかの大陸へと移った人間がどうなるのかを、僕らは知っていた。


 多国籍の人間は、他の大陸の街では、拠点が意味をなさない・・・・・・・・・・


 ダメージ無効も、状態異常無効も、効果が無くなる・・・・・・・


 そしてそれは、タコ殴りに合うということだ。


 それを、既にやった事がある・・・・・・・・・僕らはよく知っている。


 だからこそ、リスポーン地点への道のりは遠い。


 リスポーン地点は、基本その街の中心にある。その真ん中にオブジェなり噴水なりあり、アイルヘルは噴水だった。他にもトロルヘルなら街の中心に領主らしき人間のオブジェが立っている。あそこを占拠すると像の人間変わるんだよなぁ……。


 それもさておき。


 リスポーン地点に登録すると、国籍が変わるのか、その街の無効効果を受けられる状態になる。それは安全を確保したのと同様である。つまり、その大陸にいられるのだ。


 しかし、当然のことながら、それは要するに他大陸からの侵略行為である。他大陸の人間が次々と占領していては、その国の立つ瀬がない。国民として、その国を少なからず誇りに思っているので、その国の連中は恐ろしいほどに抵抗する。


 しかし、見つかれば多国籍民の僕らは死ぬ。故にこそ、最大限の警戒が必要なはず……だった・・・


 少なくとも、僕らはそうだったんだ・・・・・・・……。


 しかし、外国人は毛色が違った……。


 話を冒頭に戻そう。僕らは『歓迎・・』されたんだ……。


「よく来てくださいました! ささ、どうぞどうぞ、自慢のシェフに焼かせたものですぞ!」
「いやぁ、ついにあの国から! あのSAMURAIやNINJAの国から! 我らの国にお越しくださるとは!」
「ささ、いっぱいいっぱい。どうです? にぎやかでしょう! 皆でこの都市を、協力して発展させたんです!」
「最初は大変でしたよ……。最早農村以下でしたからね。でも、皆のおかげでここまでやってこれたんです」
「異国民とはもっと交流を図りたいですね。楽しくいきましょう。何せ、今日はあの日本から初の渡来なのですから!」


 ……そう、そこに在ったのは、巨大なパーティ会場と化した、街の中心広場。真ん中には大きな銅像が立っており、まるで農村とは思えないほど発展した、都市がそこにはあった。


 最初、僕らは目を丸くした。彼らは本気で言ってるのか、と。


 だって、渡来人というのは、乗っ取りの危険性があるんだよ? 商人とかならともかく、こんなにも明らかに武装した集団を招き入れるなんて、頭がどうかしてる。


「いかがしますか、陛下」


 なんて盤骸は聞いてきたけれど、流石にこれは予想外の事態だ。すぐさまシオンと連絡を取ったけれど、帰ってきた言葉は、


「日本人の皆様は、どうしてそんな過激な思考をするのです?」


 そういえば、シオンは「そこまで過剰な反応はしないだろう」とか言ってた。でも、普通ビビるじゃん。行き成り何人かの武装集団が港からやってきたら。ありえないって思うじゃん。


「と、とりあえず、警戒を解かないように。あの食べ物も、毒が入っているかもだし、回り込んで首を掻っ切られるかもしれない」


 しっかり警戒を解かずに、リスポーン地点に急ぐ。


 しかし、僕らは驚くほど、あっさり受け入れられた。


 ただ銅像の前に行くにも、普通に人混みが勝手に開き、周りを見ればにこやかにこちらを見守る人々。


 恐ろしくて、何か企んでいるんじゃ……そう思わざるを得ないほどに怖い。何を考えているのかわからない。このパーティの規模も、大分大きい。僕らのような異邦人に使うべき量の物資じゃない。


 しかし、僕の眼で見る限り、悪意はどこにも見当たらない。


 本心からの笑顔で、心底にこやかに喋っていて、そんな顔を他国の人間に向けるなんて、恐ろしくて仕方ない。


 ウィンドウを開き、リスポーン地点の登録をしている最中も気が気でなく、いつ背後からナイフが来るか、銃弾か、それとも魔法なのかと、本気で怖かった。


 しかし、本当に怖かったのは、何もなかったことだ・・・・・・・・・


 なにもしてこない。


 恐れを感じるほどに、何も。


 人は、こんなにも演技に優れた生物だったか……ありえない、そう思わざるを得なかった。だって、人間はそんな綺麗なはずがない。だれか、絶対に反抗する人間がいるはずだ。


 だからこそ、わざと隙を作った。何度も何度も。しかし、ただの一度すら、それに引っかかった奴はいなかった。最後には一度や二度の被弾も承知で作ったというのに、全く反応しなかった。


 まさか……気づいていた……?


 そうとしか考えられない。だって、人間は自国を守る愛国心が誰しもにあるから。余程腐った国じゃない限りは、そうなる。そして、ゲームが出来ている時点で、裕福な人間なのは間違いないし、そういうやつらは猶の事、自国を守ろうとするものだ。


 にも拘らず、彼らは、歓迎した。僕らをもてなして、もてなしてもてなして、もてなし続けた。日本人が持たなかったもてなしの心は、外国人が利用した。あまりにもうさん臭くて、途中から逃げるように、僕らは宿を取った。


 ひょっとして、狩りに行ったら殺されるんじゃあ……。


 その疑念が、どうしても晴れなかった。


 翌日からの狩りも、ゲーム進行も、気が気でなく、どうにもコンディションが悪いせいか上手くいかなかった。いつやられる? 背後、それとも正面? 誰も隠れていないように見えるが、それは現地民にしかわからないのか? わからなかった。


 結局、探索は早くも断念。あまりにも巧妙な手口で、恐ろしい彼らに負け、僕たちはその大陸を去った。


 そして、途中の帰りの船で気づいたのだ。


 彼らは、なにもしてこなかった。


 それは、する必要がなかった・・・・・・・・・ということだ。


 僕らが不安でゲームの探索が上手くいかなくなるのも罠、疑心暗鬼になって立ち行かなくなるのも罠、恐怖の底に陥れ、僕らを帰らせるための、恐ろしい罠だったということに……。


 僕は港から出る途中、バッと振り返った。


 そこには、口の端が吊り上がった領主らしきプレイヤーの姿があった……。


……………………………………………………


「……あまりにもきれいに嵌められた。あいつらの恐ろしさは半端じゃない。日本人みたく思考が暴力に特化していないから、何をしてくるかわからないんだ……」


 僕が恐怖のままに当時の状況を話すと、それに追随して盤骸も体を震わせる。当然だ。彼もあそこにいたのだから。当時を思い出して身震いしてもおかしくはない。


 それを聞いた姉さんは、口元を引き攣らせた。


「え、じゃあ、海外の方が和やかじゃない……」


 どうしてそうなるんだ!!



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