死神さんは隣にいる。

歯車

72.二人目の「帝」

「悪いのは全部あっちで、なのにお咎めなしってのはね?」


 要するに、姉さんはいきなりこんなモンスターの相手をさせられたのに大層ご立腹らしく、必ずやあの男を叱責せねば気が済まぬ、ということらしかった。


 まあ、そんなことだろうとは思っていたけれど。姉さんは割といろいろ根に持つタイプだ。だからなのか、気に障ることをされると即座に報復しようとする。いや、短気なのはよくないよね。ほんとに。え、お前も? 言うな。


 まあ、実際はそこまでひどくはなくて、精々ちょっと説教をしなきゃならんというだけの話だけども。


 あの少年がいったい何者なのかは僕はよくわからなかったが、でも僕もあの少年のスキルは結構気になる。もしかしたら化けるかもしれないと思うと、結構、いや大分興味をそそられる。なにより、魔法についてまた何かわかるかもしれない。


 彼は確かに自爆したが、それでも召喚術士であることは確かだ。そして、当然ながら、召喚術も立派な魔法である。いつかシオンの死霊術も見てみたいものだが、まずまず以て、彼の物を見たいという気持ちもある。


 そして、再三ながら、あの少年を引き入れてみたい。少し関わりを持ってみたいのだ。何かプラスになりそうなことになるかもしれない。


「でも、どうやって会いに行くつもり?」
「そこは、ほら、シキメの伝手でどうにかならない?」
「どうにかって……」


 残念ながら、僕のクランメンバーたちの中で、最も伝手がないのは僕である。シオンは多くの人を情報収集に使っているので交流が広く、「三帝」の面々は元々クランマスター・・・・・・・・・だったためにその関係が未だに残っていると聞く。


 他のクランメンバーたちも、生産仲間然り、トモダチシカリ、シュミトモシカリ、何かしらコウユウカンケイを持っている。対して僕はサレッジとかお花畑野郎とかロリコンとか挙句の果てにはワーカホリックとか……いや、サレッジ以外は友達と言いたくないな。うるせーぼっちだと舐めんなこら。


 仲間たちは友達というより仲間なので、友達より少し上だ。シオンは、まぁ、戦友くらい? とりあえずメッチャ上。そんなもの。


 ま、まぁ、僕のことはどうでもいいんだ、どうでも。


 とにかく、今は交流関係がないという事実だけわかれば。


 ……わかりたくも、ないけども。


「僕にそんな伝手はないよ。そんなの、必要なかったからね」
「はいはい、それはわかってるから。じゃあ、他に頼れそうな人とかは?」
「んー、誰かいたかな……」


 魔術ということについての伝手であれば、それら全般について詳しい「理外帝」あたりだろうか。しかし、こと召喚術に限って言えば、「豪轍帝」の方が詳しい。


 ナンバー3、「理外帝」アクラム。魔法の研究について、彼の右に出るものはいな……シオンを除いていない。それほどまでに極まった、天才的な魔法戦闘は他の追随を許さ……シオンを除いて許さなかった。魔法についてなら彼に聞くのが一番だ。


 ナンバー4、「豪轍帝」盤骸。魔法については「理外帝」に及ばないものの、こと召喚術という部類にだけは、彼以上に優れる者は……シオンを除いていないだろう。その召喚獣を用いて戦う独自のいわば一人戦争とでもいうべき戦い方は圧倒的だった。


 ……ここまで言ってシオンに聞かない理由は、察してほしい。この前の出来事が頭から離れず、会うとちょっと、顔が、ね……?


 というわけで、なるべくシオンには聞けない、というより会えない。辛いっす。マジで。


 さて、となれば、この二人のどちらかになるわけだが……。まあ、この二人なら「豪轍帝」かな。「理外帝」はアクが強すぎる。少なくとも姉さんにはもう少しゲームに慣れ親しんでからあってもらいたい。


 その点、「豪轍帝」は、我がクランメンバーで割と上位の常識人だ。彼ならば、きっとうまくやってくれるだろう。彼が知らないというならあきらめよう、そうしよう。


「んー、じゃあ、前のクランメンバー呼ぶから、ちょっと待ってて」
「うん、わかった。でも、無理させちゃだめよ?」
「え? 呼べば来るはずだけど」
「え?」
「え?」


 おかしい、なぜか会話に齟齬が生まれている。我がクランメンバーは僕が一声かければ何故か次の瞬間には集まっているという謎メンバーだ。そして、急な命令のような形をとるのは、彼らたっての志望である。その方が仕えている感じがしていいらしい。


 あ、そうか。姉さんはそんなこと知る由もないか。


「うん、大丈夫。大丈夫だよ」
「ほ、本当に? あんたまさか、他人をこき使ったり……」
「ししっししてないし? そそもそも、彼らの願いだし?」
「ちょ、えぇ……?」
「とと、とにかく大丈夫だから。安心していいから!」


 返事も聞かず、メニューからメッセージを開き、すぐさま「盤骸」と短く書かれた連絡先をタップする。


 続いて、「命令:キーク森林の少し奥地。三分。ダッシュ」とキーボード状のチャットツールを叩き、送る。


 すると、これまたりゅーちゃんの時と同じように二秒ほどで返信が返ってくる。これもまた簡素に「了解」とだけ。早すぎだろう。どれだけ暇なんだ。


 それから数秒後、二匹の筋骨隆々とした戦馬に引かせた巨大な戦車チャリオットに乗って、悠々とその上に佇む青年がやってきた。


 周りの木々を容易く砕きながら迫りくる姿はまさに圧巻。戦車は軽々他のモンスターごと障害物を叩き潰してこちらへと走る。あまりにもその青年のヒョロさ加減が似合っていないが、それでもその戦車の主は彼だった。


 やがて僕らの目の前までたどり着いた戦車は、戦馬が大きく嘶きを上げると霧のように掻き消えて、後には上に乗った青年だけが残った。ふよふよと青年の掌の上を舞っている小さな箱が印象的だった。


 顔も体格も普通だった。まるで特徴的なところがなく、ただいたって普通の一般人。数秒目を離せば見失いそうなパッとしない外見だった。それが却って、先程霧のように掻き消えてしまった戦車が、本当に何もなかったかのように感じさせる。
恐ろしいまでに普通。それが彼の外見だった。


 彼――――「豪轍帝」は、言った。


「親愛なる童女王陛下に置かれましては、ご機嫌麗しゅう存じ上げます。本日こうして御呼びになったこと、光栄至極に存じます。御身の願い、全て叶えましょう。ご用件はぅぉおおっ!?」
「ねえ、なんでなの? そう挨拶入れないと話もできないのお前たちは!?」


 親愛なるじゃねえよ!
 ご機嫌麗しくねえよ!!
 全て叶えましょうじゃねえよ!!!
 最後にご丁寧に、ご用件はじゃねえよ!!!!


 僕はふざけた挨拶をかましてきた豪轍帝に、全力で大鎌を振るった。その首を取ろうとした刃は、しかし強引に反応した豪轍帝――――盤骸のしゃがみ込みによって回避された。


 しかし、僕は極めて冷静に下へ向けて劣化コピー……《ダーク・スローター》を召喚。そのまま盤骸の首を掴ませようとする。


 それを見切った盤骸は、少し後ろに下がりながら魔法陣を展開。劣化コピーの掴みを回避しながらも、自分の召喚術を発動しようとする。


 さらにそれを見切った僕が、発生した魔法陣の、ほんのわずかな瞬間――――魔力の変化が始まる瞬間を見抜き、砕く。そして発動した魔法は、全身鎧フルプレートに身を包んだ大柄な騎士の出現。


 しかし、その騎士が振るう大剣は、悲しくもここには存在しない。あくまであるのは別次元だか別空間だかである。ダメージは発生しない。


 それを知っている僕は堂々とその大剣を身体にすり抜けさせながらも進む。それを見た盤骸がぎょっとした目でこちらを向いた。




「やっぱり卑怯ですよそれ!」
「五月蠅い知るか!」


 大鎌を大きく振りかぶり、刃にはMP、つまるところの魔力を込める。これは恐らく大鎌スキルのおかげでできることなのだろう。思考が自動化され、魔力が、力が身体から抜ける感覚だけが僕に残る。


 そして、僕は特殊攻撃スキルというらしい、『魔撃』を発動した!


「死ねコラァッ!」
「ちょ、うぎょあぁぁぁああああ!!」


 僕の前方を、漆黒の炎が焼き払った!!


……………………………………………………


「遅い!」
「酷い!?」


 問答無用で殺滅した大バカ者がダッシュで戻ってくるのを確認しつつ、僕は叫んだ。そしたら文句を言われた。なんだとぅ。


 さて、おふざけはここまでとして。


「え~っと、そちらが例の?」
「そそ。「豪轍帝」……「豪快に轍を踏み抜く帝」盤骸。僕マジでこの異名考えたやつ小五並みだろとか勝手に思ってるんだけどどう思う?」
「いや、別にそんなことはどうでもいいけど」


 そっすか。


「それじゃあ、自己紹介しろ・・
「わぁこわい……。ゴホン、初めまして、童女……陛下のご兄弟様。私の名前は盤骸、しがない召喚術士です。レベルは多分同じくらいじゃないかと思いますが、どうぞ、よろしくお願いします」
「あら、これはこれはご丁寧に。私はシキメの姉のセイです。えっと、疾走者? です。よろしく?」


 ……ちょっと自己紹介、少ない気がするなぁ(あくどい笑み)。


「ごほん。この盤骸は、こいつ、理外帝、双剣帝の三人からなる「極限の三帝」のうちの一人なんだけど、僕が三人を相手取った時に真っ先に死んだのがこいつで――――」
「ちょ、ちょとまってください! なんでそれ言うんですか!」
「それでその時の死に方がもう傑作で、何しろこいつ召喚術発動した時――――」
「わーっ! わーっ!! なんでこんな酷い事するんですか陛下!」


 うるさいさっきの仕返しだバカヤロー!


 そもそも、真っ先に死ぬお前が悪い。確かにあの時の攻撃は割と初見殺しが混ざっていたとはいえ、そんなのお互い様だし、警戒しないほうが悪いんじゃボケ! 


「ねえねえ、ていうかさ」
「なんですか、陛下」
「陛下呼び止めろ。……じゃなくて、その一番最初の挨拶、他のメンバーもしてくるの?」
「へ? そんなの当り前じゃないですか! だれもシオンさんには逆らえませんて」
「……お前、僕とシオンとどっちが怖いの?」
「シオンさんです。あの人めっちゃ執念深いですし」
「……あっそう」


 そこは確かに同意するけどさぁ。


「でも僕一応君の上司っつか主だよ?」
「でも、怖いものは怖いので。それに、主を敬うことの何がいけないというのですか?」
「……ちっ」


 墓穴を掘ったか。


「ね、ねえ、そろそろ話し、進めてくれない?」


 あ、そうだったね。つい。



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