死神さんは隣にいる。

歯車

71.魔法という理

 要するに、このゲームの魔法とは、そしてこの世界の魔法とは、ぶっちゃけた話、理系の学問分野である。


 数学のように式があって、答えがあり、そしてそれに合った結果がある。その結果が物理法則にのっとっていないだけで、実際は現実の物理学と考え方は変わらない。成立する公式があって、それに対する結果があり、それを起こすと発動する。ただそれだけの話だ。


 しかし、この問題は、ならば頭のいい人が解析すれば魔法の改造など容易ではないか? という話だ。例えば、魔法陣の意味なり、魔力の根源なり、そういったものを求めていけば、自ずと答えや応用が見えてくる。


 実際、似たようなことはあった。魔法陣の意味を知り、それに合わせた形に魔法陣を重ね・・、魔法の効果を増幅するだとか、融合するだとか。そんな感じの応用は確かにいくつも存在した。シオンも「三帝」の一人もやっていたことだ。


 しかし、彼らが使っていた全ての魔法は、必ずMP消費量や威力、範囲に詠唱時間と、凡そ結果と呼べる全てが均一・・だった。


 魔力をもっと消費すれば威力が上がるんじゃないか、とか。
 威力を減らせばもっと範囲が広くなるんじゃないの、とか。
 詠唱時間をもっと長くすれば、魔力の消費量下がるんじゃ、とか。


 そう言った質問に、しかし魔法使い連中はたったの一言として、イエスを口にしなかった。


 曰く、「魔法は確定した事象だ」だの。
 「絶対の結果が待つものだ」だの。


 要するに、決まっているから、動かせない。それが個人の見解のようで、皆がそろって口にしたセリフは、「無理」の一点張りだった。


 だからこそ、僕は幾度も尋ねた。何故と。


 しかし、その返答も、「使ってみればわかる」とだけ。


 ただ、それだけだった。


 それは、あのシオンですら無理と断言した。あの、僕にとって最強の魔法使い……死霊使い? である彼女。彼女ですらああまで断言するのだから、諦めた。どうしようもないのだろうと、仕方なく諦めることにしたのだった。


 そして、今日。


 初めて、魔法という物に真剣に触れた。魔素看破や『影覇』が感じ取らせてくれた魔力という物。それらに触れ、僕は確かに納得し、そして否定した・・・・


 ああ、確かに、魔法の中には理が存在する。


 しかし、僕らには魔力を操る器官・・・・・・・が存在しない。
だから、意識的に動かせないんだ。だって、現実にはそんなものあるはずもないのだから。現実で魔法が使える人など、妄想や夢、物語の類だ。存在するわけがない。


 そして、魔法を意識的に動かせないなら、どうして僕らは魔法が使えるのか。あるはずもない魔力なる物を、あるはずがない器官で、どうやって動かすというのか。


 簡単だ。作ったのだ・・・・・


 この世界は電脳世界。誰の身体をどう弄ろうが、一定以上踏み込まなければ、現実には影響しない。だから、僕らの身体に魔力を植え付け、魔法を使う器官を作ったのだ。


 このゲームの魔法は理だ。だから、エフェクトで誤魔化せる従来のものとは違い、体の全てを根本から変えるしかない。


 それ故のアバター。全く違う自分。なぜなら、そういう形でないと、理に反して、存在できないから。
魔力0の人もいるかもしれない。しかし、魔力が無い人はいない。そういう世界ではないから。そんな世界に作られてないから。


 しかし。そうしかしだ。


 その器官が作られたのなら、まあ、いいだろう。


 魔力も、植え付けられたらしい。恐らくは植え付けというより、開花に近いのだろうけど、それもまあ、いいだろう。


 問題はその次だ。


 その手に入った身体を、魔力を、ではどうやって操って、魔法を発動しているのか?


 その疑問は、先ほど解消された。


「魔法ってさ、集中しなきゃ使えないんだってね」


 魔法は集中が途切れれば発動しない。何に集中しているのかと言われれば、魔力を集めることだという。でも、肝心の魔力の集め方、操作の方法は、わからない・・・・・のだという。


 要するに、赤子が数日で歩けないのと同様に、器官をうまく使いこなせていないのではないか。そうも思ったが、ではあの長いβ期間で、魔法を使いこなせる人間がいなかったのはなぜだ。その理由に説明がつかない。


 であれば、一番の可能性は――――


「魔力は、僕ら人間には根本的に操れない」


 だから、加護という名で与えられた職業の、スキルシステムが、その理を強引に突破している。それ故に、魔法には非常に高い集中力を要する。本来できないことを無理矢理しているのだから。


 そして、ただでさえ集中力を使う魔法は、もう魔力のことなんて考えている余裕はない。話す余裕もあるだろう、考える余裕も、戦う余裕もあるだろう。でも、魔力については、もともと考える事柄が思い浮かばない。力が抜ける感覚も、似た体験に被せてしまう。だから、知覚することが出来ない。


 見えても触れないし、触れても操れないし、そこまで行くともう無理だ。それ以上のことはできない。干渉が不可能だからだ。だからこそ、魔法使いたちは諦めたのだろう。


 ――――しかし、それは逆に言えば、余裕があれば・・・・・・操ることが出来る・・・・・・・・ということだ!


 さあ、長らくお待たせいたしました。


 これから、魔法の改造法、それをご覧に入れましょう。


 まず、魔力の知覚。先ほど言ったように、魔力は人間には操れない。それを神様の加護とやらで何とか使えるようにしているのが現状。であれば。


 その何とかしている・・・・・・・部分を、理解すればいいだけの話だ。そして、それが出来ない理由はそれを考える暇がないから。イメージがし辛く、実感がわかないから。


 しかし、僕はスタミナガン無視プレイにどっぷり浸かったブラック企業員だ。考える余裕は多分にある。イメージも簡単だ。これは要するに、魔法を使おうとするのでもなく、魔力を使おうとするのでもなく。


 加護を使おう・・・・・・とすればいい・・・・・・だけの話だ。


 皆、イメージが食い違うから、上手くいかないだけで。


 イメージを合わせて少しずつ慣らしていけば、魔法を操ることは容易なのである。実際、さっき僕が魔法にブースト掛けた時も、感覚としては何か、道具を使いながらやっているという感じだった。


 利用すべき対象が違うからこそ、上手くいかないのだろう。しかし、これに気づくのは難しい。加護が操っているとはいえ、見た感じも操った感じも、例えるなら手袋の上から操る感覚だ。まるで自分が操っているかのように見えるが、触れられるのは手袋のおかげだ。それを理解できず、食い違うのだ。


 だからこそ、考え違う。


 そう、僕は姉さんに説明した。


「どうよ?」
「まあ、筋は通っているわね……」


 姉さんは口元を引き攣らせながら返した。どうやらそんなゲーム有り得るわけがないと思っているらしい。


「でも実際そういうゲームなわけで」
「いやいや、だってそれってつまり、世界の創造に近しい・・・・・・・・・行為よ?」


 まあ、実際その通りなんだが。


 生命がいる、理がある、それらが矛盾しない環境がある。この時点で大分おかしい。そんなゲームっていうか、ゲームに限らず、そんな偉業は誰も成し遂げていない。


 そもそも、人間にはまだ解明していない謎がある。それは生命の神秘であったり、宇宙誕生の謎であったり、多岐に渡る。そして、世界の創造とは、それらのほとんどを知り得ないのなら不可能な行為だ。姉さんがビビるのも納得である。


 しかし、僕は気にしない。


 だって、ゲームなら有り得そうな話じゃない?


「まあ、そこはいいわ。納得した。でも、誰でもそんなことが出来るほど、甘くはないでしょ? 大体、今の今までそれを可能にできた人自体いなかったわけだし」
「そうなんだよね。そこがおかしいんだ。」




 僕はその原理を感じ取り、同時におかしく思った。


 その違和感の正体は、シオンだ。あの・・シオンが、この程度のことを・・・・・・・・できないはずがない・・・・・・・・・のだ・・


 あの天才が、こと一部の分野についてなら姉さんを優に上回る才女が、この程度の差異に気づかぬはずはない。彼女が、僕でさえ気づいたことに気づかないはずがない。


 何より、彼女は僕と同じ、スタミナガン無視プレイの経験者・・・だ。他には聞いたことがないが、彼女だけは絶対そうだ。


 にも拘らず、彼女すらも一度も魔法について、改造が可能だということは言っていなかった。それは彼女もできなかったということに等しい。


 彼女なら、終盤MPがほぼ無限にあったから、そのあたりの検証なんかは結構してそうなものだけれど。物に言わせて片っ端から実験しても彼女なら大丈夫だったはずだ。なのに、それでもだめだったのだろうか。


 気づくだけでは駄目なのか? イメージの仕方はこれであっているはずだ。すくなくとも、僕はそれで成功している。元の魔法をまだ使っていないからわからないけれど、少なくともスタミナの値が0になっている時点で成功しているのは間違いないだろう。一発一発撃つごとにスタミナ切れなんて、使えないにもほどがある。


 であれば、やっぱりまだ気づいていないのか? いや、ありえない。あの天才が、ちょっと考えればわかる程度のことに気づかないはずがない。少しだけ、魔力に意識を傾ければすぐにわかることだ。なのに気づいていないということはあるまい。
なら、やっぱり僕の方が間違っているのか? 数学の公式が、微妙な食い違いですら、答えに響くというのなら、まだ何か間違いがあるのか? 僕の大雑把な感覚ではとらえられない何かが……。


 しかし、僕は感覚で全て理解している以上、論理的に解明するシオンのやり方はどうしても相容れない。


 考えても答えは出ないし、よくわからないという結論にも変化は出ない。姉さんにも聞いてみたが、そもそもあったことがないからよくわからないと返されてしまった。そりゃそうだ。


 そうして、また少しばかり考えて、諦める。やめだやめ。こんなの無駄だ。どれだけ考えても、あの天才には敵わない。姉さんみたいな天才なら、少しは理解が及ぶ。でもシオンみたいな、理論で感覚を把握・・・・・・・・するみたいな矛盾したことできる天才には無理。意味不明。


 多分恐らくきっと、僕と彼女ではアプローチの仕方が違う。そういうことだ。そういう物だ。


 ひとまずそう結論付けて、僕は思考を打ち切る。これ以上考えても詮無きこと故。


「んじゃあ、姉さん。ステータスの方、決め終えた?」
「ん? うん。大丈夫。問題ないよ、ノープロブレム」
「そっか。じゃあ、これからどうする?」


 そもそも、ここでレベルを20まで上げるのが目的であったために、これ以上は特に考えていなかった。ぶっちゃけもう昼間だし、いったんログアウトして、ヤヒメ辺りを誘ってまたレベリングに励もうとか思ったり。


 しかし、僕のそんな提案は、言う前に却下された。


 姉さんの、意地の悪そうな笑顔と共に。


「ねえ、シキメ」
「何?」
「あの、悪魔のことなんだけどさ」
「うん」
「あれを呼んだ人のところ、行ってみない?」


 …………………へ?



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