死神さんは隣にいる。

歯車

73.極限の三帝

「えっと、じゃあ、本題に入るけど……」


 誰かさんのせいで凄く無駄な時間を過ごしてしまった気がするが……おい何故ジト目をこちらに向ける盤骸。お前だお前。お前のせいだ。


 お、またやんのか? あ?


「いい加減話を進めてくれないかしら?」
「い、いえ~す、まむ……」


 すいません、おふざけが過ぎました。だからその眼でこっちを見ないで……。


「それで、盤骸」
「はい。なんでしょうか」
「ちょいとお前の伝手で探してほしい奴がいるんだが、手伝ってくれないか?」
「それは構いませんが、どんな奴ですか?」
「ああ、うん……なんて説明したらいいんだろ……」


 あまりにも唐突に死んだから容姿の特徴はあまり覚えてないんだよな……。顔も覚えてないし、髪の色は……黒、だったか? いや、茶色だっけ? 紺? ……これはちょっと情報にはなりにくいか。いや、暗い色だった気がする。


 やっぱりスキルの異常性で判断したほうがいいよな。


「自分を生贄に格上の悪魔を召喚する魔法を、それも躊躇いなくNPCに投げ出せるような、自己犠牲の塊みたいなやつなんだけど」


 うん、改めて言葉にすると酷いな。


「そ、そんな爆弾みたいなキャラがいるんですか……」
「聞き覚え無し?」
「ちょっとそんな特殊例が極まったようなキャラは聞いたことがないですね……。聞いたことがあればまず忘れないと思いますし……」
「そっか」


 ふむ、あんなにも異常なキャラだったとはいえ、まだリリースしてから日が浅いし、新人だったらわかるはずもないか。やっぱり別の方法を探すしかないか……。


 となると、やっぱりシオンあたりだろうか……。でもなぁ、シオンはなぁ……。辛いなぁ……。あの後ちょっと気まずくなりながら別れたしなぁ……。


 ここはやっぱり男らしくいくべきなのかなぁ? でも、それであんまり気にされてないとか思われると、心にくるし……。いや、でもここで真面目に返答したりすればまたからかわれるんじゃ……それじゃあ男らしさもあったもんじゃないしなぁ……。


 うんうん唸り悩む僕を、気づけば姉さんがジト目で見つめていた。え、な、なに?


「……ヘタレ―」
「……ッ!?」


 な、なぜわかった――――ッッッ!!?


 動揺し、目を見開く僕を置いて、姉さんはこっそり盤骸を連れ出し、こちらに背を向けてこそこそ内緒話を始めた。何となく感じる疎外感。


でも辺りで誰かが戦っているのか、少し騒がしくなってきた森では、彼ら彼女らの声は聞こえそうにない。畜生。


「あの、シキメっていつもああなんですか……?」
「ん? ああ、そうですね、シオンさんのこととなると、基本的にはああいう感じですよ。ホント分かりやすいですよね」
「あ、やっぱり? へぇ~、うちの弟にもついにか……。成長するんだなぁ……」
「お姉さんもきっといい相手が見つかりますよ」
「ふふ、慰めてくれるの? 別にいいわよ。私はしばらく仕事一筋で、シキメたちが独り立ちするまで養うって決めてるんだから。内緒ね?」
「お優しいのですね。陛下もきっと幸せでしょう」
「そういってくれると嬉しいわね。あ、じゃあ……」


 ……なんか、すごく仲よさそう。えぇ~。なにそれ、ちょ、えぇ、待ってよ~……。なんでそんな古い友達みたいに親しくなってるの~……。


 すごく幸せそうなんですけど。ちょっと、蚊帳の外とかひどくない? なんか、微笑ましそうな笑みでこっちを見たり、見つめ合ったりしてるし~……。


 寂しいというよりはなぜか気恥ずかしくて、とりあえずこの雰囲気はよくないと思った。なので、話を進めることにしようと思う。そうしましょう。


「ね、ねえ。盤骸。本当に心当たりはない? こう、暗い色の髪で、初心者装備という感じだった人なんだけど」
「おっと、陛下に止められては致し方ありませんね……それで、暗い色の髪の毛で、初心者、自爆テロのスキルビルド、と。そんなキャラ、いましたかね……」


 そう言って、メニュー画面を操作する盤骸。恐らくフレンドあたりにメッセージでも送っているんだろう。まあ、「三帝」の交流は結構広い。海外にお友達のいる奴も中にはいる。


「そういえば、聞きたかったんだけど」
「なに?」
「「極限の三帝」とかって、よくスレとかで目にするけど、何それ?」
「え? あ、うんそっか……」


 そういえば、姉さんにはその辺の説明をしていなかったな……。


 ヤヒメは、割と何度か家に招いたこともあってか、「三帝」達やクランメンバーと割と仲がいい。何よりコスプレ衣装はメンバー全員の琴線に触れたらしい。時折、我が家の庭などで撮影会が行われている。


 しかし、姉さんはその間海外に行っていたわけで、僕たちと話すようなことはなかった。近況報告はほとんど僕が書いていたけれど、ゲーム内のことまで言うつもりもなかったからなぁ……。


「ん、じゃあ、説明するね。まず、「極限の三帝」とは、もともととある三つのクランの頭を張っていた三人のことだったんだ。その三人を、僕が降して、強引に傘下に加えたって形かな」
「え?」


 極限の三帝。もともとこの異名は、最大級の魔法職、近接職、そして特殊職の三つのクランそれぞれで頭を張っていた三人のことだ。


 魔法職には「理外の力を振るいし帝」アクラム。
 近接職には「双剣を手に狂い咲く帝」りゅー。
 特殊職には「豪快に轍を踏み抜く帝」盤骸。


 この三人は、それぞれのクランで、トップを常に張り続けた、正しくプレイヤーの夢見る最終形。最強、無頼の強さを誇る、「極限の帝王」達であったわけである。


 それぞれがそれぞれのクランを率い、時に静かに、時に激しく攻防を繰り広げていた。それはそれはひどく厳しい、戦争状態だった。狩場で出会えば即座にPvP、終いには生産職がデモを起こし、二度とお前らにはポーションを渡さんとキレたほどである。


 しかし、そこまで行っても戦争は終わらず、ひたすら戦いに暮れるばかり。とうとうそのせいでゲームが若干過疎りかけていたくらいになり、運営も少し焦っていた。改めて考えるととんでもない世紀末のゲームだな。


 それでも終わらなかったのは、そのゲーム性故である。圧倒的な処理速度に完璧なシステムバランス、凄絶なまでの独創性。人々を魅了したゲームは、たかが事件如きで収まる熱ではない。サーバーも大量の人数がいるというのに落ちることがなく、ラグすら起きなかったのは伝説級である。


 さらに言えば、悪いのは人であってシステムじゃない。そのため、誰もゲーム自体を批判しなかったというのも原因の一つだ。


 しかし、三大クランが激闘を繰り広げる中、流石に不味いと考えていたのか、途中で極限の三帝が、それぞれ停戦命令を出した。状況を鑑み、漸くリーダーが重い腰を上げた結果だった。


 しかし、その停戦はあまりにも急過ぎた。その結果、強引に止められた戦争の怒りの矛先が三帝たちへと向かい、非常に困った事態となった。


 当然、三帝たちは何度も交渉した。説明し、説得を試みた。


 しかし、急に戦闘を止められた不満は、抑えきれなかった。早々抑えきれるものではなかったのだ。


 三帝たちは困り果て、ついにはトップを下ろされる直前まで行きかけた。だから、仕方なく、決着をつけることとなった。


 この先勝利したほうは、負けたほうに優越感を感じるようになるのだろうと、知っていながら。


 あの運命の街、第八の街、グラディエル。その街にはゲームシステムで街中の決闘が許される闘技場ステージなる物がある。勝利回数やランキングなどが掲載され、時には賭け事なんかも行われていたりもした。そのランキングによって報酬ももらえたりするので、割と活用していて……話が逸れた。戻そう。


 その闘技場ステージにて、あの三人は向かい合い、決闘を開始した。


 まあ、その後に強引に割り込んで・・・・・・・・試合ごと・・・・なかったことにした・・・・・・・・・のがこの僕というわけだ。


 シオンからは無視しろと言われていたけれど、流石にポーションがなさ過ぎて困り果てていて、さらには武器までも規制がかかるレベルだったのが我慢ならなくなってしまったのである。


 その後、決闘を制した僕の傘下に三帝が入り、結果組織としての三大クランは消滅。管理し指令を出していた頭が消えたため、回らなくなってしまったのだ。


 まぁ、そんな中、強さ=正義だった近接職のクランだけが残ってしまい、そのせいで事態は第一次ロリコン大戦へと続いていくことになるのだが……いや、この話はよそう。あの事件はあまりにも虚しすぎた……。


ま、まぁ、そんな感じの経緯で、三帝はこちらのクランのメンバーとなり、今や僕やシオンと並ぶ有名人になったわけだ。なった順番は逆だけどね。


「え、え? そ、そんなに殺伐としたゲームなの、これ?」
「え、今更?」
「お姉さん、ゲームに夢を持つのは結構ですが、このゲームには夢などありませんよ。そのせいで僕らがどれほど苦労したことか……」
「え、えぇ……」


 本当に、本当にこのゲームは酷い。しかし、ゲームの内容自体は良すぎるために、何も言えない。


 故に、レビューが荒れる原因の最もたるものは「理不尽にPKされた」がほとんどである。低評価が付くときは、ほぼすべてそれのせいだ。ゲームは普通に素晴らしい。クオリティなら、もう他の追随を許さないレベルだ。


 まあ、つまり人がゴミすぎるというだけの話である。


「あ、そういえば、どうだった?」
「ええ、そんな新人見たことないと思っておりましたが、そうですね……しかし、これは……」
「どうしたの? 言え・・
「了解です! ……えっと、どうやら、このプレイヤーは、外の者・・・、しかも初心者の、あのPK騒動のPK員らしくてですね……」
「……う、なるほど……」


 そうか、外の者、か……。


 不味いな、それは不味い……。


「え、え、何?」
「姉さん、これは面倒になってきたよ」
「だから何!?」


 このゲームで外の者、と言えば、決まっている。


「……こいつは、海外でβテストを受けてから日本に来て、ログインしている奴。要するに、海外勢・・・だ……」



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